見出し画像

液晶テレビとリアルオプション

今回の経営学の理論はリアル·オプションを用いて、フィリップス、日立製作所、シーメンスを分析してみます。

リアル·オプションはファイナンスの分野で良く使われる、リスクヘッジするための考え方の一つで、将来を予め予測して、早めに対処することで利益を得る、または損失を一定に抑えられるようにします。

それでは、液晶テレビを例にリアル·オプション、特にプット·オプションを考えてみましょう。

なお、逆のコール·オプションは1つ前の記事で知財の特許と絡めて検討してみました。

液晶テレビ

今では液晶テレビと言えば韓国メーカーのサムスン電子や、LGなとが有名ですがこれを見越して撤退戦を三社共に行っています。中国メーカーのTCL やハイセンス製品も良く見るようになりました。

今では液晶テレビよりは競争優位は有機ELテレビに置き換わっていますが、2000年ぐらいは、プラズマディスプレイと争っていました。

フィリップス

フィリップスは、かつて液晶テレビのトップメーカーでした。企業の生まれの電灯からLED電球、液晶テレビを発光させるLEDそのものも手の内化しています。また後のNXP となる半導体事業を有しています。

電球から生まれた照明技術、そのブランド力でB2C でも液晶テレビを売りまくり、2005年には世界の液晶テレビの販売台数No.1 になります。

しかしその裏では、日本や韓国などアジアの企業が多数参入して来て、価格競争も激しくなっていました。

この状態を作ったのは多分にフィリップスのせいです。液晶テレビを擦り合わせの技術からモジュール化して組み立てる業界に変えて、TSMC や鴻海と提携します。

つまり、部品のディスプレイそのものや半導体チップに競争優位は収まるようにしました。

ファブレス企業が設計のみして製造を鴻海などに任せられることでこれまで一体設計して超過利益が生まれる環境は消えてしまいました。一部に特化して事業を行うことで、数の論理、規模の経済が製造をまとめることで発生しています。

ちなみに2000年ぐらいにはまだまだブラウン管が現役で、こちらはアナログの擦り合わせ技術が活きていたので日本企業が存在感を持っていました。

信じてもらえないんですが、私の家では今でもブラウン管が現役です。ソニーのトリニトロン、2000年前のもので型番はKV-21ST12 です。

縮小オプション

記事で見ると世界最大の液晶テレビ販売企業となりながら、プット·オプションを行使してフィリップスは撤退戦を始めます。

つまり、合弁会社のLGに事業を譲渡して利益を確定し、下振れリスクをヘッジしたとみる事が出来ます。

下記はフィリップス及び今回の関連子会社の特許出願件数の推移です。見事にフェードアウトしていることが描けていると思います。

画像1

LGは合弁会社を自社の中核として取り込み現役です。

事業縮小に伴い期待キャッシュフローの現在価値は減少しますが、売却のタイミングで確定させるプット·オプションを行使しています。縮小オプションと言えます。

それ以外にも、フィリップスは合弁した現地法人に、廃棄オプションを発動させています。事業資産の精算価値を現地法人に支払ってもらうことでプット·オプションを行使しています。

残りの2社も見ていきます。シーメンスは日本では自動車部品で有名なボッシュに事業を売却しています。これも縮小オプションですね。

画像2

日立製作所のジャパンディスプレイ切り離しからリアル·オプションの考え方を学びます。

株式会社ジャパンディスプレイ

従業員9,087人 (連結、2019年10月1日現在)

ジャパンディスプレイは、経済産業省主導の官民ファンドの産業革新機構(INCJ)が二千億円を投じ、日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合して二◯一二年四月に発足した。その前にはパナソニックの液晶部門が東芝に、セイコーエプソンと三洋電機の液晶部門がソニーにそれぞれ統合されていたので、日本の大半の液晶表示装置メーカーの液晶部門がJDIに集約されたことになる。ソニー・東芝・日立・トヨタ・三洋・エプソン・パナソニックの一部・キヤノンというと日本を代表する企業群で有り文字通り親方日の丸会社である。

