大人の女性のための妄想話

朝は日が差して心地の良い暖かさだった。
その暖かさに油断して、軽装で出掛けたのが間違いだった。
仕事を終わらせ外に出ると、肌寒さに身がすくんだ。

「こんなに寒くなるなんて聞いてないよ」

と思わず愚痴が出てしまう。
今日はなんだか歯車が噛み合わない日だった。
小さなミスが重なって、いつもなら気にしないことが気になって、ずっとイライラしていたように思う。
ついてない日は、とことんついていないものだ。
地元の駅に着くと、空は雨模様に変わっていた。
鞄の中にいつも入っているはずの折り畳みは、今日は荷物が多いからと家に置いてきていた。
傘を買うにも、コンビニまで少し歩く。

「はぁ、、、本当今日はダメだなぁ」

無情に降り続く雨空を少し睨みながら、どうしようかと雨宿りがてら考えていると

「おかえり!お仕事お疲れ様!寒かったでしょ?」

と低くて丸い聞き心地のいい優しい声が聞こえてきた。

「えっ?」

と声のする方を見てみると、そこにはビューネくんが傘を差し、私のストールを持って立っていた。

「〇〇の折り畳み傘家に置いてあるんだもん!それに結構薄着だったでしょ?迎えにきちゃった♪ほら、これはおって」

ポカンとしている私に、さっとストールをかぶせ、そのまま私の手を取った

「行こ♪」

手を繋いだまま、相合傘で帰路に着く。
私はまだ混乱中だ。
どうして??なんて思いながら彼の顔を見る。

「ん?どうしたの?」

と不思議そうな顔で私を見つめるビューネくん

「えっと、ありがとう、、、」

さっきまで絶望を感じていたのが嘘のようだ。繋いだ右手からビューネくんの暖かさが伝わって凍った心が溶けていくよう。

「今日は思いっきり甘やかすからね♪」

満面の笑みで答えるビューネくんが眩しくて、私は目を細める。
そうこうしてるうちに家に着いた。
あれ?なんだかすごくいい匂いがする。

「へへっ実はね、ご飯も作ってあるんだよ♪もうちょっとで出来るから先にお風呂入ってきて♪」

そう言うとビューネくんは着替えとタオルを私に渡し、エプロンを装着してキッチンへと向かった。
私は言葉に甘えてお風呂に入る。
髪と体を洗い、ビューネくんが貯めてくれた湯船に浸かる。
日々仕事と時間に追われて、湯船に浸かることさえ久しぶりだ。
寒さとストレスで凝り固まった体がほぐれていく。なんだか、体の中に溜まった悪いものが全て溶け出ていくようだ。
お家でできる1番の贅沢かも知れない!なんて考えながらお風呂を満喫した。

お風呂から出ると、ビューネくんが待ってました!とばかりに駆け寄ってくる。

「〇〇は髪乾かすの苦手でしょ?」

と言ってドライヤーを持ってさっそく髪を乾かしてくれた。
櫛で丁寧にとかしながら乾かしてもらっていると、なんだか自分がとても大事にされているように感じる。なんて幸福な時間なんだろう。

「はい!できました」

の声で鏡をみるとサラサラになった髪が。
一体どうやったらこんなにサラサラになるんだろう?としげしげと自分の髪を見てしまう。

「へへへ♪〇〇が髪乾かすの苦手だから、いつかやろうと思って練習したんだよ♪さっ!お腹減ったでしょ?ご飯食べよ?」

テーブルにはいつの間にか私の大好物ばかりが並べられていた。
グラスには冷たく冷やされたビールが注がれていた。
2人で乾杯をした後、料理を食べてみる。どれも美味しい!
夢中になって食べていると

「どうかな?美味しい?」

と心配そうな顔で聞いてくるビューネくんがいた。
もちろん!と首を縦に振ると満面の笑みで微笑み返してくれた。

お風呂も入って、お腹いっぱいの私が眠くなるのに時間はかからなかった。ふぁ〜っとあくびが出る。

「今日は一日お疲れ様!眠いんじゃない?ベッド行こっか」

そう言ってビューネくんは、私をベッドまで連れて行った。
とは言え、そうすぐに寝れるものではない。
私の寝つきもそこまでいい方ではないのだ。
どうしよう、、、寝ないと、、、と焦るほどに先ほどまで感じていた眠気が遠のいていく。

「大丈夫、〇〇が寝るまでそばにいるからお話ししよう?」

ビューネくん、私の心読めるの?なんて考えつつ取り留めのない話をぽつりぽつりと話す。
ビューネくんはいつの間にか布団越しに私の肩の辺りをぽん、ぽんとゆっくり叩いている。心地の良いリズム。すごく安心する。
なんだかうとうとしてきた。
眠りに入る瞬間、ビューネくんが

「おやすみ」

と言った気がする。
反応できぬまま、私は久しぶりに深い眠りにつくことができた。

翌朝、目を覚ますとビューネくんの姿はなかった。昨日の事は夢だったのかな?そうだとしたら少し寂しい。
ふとテーブルをみると、1枚の紙が置いてあることに気づいた。

"〇〇おはよう!朝ごはん食べて今日もがんばってね!"

えっ?嘘!
と思いキッチンに行くと、そこにはあとは温めるだけの朝食が置いてあった。
昨日の事は夢じゃなかった!と胸を熱くしながら、朝食を食べる。
今日は晴天だ!良い事しか起きない予感がする。
昨日の本当に不思議で素敵な奇跡。

は全て妄想。

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