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Sleepの「Dopesmoker」は1リフではない

Sleepというバンドの「Dopesmoker」という曲をご存知だろうか。
1曲63分、「水パイプを片手に人生をドロップアウトし、リフに満ちた国を目指す」という内容の、マリファナで頭がおかしくなった人たちがバンド生命を賭けて作ったストーナーロックのマスターピースである。1995年に製作されたものの、リリースにあたってレコード会社と揉めに揉め、結局完全版が世に出たのはバンドが解散した後、2003年になってからという曰く付きの名盤だ。

この作品を語る時、「1曲1時間、しかもほぼ1リフ」という説明がなされることが多い。筆者も聴く前からその説明を知っていたし、そういう作品を期待していたが、実際聞いてみるとどう好意的に解釈しても1リフではなかった。緻密に構成された本楽曲を1リフと説明することは、その芸術性を極端に矮小化するものである。本稿では実際の楽曲構成を明らかにしていきたい。

楽曲はこちらを参照されたし。見出しのアルファベットは構成、本文のアルファベットは音名である。音名は、本家のチューニングに倣い2音下げである。

イントロ1

0:17~1:32で一周。
B B D B F~で始まる形とB B D B D~で始まる形、それぞれ8小節ずつ、合計16小節でひとまとまりである。
ギター1本でこれを1回、ギターがもう1本逆チャンネルから入ってきてもう1回、バンド全体で2回演奏する。

イントロ2

ここから3拍子(8分の6拍子)に変わる。この時点で1リフではない。
5:26からの3拍は”つなぎ”と解釈したほうがよいだろう。
5:29~5:59で1周。8分の6拍子とすれば8小節。これを4回演奏する。
ここに限ったことではないが、リフの頭は意図的にはっきりさせないような作りになっている。本稿での1周はかなり恣意的な捉え方であることには注意してほしい。

イントロ3(preA)

7:29~8:25で1周。7:29~(ⅰ)と7:57~(ⅱ)という、1小節目のリズムのみが異なる大きな2つの塊を一纏めにして1周とした。8小節ずつで合計16小節である。

A

リフとしてはイントロ3と同じ。2回演奏する。ⅰがDrop out of life~、ⅱがFollow the smoke~に対応する。ここでもFollowの歌い出しが頭ではないので、油断すると拍を見失う。

イントロ2

初出時と同じく、4回演奏する。

ブリッジ1

4拍子に戻る。12:28~13:06で1周。ギターのみで1回、バンド全体で2回演奏する。

ギターソロ1

14:22~16:30。法則性は見い出せなかったのだが、4拍子で27小節ある。

B

16:30~17:08を1周とする。D D# Eから始まる3小節を2回にD E E Eの2小節を加えた8小節で構成される。後で出てくるパターンでは頭にEがあるので、Dを頭とするのか、ループの途中から始まっていると解釈するかは悩ましいところだ。3回演奏する。

ブリッジ2

18:24~18:50。繰り返しの要素はない。

B~ブリッジ2

同じ尺で再び演奏する。ただし、Bの頭にEが2拍追加されている。

ブリッジ3(preC)

ここから8分の9拍子になる。21:36~23:01で1周。8小節ずつの大きな塊に分割できる。ギターのみで1回演奏。

C

23:01~。ブリッジ3と同じ。2回演奏する。

ブリッジ4(preD)

25:52~26:10で1周。2周目以降は前の周の最後の音と次の周の最初の音がタイで繋がるため、拍が取りづらくなる。ギターのみで2回演奏。

D

ブリッジ4と同じ。バンド全体で4回演奏する。最後の小節から8分の6拍子になり再びCへ。

C

27:47~。2回演奏する。

ブリッジ4(preD)

30:38~。ギターのみで1回演奏する。

D

バンド全体で4回演奏する。最後の小節から8分の6拍子になりCへ。

C

32:33~。2回演奏する。

ブリッジ5

35:35~35:49で1周。ギターのみで2回(2回めはドラムがクレッシェンドで入ってくるが)バンド全体で4回演奏する。1回目の直前はアウフタクトと解釈して良いだろう。この後との繋がりを考えると、Fを頭としてカウントするとスマートである。

