サンゴとマングローブの海から沖縄県最高峰まで走る ZEROtoSUMMIT 沖縄篇(41/47)
2022年12月11日
東シナ海~宮良川~於茂登岳 526m~名蔵川~東シナ海/26.5km
ひと筋の川をたどって海から山頂まで走るZEROtoSUMMIT(ゼロサミ)という遊びをやっている。
その国内篇として、全国各都道府県の最高峰まで海から走るゼロサミ47を2016年にはじめた。
これまでに40座を走り終えている。
地図と睨めっこして、山頂に落ちた雨粒が海に注がれるまでの流れを確かめる。
いくつかの流路の中から、走りたいラインをひとつ決める。
そしてその河口まで行き、海にタッチする。
振り向いたその瞬間からゼロサミは始まる。
東シナ海から宮良川ぞいに於茂登岳まで走る
沖縄県の最高峰は石垣島の於茂登岳(おもとだけ/526m)で、本島の与那覇岳(よなはだけ/503m)よりすこし高い。
ゼロサミをやっていなければ登りたいと思うことすらなかった、そんな山の代表格だ。
於茂登岳に降り落ちた雨粒は、名蔵川(なぐらがわ)または宮良川(みやらがわ)となり、それぞれ名蔵湾と宮良湾にそそがれ、サンゴが広がる東シナ海となる。
どちらをたどるにしても登山道は一本しかない。
標高が高くないので、現地で様子を見ていけそうなら沢筋を詰めてもいいかもしれない。
とりあえず宮良湾から宮良川をたどり、登頂後は名蔵川ぞいに海まで戻ってみよう。
12月の石垣島へ
乾いた寒風が身にこたえる。しかしそれもあと数時間でどこ吹く風だ。
朝一番の飛行機で沖縄に向かう。本島には何度か行っているが、八重山列島は初めてである。
家族四人で真夏に訪れ、子どもたちが海で遊んでいる間に走るつもりだった。しかし現実は厳しい。予算の都合で、冬の単独行に落ち着いた。
W杯日本代表敗戦の余韻が残る12月上旬、ネットカフェで一夜を過ごしたあと、成田から石垣島に飛んだ。
0日目(2022年12月10日)
空港の窓から、さっそく於茂登岳とご対面。
気温は25度。東京よりかなり暖かい。
三日間の滞在期間内でやりくりして雨を避けて走るつもりでいたが、スコールの波が断続的に押し寄せてきており、それは無理だと早々に悟る。
開き直って、今日は石垣島散歩に専念しよう。
まずは白保の海岸へ。足もとはすべてサンゴのカケラだ。いきなりド直球の石垣島ワールドに軽くたじろぐ。
白保食堂で昼食。地元客はみなトンカツ定食を頼んでいた。
コンビニで水分補給(たしかオリオンという銘柄だった)をしながらひたすら歩き、バンナ岳の展望台に向かう。
陽が落ち、街明かりが眼下に広がってきた。
竹富島も向こうに見える。
夜景を堪能してから丘を下り、繁華街を抜け、崎原公園に到着。
半分以上酔っ払ってたけど、30km近く歩いた。
夜風に吹かれながら、何本目かのビール、いや水分を補給して眠りについた。
1日目(2022年12月11日)
朝7時起床。日本西端だけあって夜明けが遅く、まだ薄暗い。
小雨が降ったりやんだりでモチベーションは低いが、エイヤッと宮良湾に向かう。
マングローブ林が広がる宮良川河口。同じ南国でも、2019年に走ったゼロサミ最南端の屋久島とはまったく異なる風景だ。
飛行機が石垣島空港に向かって降りてゆくのを見上げてから、わずかな砂地で東シナ海にタッチしてスタート。
海から山までの距離感、山というより丘と呼びたくなる標高、小舟を浮かべたくなる川幅と水量、そしてすぐに町を離れていく感じ……
それらが同じぐらいだからだろうか。どことなく千葉篇(太平洋~丸山川~愛宕山)で見てきた風景と似ている。
植生は異なるが地形が似ているせいだろうか、牛舎が点在することも共通する。
沖縄なのに豚じゃなくて牛なのは、石垣島ならではの光景なのだろうか。
サトウキビ畑が広がっているところには沖縄を強く感じる。
川ぞいの道はほとんどなく、川からすこし離れた農道を北上する。
川を横断する道が現れるたびに橋まで足をのばし、於茂登岳を背後にゆったりと流れる宮良川の姿を確かめる。
草むらの中を進むときは緊張する。
もしハブに噛まれたら、その場で強制終了は必至だろう。
相手が熊なら、話し合えばなんとかなりそうな気もするが(なんともならないだろうが)ハブとは無理だ。
どうかハブが出てきませんように。
10kmをすぎて山の麓に入ってきた。
真栄里(まえざと)ダムを横切るとき、あることに気がついてしまった。
このダムがなかったころの宮良川は、どんなにきれいだっただろうか。
かつての宮良川はどんな流れだったのだろう。
ダムで得られたものも大きいだろうが、失ったものもやはり大きいに違いない。
登山口についた。
高尾山の谷ぞいの登山道(六号路)に似た雰囲気の道を進む。
ただ、ここは登山者がすくなく、道もあまり踏まれていない。
だからというわけでもないが、こともあろうに道に迷ってしまった。
すぐに戻れたが、ちょっと焦った。
標識もほとんど無いので、ぼくみたいに迷うヒトもすくなくないかもしれない。
登山道が一本しかないのもよくわかった。草丈が高すぎて、登山道を外したらとても歩けたものではない。
於茂登岳山頂は背丈の高い草に囲まれ、展望もなく、素っ気ない。
海上の孤峰らしく風が唸りをあげているので、写真だけ撮って逃げるように頂上を離れた。
下山中、立派なカメラを手にした男性とすれ違う。山中で会ったのは彼一人だった。
名蔵川(なぐらがわ)ぞいに海をめざして下っていると、腹が減ってきた。
15時前、数少ない食事処がありそうな石垣やいま村に着いたが、食堂は30分前に閉まっていて心底がっかりだ。
しかたなく一袋100円のサーターアンダギーを3袋買い、念のために2袋をザックにしまう。
これがあとで絶大な効果を発揮するとは、そのときは思いもしなかった。
やけに鳥が多い名蔵アンパル(干潟)にゼロタッチし、海~山頂~海のリレーを完成。
ZERO-SUMMIT-ZEROは、鹿児島、長崎、山形、鳥取につづいて、これで5県目だ。
海に戻ったとたんに雨が降りはじめてきた。
どんよりとした曇天でいっこうに上がってこない心を泡盛でなだめながら、今宵の目的地、川平(かびら)をめざし、さらに北に向かった。
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