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神田伯山新春連続読み『畔倉重四郎』2024 2日目

2日目。ついに『畔倉重四郎』の始まりだ。

悪事の馴れ初め

畔倉重四郎が人殺しを始める前の話。
真人間だったはずの若い畔倉の歯車が少しづつ狂い出していくところを「あちゃー」と思いながら見る感じだった。
でもこの時の畔倉は、後のことを思えばまだまだ善人。善人が悪に染まる過程が描かれることで、どんな善人も悪人になり得るのかもしれないという危うさを感じながら観た。
この一席があるからこそ、見る側はゆくゆく畔倉に感情移入していきやすいのかもしれない。

穀屋平兵衛殺害の事

おなみに直接恋文を渡したにも関わらず、本人が読む前に乳母が取り上げ、無筆の乳母は自分では読めないからとちょうどそこに居た穀屋平兵衛の竹馬の友である杉戸屋富右衛門に読んでもらう。富右衛門はその恋文を平兵衛に見せてしまい、平兵衛が激怒して畔倉を出禁にする。
この場面、後々平兵衛が殺されることに繋がると考えると、おなみが一番不憫で一番悪いのは乳母じゃないかという思いがよぎった。おなみは自分に渡された手紙を直接読むことも出来ず、そのままお父さんを亡くしてしまうのだから。乳母がおなみを守りたい気持ちはわかるが、結果論で言ってしまえば、おなみを不幸のどん底に落としたのは乳母だろうよと個人的には感じてしまった。しかし、女子どもには権利がない、その代わりに責任もないのがこの時代。だから恋文をめぐる展開をまるっと全て聞いた畔倉も、富右衛門は責めても乳母は責めないのだろうと、一人で妙に納得していた。
そして畔倉が初の殺しの準備を始める。富右衛門の煙草入れを偶然拾った三五郎にその煙草入れをくれと交渉する畔倉が、三五郎に破格の値段での買取を持ちかけながら涼しい顔を見せる演出にゾッとした。色男の畔倉、という前提が語られた後にこれがあるから、人殺しを目論みながら爽やかイケメン風を吹かせている畔倉の恐ろしさが際立って感じられる。
そして穀屋平兵衛殺害の場面。良い。すごく良い。でもまだ序の口。そう感じさせられた。

城富歎訴

平兵衛殺害の濡れ衣を着せられて牢屋に入れられた富右衛門。その息子で盲人の城富が、父の無実を信じ、按摩として老中に呼ばれた際に平兵衛殺害の件を調べ直してほしいと懇願する話。
城富が親から愛情をかけられて真っ直ぐに育った人間であることが、端々から伝わってくるような演じられ方だったと感じる。実は過去にYouTubeに上がっている伯山先生の『畔倉重四郎』を全て観た時、城富という人が大好きになった。城富の存在が残酷な話の中の希望であるのはもちろん、聴く者の心のオアシスでもあるのかもしれない。

越前の首

富右衛門を大岡越前守が再吟味することになり希望を抱く城富だったが、富右衛門の首が面の皮を剥がされて晒されていると偶然耳にし、大岡越前守を本人の面前で責める。
聴き手としては大岡越前守が再吟味の結果、富右衛門の無実を確信している場面が先にあるので、富右衛門と書かれた首の面の皮が剥がされているところで何らかの計略があると感じられるわけだが、城富はそんな事情も露知らず、晒された首を実際に触るのも大岡越前守と出会った後の話だ。計り知れない感情であることは間違いない。
首を供養した後に、夢で首の主にお礼を言われるが声が違う、というところで初めて、首が父のものではないかもしれないと思い始める。でもそれも夢の中の話。昔の人は今の人よりも夢を信憑性のあるものとしていたわけだが、それでも城富はこの夢をどこまで信じられたのだろうか。

会場配布パンフレットより


話の流れは覚えていても話の切れ目がどこだったかはうろ覚えで、上の感想はそれをネット検索などで調べながら書いていた。
そしたら東京公演の感想をnoteで書いている方がいたので参考にさせていただこうと思ったのだが、一話目がどうもボリューム満点だった。こんなに進んだんだっけ?と首を傾げながら記事の続きを読んでみると、どうやら東京公演では一話目の話の切りどころが間違えてずいぶん後ろになったそうだ。でも話の内容の区切りどころとしてはキリも良い。連続読みならではのエピソード、おもしろいものだ。
せっかくなのでその記事のリンクを貼らせていただく。

あと、ここからはただの余談。
初日公演終了後のX(旧:Twitter)で、6日間通し参加の人が「みんな公演が終わるとすぐ会場を出てアンケートを出しているけれど、いつの間に書いているんだろう?」という旨のポストをしていた。それが記憶に残っていた自分は2日目通し公演が始まる前の会場のトイレで用を足しながら(みんな仲入りとかで書くのかな。それならいいとして先に書いちゃう人とかいるのかな?いやいや大学の講義のリアクションペーパーじゃあるまいし)と考えていた。
そしたら2日目の隣の人は、自分よりも若いかもしれない20代の方(アンケートの回答が見えてしまった)だった。勝手に親近感が湧いていたのだが、その方が公演開始前にアンケートの感想欄をガーッと文字で埋めつくし、開始後もしばらくアンケートの裏かどこかに目いっぱいのイラストを描いていた。本当に大学のリアクションペーパーみたいにやってるんじゃないよ!先生の話を聴けよ!と内心でツッコミを入れてしまったのは内緒だ。

さて、3日目はどうなるか。
3日目の会場に向かう電車の中でこの記事を投稿しながら、楽しみにしている。


現状、自分の生き様や思考を晒しているだけなので全記事無料です。生き様や思考に自ら価値はつけないという意志の表れ。 でも、もし記事に価値を感じていただけたなら、スキかサポートをいただけるとモチベーションがめちゃくちゃアップします。体か心か頭の栄養にしますヾ(*´∀`*)ノ