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アベノミクス生みの親が激白「8%増税は失敗だった!」全文掲載-

文藝春秋 2017 新春特別号 124P  全文掲載

「アベノミクス」わたしは考え直した!!
-首相ブレーンが提案する新たな経済政策とは

浜田宏一 イェール大学名誉教授  内閣官房参与

「僕は、状況が変われば意見を変える。君はそうしない?」

 かつてマクロ経済学を確立したイギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズはこう言い残したことで知られています。私は2012年12月に発足した第二次安倍政権の内閣官房参与として、金融政策のアドバイザーを務めてきました。政策アドバイザーとは医者のような存在です。日本の経済という"患者"は、安倍政権が推し進めるアベノミクスと言う"処方箋"により、停滞した20年と言う"病気"から一応回復することができました。


 安倍首相が金融政策の効果をよく理解してデフレに立ち向かい、日本経済が生き返った事は日本国民が1番よく知っていることでしょう。実際、当初のアベノミクスは目覚ましい成果をあげました。私はその成果を100%認めています。しかし今、日本経済は世界各国で起こる波乱要因に翻弄されています。特に過去一年余り、予想外の出来事によって、アベノミクスはやや手詰まり感を見せています。私が日本経済新聞のインタビューで考えを変える発言をしたことが話題になっているようです。


 メディアは一般的に自分たちが信じることを学者や評論家に言わせる傾向があります。しかし、今回の日経新聞のインタビューはそうではありません。私が「自分の考える枠組みに変化があるときは、正直にそれを伝えたい」と思った事は事実です。今は、従来の金融政策に新たな政策を加えることで、日本経済回復への道筋がより強固となると明日考えるようになりました。

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11月15日付の日本経済新聞が掲載した浜田宏一イエール大学名誉教授(80)のインタビュー記事が波紋を呼んでいる。

<私がかつて「デフレは(通貨供給量の少なさに起因する)マネタリーな現象だ」と主張していたのは事実で、以前言っていたことと考えが変わった事は認めなければならない。> 

アベノミクスの理論的支柱である浜田氏の突然の転向、多くの関係者は驚きを持って受け止めた。従来の考えを変えた経緯と理由とは何なのか。

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金融政策という薬

 2013年4月、日本銀行の黒田東彦総裁は前年比2%と言うインフレ目標掲げ、量的、質的金融緩和(QQE)を打ち出しました。アベノミクスの「第一の矢」です。QQEは当初、抜群の効果を発揮しました。民主党政権時代の8000円台だった日経平均株価はぐんぐん伸びて、15年4月7月には15年ぶりにに2万585円に到達しました。効果は実体経済にも波及し、雇用者は第二次安倍政権発足後3年間で約150万人増、東京ドーム30個を埋め尽くす人々が新たな職を得たのです。また、15年4月から6月期の企業収益は過去最高を更新。そして、16年度の政府の税収は約58兆円と、バブル期の1991年度(約60兆円)以来の高水準になる見通しです。


 ここで重要なのは、物価が上がることではなく、雇用や生産、消費が回復したことです。一部の経済学者は「物価目標」を重視しますが、私は物価目標それ自体は重要でなく、雇用等を伸ばす手段に過ぎないと考えているからです。マクロ経済政策には金融政策と財政政策があります。アベノミクス以前、多くのエコノミストや経済学者は財政政策を重視し、金融政策の役割を無視していました。その中で、当時学習院大学教授だった岩田規久男氏(日本銀行副総裁)は、ほとんど孤軍奮闘で金融政策の必要性と効果を解いていました。アベノミクスは「第一の矢」に出ましたが、その波及経路は「マネタリズム」によって説明できます。


 シカゴ大学教授のミルトン・フリードマンによる(物価を左右するのは、もっぱら貨幣供給量である)と言う理論でつまり、市場の通貨供給量を増やせばインフレを起こすことができる、と言う考え方です。岩田副総裁がかねてから提唱していた「人々の期待に働きかける金融政策」もマネタリズムに分類できます。彼は「インフレ目標を設定し、通貨供給量を増やせば、人々の(インフレへの)期待値が上がり、自然とインフレになる」と説明しています。そして私も、シカゴ学派のマネタリズムの国際版である「マンデル・フレミングモデル」と言う理論を基本にしてきました。「デフレはもっぱら貨幣的現象であり、金融政策によって提供できる」と説明してきましたし、アベノミクス発足当時所は、金融政策という薬だけで日本経済は立ち直ると思っていました。