でも今では赤字だらけでジャパンディスプレイは1266人の早期退職を求めている。

ジャパンディスプレイの知財分析

あまりに登場人物が多いので日本の特許出願から関係者を洗い出してみます。。

出願人名=ジャパンディスプレイ

で検索すると文献チェック数は12278件

出願人・権利者名で名寄せを行うと

株式会社ジャパンディスプレイ 7509

株式会社ジャパンディスプレイセントラル 3585

株式会社ジャパンディスプレイウェスト 1470

株式会社ジャパンディスプレイイースト 576

パナソニック液晶ディスプレイ株式会社 2060

三洋電機株式会社 95

株式会社 日立ディスプレイズ 2902

株式会社日立製作所 517

株式会社日立ディスプレイデバイシズ 127

日立デバイスエンジニアリング株式会社 182

マクセルホールディングス株式会社 4

株式会社日立国際電気 4

東芝モバイルディスプレイ株式会社 902

株式会社東芝 776

東芝電子エンジニアリング株式会社 125

ソニー株式会社 908

ソニーモバイルディスプレイ株式会社 38

キヤノン株式会社 118

三星ディスプレイ株式會社 129

ピクストロニクス,インコーポレイテッド

スナップトラック・インコーポレーテッド

シャープ株式会社

となりました。イースト?セントラル?と言うことで年表を拾って来ます。

<年表>

2013年4月1日に(旧)ジャパンディスプレイと事業子会社三社が合併、(新)ジャパンディスプレイとなった。
2013年1月 親会社である旧(株)ジャパンディスプレイ、兄弟会社(同一の親会社を持つ会社同士の関係をいう。以下同じ。)である(株)ジャパンディスプレイセントラル、(株)ジャパンディスプレイウェスト、及び子会社である(株)ジャパンディスプレイイーストプロダクツを吸収合併する合併契約を締結。
2012年4月 (株)日立ディスプレイプロダクツが(株)ジャパンディスプレイイーストプロダクツへ社名変更。
2012年3月 キヤノン(株)が保有する株式24.9%を(株)日立製作所が譲受。

キャノンに廃棄オプションを使われた。

2012年3月 (株)日立ディスプレイズの全株式を旧(株)ジャパンディスプレイが取得し、旧(株)ジャパンディスプレイの子会社となる。
2012年3月 (株)産業革新機構、ソニー(株)、(株)東芝、(株)日立製作所からの出資により資本金1,150億円、資本準備金1,150億円に資本増強。

言葉通りなら拡張オプションなのですが、産業革新機構が入っているので中断、再開オプションみたいにもみえます。市場自体は拡大しているので段階的に投資する段階的オプションです。内部の人しか分からないでしょうか?

2012年3月 ソニー(株)、(株)東芝、(株)日立製作所よりソニーモバイルディスプレイ(株)、東芝モバイルディスプレイ(株)、(株)日立ディスプレイズの全株式を取得。
2011年11月 (株)産業革新機構、(株)日立製作所、(株)東芝、ソニー(株)の4社が(株)日立ディスプレイズ、東芝モバイルディスプレイ(株)、ソニーモバイルディスプレイ(株)の統合契約を締結。

規模の経済を日本企業の合算で得たかったけど、今から見たらこの時点でアジアの海外企業に譲ってしまえば、良かった。

2011年9月 東京都千代田区丸の内に中小型ディスプレイデバイス及び関連製品の開発、設計、製造及び販売を事業目的とした、(株)ジャパンディスプレイ統合準備会社(資本金15百万円)を設立。
2011年4月 (株)日立ディスプレイデバイシズ及び(株)日立ディスプレイテクノロジーズを吸収合併。

縮小オプションを行使して合体しています。

2010年7月 千葉県茂原市に(株)日立ディスプレイプロダクツを設立。
2010年6月30日、日立ディスプレイズが会社分割によって「株式会社IPSアルファ支援会社」を新設し全株式を支援会社に譲渡、パナソニックと日立製作所が支援会社の全株式を取得した(パナソニック94%・日立製作所6%)。その結果、実質的な出資比率はパナソニック92%・日立製作所3%・DBJ新産業創造投資事業組合など少数株主が5%となり、経営権が日立ディスプレイズからパナソニックに移った

大型ディスプレイについて廃棄オプションを発動させてパナソニックに売却しています。パナソニックからみたら大型ディスプレイに将来性を感じて拡張オプションみたいです。

2010年6月 パナソニック(株)が保有する株式24.9%を(株)日立製作所が譲受。

2008年3月 (株)日立製作所100%出資から、(株)日立製作所50.2%、キヤノン(株)24.9%、松下電器産業(株)24.9%出資に変更。
2003年7月 (株)日立デバイスエンジニアリングを吸収合併し、(株)日立ディスプレイデバイシズと(株)日立ディスプレイテクノロジーズへ会社分割。
2002年10月 東京都千代田区神田練塀町に中小型液晶ディスプレイ製造及び関連製品の開発、設計、製造及び販売を事業目的とする(株)日立ディスプレイズ(資本金100億円)を設立。(株)日立製作所より、日立顕示器件(蘇州)有限公司、深圳日立賽格顕示器有限公司、及び高雄日立電子股份有限公司を取得し子会社化。

という年表です。

日立のテレビをまとめると

2002年に日立製作所からディスプレイ事業に関わる部門が分社化し、後のジャパンディスプレイとなる日立ディスプレイズが誕生します。のでこの時点でオプションを作るための準備は既に行っています。

その後、テレビ向けの大型液晶パネルに関する事業は、2006年に設立した子会社「株式会社IPSアルファテクノロジ」(現・パナソニック液晶ディスプレイ株式会社)に移管して中小型に特化します。ので一部について廃棄オプションを行使しています。

2012年3月にジャパンディスプレイの事業子会社となり、同年4月に株式会社ジャパンディスプレイイーストへ商号変更しています。なおジャパンディスプレイによる子会社化と同時に、キヤノンは資本を引き上げている。

総合電機メーカーの中で異色だったキャノンが主体にやると思ってオプションを作っていたのがあてが外れて逃げられたということでしょうか?

テレビ撤退戦をみたら、裏では多数の人間が関わる人間模様が現れます。

撤退戦を特許出願数から事前に分析できるかもましたか、下々のとこに情報は落ちてこないので難しいですね。

まあ金がなくて絞ることは多々あるのでゼロでは無いですが。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?