E

37:00~37:28で1周。4回演奏する。

ギターソロ2

38:54~39:32で1周。ここから4拍子である。Eで6小節、B♭で1小節、Dで1小節でひと纏まり。これを4回演奏する。

ブリッジ6(クリーンギターパート)

41:26~41:46と41:46~42:06に分割可能であり、ともに4小節で最後の小節が5拍になる。41:26~42:06を1周として、ギターのみで1回、静かにドラムとベースが入ってきて2回演奏する。

ブリッジ7(preF)

4拍子。43:27~43:45で1周。4回演奏する。

F

44:43~45:21で1周。2回演奏する。

ブリッジ7(preF)

4回演奏する。

F

2回演奏する。

ブリッジ8(preギターソロ3)

48:31~49:11で1周。大きく前半と後半があり、後半は前半を少し変えたものである。繰り返し部分の初め(48:52)は前半と大きく異なるが、その直前のフレーズを受けて変化したものであると解釈すると理解しやすい。ここも1周の最後の音が次の頭の音にタイで繋がるパターンである。ギターのみで1回、バンド全体で2回演奏する。

ギターソロ3

50:32~。ベースはブリッジ8と同じ。2回演奏する。

ブリッジ8(postギターソロ3)

2回演奏する。最後の小節のみ1拍増えている。

G

53:16~53:36で1周。4回演奏するが、4回目のみ最後のフレーズが異なる。4小節まとまりなのだが、始まり方が曖昧なため、なかなかそうは聞こえない。

H

54:37~55:18で1周。これを2回演奏する。2回目の最後はフレーズが異なる。

I

55 58~57:14で1周。前半後半で若干フレーズが異なる。前半後半ともに8小節で構成されており、最後の小節が2拍のみと捉えるとスマートだろう。これを2回演奏するが、2回目の最後はエンディングに繋げるために不規則な形になっている。

A

2回演奏する。序盤とは歌詞が一部異なるが、演奏は同じ。2回目の最後の小節が無くなっている。

イントロ1

2回演奏した後、B B D B F Eと演奏して、終わり。


以上により、Dopesmokerが19の(解釈によってはもっと多くの)リフを組み合わせた複雑な楽曲であることがお分かりいただけただろうか。しかも、変拍子やリズムトラップを盛り込んだ非常に知的な構成である。これを「マリファナで頭がおかしくなった人たちが作った、1リフで構成されたラリった曲」と評するのは、正直、何を聞いているんだ?と言わざるを得ない。

DopesmokerとJerusalemの差異

Dopesmokerには10分ほど短いバージョンが存在する。「Jerusalem」というタイトルで、リリースに難色を示したロンドンレコードを納得させるための短縮バージョンである(もっとも、結局ロンドンレコードから発売されることはなかったが)

DopesmokerとJerusalemについて、構成上どこが違うのかはあまり語られて来なかったので、ここで明らかにしておく。

a.イントロ2の尺が半分である。
b.ブリッジ1のバンド全体が入ったあとの尺が半分である。
c.”Procession of the Weed-Priests to cross the sand”が無くなり"Lebanon"に置き換わっている。演奏は変わらず。
d.2回目のCの歌が無くなり、尺としても後半部分のみになっている。
e.3回目のCが無くなっている。
f.”Weed-Priest, creedsmen chant the right”が無くなり"Golgotha"に置き換わっている。演奏は変わらず。
g.ブリッジ7~Fが1回ぶん無くなっている。歌詞は"The molten fire~to seek the cheribum"の箇所。

歌詞が変わっているところは”weed-priest”を減らそうとしたのだろうが、なぜ"weedian"は良くて"weed-priest"はダメなのだろうか。

終わりに

本稿を執筆するにあたって、Dopesmokerを15回くらい聞いたら少し体調が悪くなった。また、Dopesmokerを聞きながら眠ったところ養鶏場に監禁される夢を見た。用法用量は守ったほうが良い。


この文章は「note CREATOR FESTIVAL」のお題企画、「#スキな3曲を熱く語る」に充てようと思っていたが、適切な分量ではなくなってしまったのでこのまま出すことにする。有料部分はDopesmoker1リフ論に対する個人的な思いであるが、蛇足なので読まなくても問題はない。

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