衝撃を受けた論文

 ところが、昨年末から「QQEは頭打ちになっているのではないか」と思える事態が次々と起こり始めました。おそらく為替投機のせいでしょうが、為替市場の価格形成に不可解な動きが現れ、その結果、QQEの効果に陰りが出てきたのです。
また、14年の消費増税の消費抑制効果にあるQQEの効果が出ていない期間は、予想超える長さで続いています。QQEとは日銀が市場を通じて国債を買い、市場に出回った通貨が購買力を刺激する政策です。いわば、貨幣という金利がないものと、国債と言う金利がある物を物を交換しているわけです。ところが、金利はゼロに近い水準まで下がり、国債と貨幣で金利差がほぼなくなってしまった。りんごとみかんを交換していたはずなのに、気づいたらりんごとりんごを交換していた、と言うわけです。だからQQEの効果が弱まっている。これはケインズ経済学で「流動性の罠」と呼ばれる現象です。金利が0近くまで下落すると投機的需要が無限に大きくなり、金融緩和の効果がなくなる、と言うわけです。さらに、金融政策の効果を緩める現象が2つ起こりました。一つ目が外為市場で起こった異変です。経済学の原則では、(日本が)低金利の時は、円安になるとされています。円が売られるので、円の価値が下がるからです。ところが、11月8日(現地時間)にドナルド、トランプ氏が米大統領選挙で当選するまでの1年間はQQEの結果、日本の金利が下がっても円安にならなくなっていたのです。2つ目が、日銀が16年1月に導入したマイナス金利政策の効果が出ていないことです。マイナス金利政策とは、日銀の当座預金の1部に− 0.1%の金利を貸すと言うもの。ヨーロッパでは、欧州中央銀行(ECB)など4つの中央銀行がマイナス金利政策を導入しています。意図的に金利を押し下げることで、景気を活性化させ、2%のインフレ目標を目指そうと言うわけです。
金融機関にとっては課税的措置ともいえます。日銀の当座預金に預け入れるだけで手数料を取られるので、金融機関の収益は圧迫されます。そこで多くの銀行はこの政策に対して抗議の声を上げています。マイナス金利の範囲を広げたり、利子率をもっとマイナスに深掘りすれば、銀行に対する被害が拡大するので、銀行が神経質になる理由もわかります。ただ、銀行は、現在も過去の預金に対して+0.1%の利子を受け取っているので、私には、彼らの苦情は大げさで被保護企業が「補助金が少なくなった」と嘆いている様子に似ているようにも見えます。


 一方で、国民生活には良い影響があります。住宅ローンの金利は下がりますし、消費者金融の金利を押し上げる効果もあるからです。マイナス金利政策で、確かに金利は下がりました。しかし、理論上あるはずの円安効果は一切ありませんでした。そんな矢先の16年8月。世界の中央銀行のお祭りとも言える「ジャクソンホール会議」で、プリンストン大学教授のクリストファー・シムズ氏による基調報告がありました。シムズ氏は計量経済学の専門家で、11年にはマクロ経済における因果関係の統計的な研究に関する功績により、ノーベル経済学賞受賞しています。私はシムズ氏の論文を読み、衝撃を受けました。「金融政策はなぜ効果がない聞かないのか」という問いに、明快な答えを与えていたからです。シムズ氏は「金融政策が効かない原因は財政にある」と言うのです。中央銀行が量的緩和で貨幣量を増やしても、同時に政府が財政赤字を減らそうとして増税を行えば、インフレにはならず、デフレになってしまう。シムズ氏の分析は<貨幣の価値を究極的に保障しているのは国家の徴税権力である)とする物価水準の財政理論である>とする(FTPL)の応用でした。そして、現在の日本の状況も例に挙げて、なぜ金融政策だけではうまくいかないのかをズバリと言い当てていました。下寿司は、金融緩和が有効であることを認めた上で「より、より強い効果を出すためには、減税など財政拡大と組み合わせよ」と提唱しています。従来の経済学では、財政規律が緩むと、過度なインフレを招く上に財政赤字はかさみ、経済にダメージを与えることが強調されていました。しかし、シムズ氏は意図的に「赤字があっても、財政を拡大するべき(時もある)」と主張します。これは斬新なアイディアでした。シムズ氏の論文の内容にはっとさせられたのには理由があります。


