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【加温熟成実験 番外編】常温熟成と飲み比べてみた。

日本酒WEBメディア「SAKE Street」さんに、とある実験の記事を寄稿させていただきました。少し無謀な実験かと思いましたが、好評の様で安心しました。

嬉しいことに実験で使用した日本酒「吉乃川」の方が記事を読んでいただき、お声掛けを頂きまして今回の企画と相成りました。

一般販売はされていない熟成古酒 特別純米原酒と、今年から販売開始となった長期熟成古酒ブランド「悠久乃杜」シリーズ。
今回並んでいるお酒の製造年度は左から2017、2015、2013、2010、2007、2005、2003です。

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実験で使用していた「吉乃川 特別純米酒」とスペックが近いとのことなので、加温熟成実験で作成したものと比較しながら、熟成酒の特徴や傾向をみていきたいと思います。

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加温熟成酒との比較

SAKE Streetさんに寄稿した実験で作成した熟成酒は、常温の熟成酒で5年前後に匹敵する香りが出ていると書きました。

まずは、熟成年度の若い3本と1か月の加温熟成酒を比較していきます。

2017
実際に年月を重ねている分、味わいは加温熟成にあったような荒い部分が無く、とろみも少し付いてなめらかになっています。しかし熟成香の強さは加温熟成酒と比較するとやや弱く、全体的にスッキリ寄りになっている印象です。山陰地方の熟成純米酒にも近い雰囲気の味わいとも感じました。明確に「古酒」と呼ぶにはもう少しだけ熟成香が欲しいとも思います。

2015
2017と比較して香りの厚さや奥行きが明確に強く、ここから一気に濃醇な香りになっています。加温熟成酒の熟成香と最も近いのはこの2015だと思います。香りと同様に味わいもよりふくよかに、丸みを帯びた印象になっています。実験に使用していた特別純米のアルコール度数は15%、今回の熟成酒は全て17%であることを考えると単純な比較はしにくい部分もありますが、味わいの強さや立体感、粘性は実際に年月を重ねた方が圧倒的に良いのでしょう。
一応度数をそろえてみたらどうなんだろう?と思って少しだけ水を足してみましたが、味わいがぼやけてしまったり粗さが出てきてしまったのでオススメしません。ウイスキーのような香りの開き方はしないようです。

2013
香りや味わい、粘性は年を重ねるごとに順当に強くなっていきます。熟成香の強さでは加温熟成酒よりも強いと感じます。
ただ、この年度の特徴なのかロット差なのでしょうか。酸味を思わせる香りがやや強く出ているようです。少し水を含んだ落ち葉みたいな香り?
他のヴィンテージのものよりも長期間の熟成でまとまるのでしょうか?今後の経過を注目していきたい1本でした。

加温熟成での特徴であった「粘性の少なさ」や「余韻の短さ」に起因する不完全さのような印象は常温熟成では感じられず、年度に関わらず「一つの味わいとしてまとまっている」というのが印象的でした。実際に年月を重ねた日本酒には無二の味わいが生まれます。しかしこの工程を短縮できる手段が万が一にも無いのか、少し気になるところです。


その先のヴィンテージ

2010年以前の古酒は想定していた年度とかけ離れるために加温熟成酒との比較が出来ないので、ここからは熟成の年度ごとに生まれる効果を見ていきます。

2010
商品化されている「悠久乃杜」の2010年。商品販売ページに「熟成した香りと味の中に、若さにつながる軽快さとハリが感じられ、古すぎない古酒としてバランスのとれた風味が堪能できます。」とコメントがあったように、長期熟成古酒として遜色のない香ばしさがありながら、どこか軽快さをも思わせる味わいです。2013年と比較しても意外なほどに後味が軽く感じます。
こちらを基準として残りの3本も見ていきましょう。

2007
まず香りをかいで印象的なのが蜜蝋のような油脂成分を思わせる香り。2010年と同程度の強い香りの上に覆いかぶさるようにして味わいの面で感じられますが、この香りが少し浮いているようにも思います。飲んだ後の余韻も長く、重厚感がここから飛躍的に上昇したことを感じさせます。特徴的な香りがあると、熟成由来なのかヴィンテージごとの特徴なのか気になる部分でもあります。

2005
2007年に感じた蜜蝋のような香りもありながら、この香りと熟成香を含んだ味わいとが馴染んできているように思います。2010年から比較すると味わいの重心が段々と後ろに落ちてきていて、腰の据わった重厚な熟成古酒になっていると感じます。商品販売ページには「長い時を経て熟成された華やかかつリッチな味わい」とありますが、5年で熟成香以外にここまでの変化が起きるのは正直驚いています。

2003
2005年よりも熟成香と油脂成分様の香りが溶け込みひとつにまとまることで、これまでで最も重厚で据わった印象の味わいになっています。香りや味わいが浮いているということは無く、尖ってはいるけれどずっとなめらかさな舌触りです。重厚で芯のある味わいなのですが、これらが合わさることでバニラ香とも違う新しい香りが生まれてきているようにも感じています。
2010年は「口に含んだ瞬間が最も味が強い」という印象でしたが、2003年は「飲み込む直前が最も味が強い」と感じます。
この部分の違いは熟成年数が進むにつれて生まれるものなのでしょうか?
しかし味わいがブレないイメージのある吉乃川さんでは、「この年度が特別だった」とは考えにくいものと思います。

まとめ

熟成前はふくよかながら糖分やアミノ酸は高くなく軽快な味わいなので、年度を経るに対して色彩や味わいはそこまで濃醇にはならなかったと思います。特に糖分やアミノ酸を必要とするメイラード反応由来の香りにはこの酒質では限界があるものと思います。
ですが、熟成年数が10年を超えた段階から初めて感じられる香りもありました。油脂成分のような香りで、泡盛や熟成された蒸留酒でも時折感じる「高級アルコール」のような成分なのだと予想されます。もしかしたら今後「ある一定ラインの金額を超える熟成酒にはこの香りが必須」ともなるかもしれません。

日本酒では10年以上の熟成酒は商品として多くは販売されてはいませんが、今後このような商品が増えることを期待していきたいと思っています。

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