ハードボイルドかつ繊細な映画『ドライヴ』
おそらく、この映画が公開されるまではライアン・ゴズリングの代表作は『きみに読む物語』だったでしょう。
泣ける恋愛映画の決定版として人気を博した作品でしたが、ごく個人的な好みでは、あまり好きなタイプの映画ではありませんでした。
『きみ読む』のヒットにより、おそらくは大作への出演のオファーが殺到しただろうゴズリングは、しかし、その後は『ハーフネルソン』や『ラースと、その彼女』など質の高い小品への出演を続けます。
そして、この『ドライヴ』がインディーズ映画でありながらカルト的な人気作となり、ゴズリングは新たな代表作を得たのです。
監督を務めたニコラス・ウィンディング・レフンもまた、この映画をきっかけに知名度を一気に拡大。
日本でも立て続けに過去の監督作がディスク化されました。
今回はそんな『ドライヴ』の感想を書きます。
■言葉を削ぎ落とした脚本
この映画はとにかくセリフが少ない。
冒頭の「逃がし」のシーンから、ほとんど言葉を発しないのです。
無線から流れる声、エンジンの唸り、タイヤの擦れる音、視線の動き、 そういったもののみで緊迫感を表現し、初めから観る者を引き込んでいきます。
その冒頭から、逃がし終えた主人公の歩く姿を映しながらのタイトルコールは最高にカッコいい。
作り手の素晴らしいセンスが窺えます。
その冒頭に続く、序盤から中盤にかけても、言葉は少ないですが、視線の動きや仕草、表情などで伝え合うその様に、初々しさや生々しさがあり、 画面でありながら人肌というものを感じさせます。
そして、事件に巻き込まれていく段では、内に抑えつけられていた暴力性が滲んできます。
それもやはり、削ぎ落とされた脚本の力によるものが大きいと思われます。
普段、あまり口を開かない主人公が、迷いなく発するからこそ、言葉が強烈になり、 その意志の強さと、抗えない恐怖をも与えるものとなっています。
■ライアン・ゴズリングの演技
主人公を完璧に演じたゴズリングの演技は素晴らしいものでした。
その表情、視線の動き、仕草、動きの緩急のつけ方などにより、寡黙な中にある奥行きを見事に体現しています。
特筆すべきなのは暴力性の表現です。
抑えがきかなくなった暴力の衝動、それでもギリギリの線を越えまいと耐えるその様子が 、表情や震える拳、声の出し方などで素晴らしく表現されています。
しかも、それは演じ過ぎのきらいがないため、静寂の中の暴力と調和し、格好よく映ります。
ただの暴力性にとどまらず、繊細で孤独な雰囲気を纏っているのもポイントです。
言葉の少なさと、彼自身がもともと持っている翳りがうまく呼応し、主人公に暴力性とは相反する繊細さを与え、その人物像の複雑さ、多面的な様子を滲みだしています。
■暴力による映像美
徐々に剥き出しにされていく暴力は、 言葉少ない静寂と色を抜き落ち着いた画面の中で鮮烈な印象を与えます。
静かな緊迫感の中、突如、解き放たれるそれは、まるでぱっと血色の花が開いたようなのです。
静とのコントラストのため、暴力が画面の中で美しく映えています。
また、暴力に差し挟まれるロマンスも美しいものでした。
緊迫した中で、解き放たれる愛情には、ある種のカタルシスが含まれています。
静の中の暴力は鮮烈で美しいだけでなく、深い孤独を表現することに貢献しています。
その強さにより、他人とは相容れない主人公の様子が伝わってくるのです。
しかし、一方では、彼が他者との繋がりを求めていることが口数少ない中に語られてもいます。
繋がりたいが、そうはできない、そのストレートな孤独感が心に沁みます。
そして、ラスト、ふっ、と未来を意識させるような瞬間が訪れます。
しかし、それでも、他者と繋がりきらない。
その切なさが観終わった後にも深い余韻を与えています。
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