 トランプ氏当選以前の円高傾向について、私は外国の実務家仲間と議論を交わしていました。「海外のヘッジファンドの投機が円を高含みにしているのではないか」こう主張する私に対し、ある友人がこう指摘してきたのです。「日本の財政はこのままで良いのか?消費増税と、将来のさらなる増税の見通しが、為替投機以上に日本経済の足を引っ張っていないだろうか」その時は聞き流していましたが、シムズ氏の論文を読み、両者がつながったわけです。これまで私は金融政策については様々な意見を述べてきましたが、財政政策についての意見は「消費増税反対」などに限られていました。しかし、シムズ氏の論文を読み、QQEが効かず、インフレが起こらない理由は、「財政とセットで行っていないからだ」とわかったのです。アベノミクスの金融緩和がうまくいっていた一方で、消費増税は景気を挫折させる方向に働きました。つまり、私は「(人々の)資源配分を改善するような政府支出や減税などによる財政政策を、金融緩和の手助けに使った方が良い」と言う点で考えを変えたわけです。ですが、金融政策を止めてしまえと言うわけではありません。金融緩和を止めてしまえば旧日銀体制に戻り、「停滞の20年」に戻るわけですからとんでもないことです。


 秋、紅葉の綺麗なプリンストンに、かつてイエール大学で同僚だったシムズ氏に会いに行き、「日本のマイナス金利政策は、失敗と思うか?」と尋ねました。やや意外なことに、シムズ氏はこう話ました。「マイナス金利はそれ自体が悪い政策では決してない。しかし、この政策で傷ついた主体を、政府は財政措置等で助けるべきだ。そうすれば、マイナス金利は良い政策ともなるだろう」金融緩和と財政政策をセットで考えれば次のような視野が持てます。


 例えば、金融政策の効果を阻害しているのは巨額の企業の内部留保です。15年度の内部留保は約378兆円。前年度比約23兆円も増えています。貯めた利益を従業員の賃金に還元せず、株主への配当も増やさない、投資にも回せないといった具合です。動かさないお金は何も生み出しません。しかしこれは金融政策では是正できない領域です。そこで、留保した利益を投資に回した企業減税する、あるいは内部留保そのものに課税するなど、財政政策で工夫すれば良いわけです。また、「金融と財政の合体」は、次のような政策に落とし込めば良いでしょう。インフレ目標と消費増税は二つで一つと考えて連動させるのです。例えば食料とエネルギーを除くコアコアCPI (消費者物価指数)が目標の2%を達成できた場合に限り、消費税を年々1%ずつ段階的に上げる。逆に目標達成できない場合、消費増税はずっと凍結し続ける、といった具合です。現在のように、インフレ目標は金融政策だけで目指して、増税だけあらかじめ時期を決めてしまうのでは金融と財政の足並みは揃いません。

仁徳天皇と「民のかまど」

 しかし一方で、財政赤字を拡大し続ければ国家財政が破綻すると心配をする人がいます。財務省による財政の無駄遣いをチェックする役割は重要です。国民に景気悪化の迷惑がかからない限り、消費税引き上げは政府債務を減らし、無駄な利子負担を取り除き、経済構成(経済的観点から見た人々の幸福)を改善し得るからです。しかし、実際に生活をしているのは国民であり、政府や財務省ではありません。一時的に政府に赤字が出ても、国民が消費を増やし、経済が潤えば、お金は税収として戻ってくるのです。前回の消費税の3%という大幅な引き上げは、消費の足を長々と引っ張っており、予定されている次回の引き上げも、旅人の行き先に見える黒雲のように、国民に不安を与えて消費を控えさせています。

 次のような逸話があります。第16代の仁徳天皇(290年から399年)は皇居から見下ろす家のかまどから水の煙が立っていないので、国民が貧しい暮らしをしているのに気づきました。そこで3年間、年貢を免除。宮殿が荒れ果てても民の生活を優先したのです。3年後、家のかまどの煙が立つようになり、天皇は喜ばれたといいます。この逸話はシムズ氏の主張そのものです。友人の多い財務省を批判するのは私が意図するところではありません。ただ、なぜ仁徳天皇の話をするかと言うと、経済学では国民の生活を第一に考えるので、宮殿だけを見るような財務省の考えは一面的だと言うことを読者に理解してほしいからです。また国全体のバランスシートを見れば、政府の負債である公債と日銀の負債である貨幣は、部門にとっての資産となります。イギリスの経済学者、デビット・リカードが唱えた「リカードの等価定理」では、<交際は増税と言う国民の将来の負債だから相殺される>、つまり民間の資産とは言えない、とされますが、一方でリカード自身が書いているように、実際はそこまで利口な国民はいません。今、お金を持っていれば「私は富んでいる」と錯覚するのが現実です。むしろ国民がデフレで困っている状況下では、その錯覚を利用して、公債と言”ニセ金"で皆を富んでいる気持ちにして消費を刺激した方が経済は活性化するのです。また、国の借金であれば消費者金融などとは違って返済期限もなく、将来世代に繰り延べすることもできます。日本の政情が安定していて、次期の納税者が存在する限り、公債を発行して税の繰り延べが可能なことなのです。

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11月8日、アメリカの次期大統領が誕生した。当初は泡沫候補とされていたドナルド・トランプ氏(70)が世論調査の結果を覆し、ヒラリー・クリントン氏(69)を破ったのだ。日本経済にとってもトランプ大統領の存在は大きい。アメリカ在住の浜田氏はトランプ大統領の経済政策をどう見ているのか。また、日本はどのように付き合っていくべきべきなのだろうか。

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毅然とした"通貨外交"を

 トランプ氏の当選はアメリカの知識人にとって大きなショックでした。トランプ氏はアメリカの「国家の品格」を捨て去るような言行を利用して、当選を勝ち取りました。その過程で多くの国民を怒らせ、不安にさせ、心配もさせました。今、アメリカが分裂国家にならんとする恐れはあります。他方、アメリカ人は、急激な変化や改革にも対応できる。例えば、1920年代には「禁酒法」を利用し、うまくいかないとそれを捨て去る勇気のある国民です。確定事実となったトランプ大統領への適応も早い気もします。


 オバマ政権が誕生した09年1月は、リーマンショックの直後で、アメリカ経済はほぼ壊滅していました。オバマ大統領が真面目に難題に取り組み、経済を立て直したのは実に大きな功績です。ですが、ショックの後でもあり、市場に対しては規制派でした。10年に成立したドッド=フランク法はその象徴で、銀行やノンバンクの業務内容を大幅に制限し、これが市場機能を歪める方向に働きました。トランプ氏は同法を撤廃すると公言してきました。当選直後に米株が急伸したのは、それが一因と言えるでしょう。


 ただ、トランプ氏の経済政策には未知数な部分が多い。選挙期間中、ジャネット・イエレンFRB(連邦準備制度理事会)議長の低金利政策を「恥を知れ」と批判したかと思えば、日本政府を「円安誘導している」と批判してドル安に誘導すると公言しています。ドル安にするには、低金利が必要なので、言っていることが矛盾しています。ただ、「必要とあらば財政出動はどんどん行う」と明言していますので、同時に金融緩和を進めれば大成功する可能性もあります。その全容がわかるのはまだ先のことですが。新生アメリカと向き合う日本には多くの難題が待ち受けています。


 現在は円安傾向が続いていますが、円高に触れる時もあり得る。もし1日に5円も6円も円高に触れるときには、財務省はアメリカに気を使いすぎないですぐに為替介入すべきでしょう。通商強硬派のトランプ政権が円安に対して「国防や企業保護貿易を強めるぞ」と言う威嚇をしてきても、毅然として対応する"通貨外交"の姿勢が必要です。トランプ氏の当選直後、安倍首相がすぐに面会して議論の糸口をつかもうとした事は、今後の日本にとって、大きな布石になるはずです。経済政策にとって最も重要なのは、物価が上がることでも財政が健全化する事でもありません。雇用、生産、消費など国民の暮らしがもっと良くなることです。ここまでうまく働いた金融政策の手綱を緩めることなく、現在も含めた財政政策で刺激を加えれば、アベノミクスの将来は実に明るいのです。

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