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日記「ビーナス」

朝寝坊で起きると、同棲する彼女に「今日は記念日なのに!」と朝から玉子焼を投げつけられ、壁にスクランブルエッグが出来上がったもんだから、トイザラスで買ってきたカチューシャを渡した。
しばらくはふてくされてた彼女も気づけば、ドラムスティックを持って家中を叩き散らかすスペイン人の動画をYouTubeで2時間半も見ていた。

ということに気が付いたのも、自分はネットニュースを同じ時間、見ていたからで、ニュースによると絵文字が充実してるslackグループには、平均2.8人の詐欺師が混ざっているらしい。

今日も街中に活気はないし、勝ち気なジムリーダーもいない。
それでも幸せだ。

腹が減ったから外に出た。
俺のわき腹に借りぐらししている公安警察が花粉症対策にうるさいから、マスクをつける。口もとがなんだかイガイガすると思い、鏡を見るとそれはズワイガニだった。
顎が隠れていたから、何の問題もない。深呼吸をすると少し生臭いが、北陸に住んでいたジェダイのことを思い出して懐かしくなった。

「フォースと共にアランドロン。いやん、うふん、ばかん。」

スペイン人ドラマーの動画を見終わり、再び怒り始めた彼女の眼前に決死の覚悟で立つ。彼女はカニを見たから黙った。カニは人を静かにさせる作用があるのだ。

外に出ると、家の前で幼馴染のお母さんに出くわし、今月の豆知識を教えてくれた。
ミロのビーナスの右手はどうやらスプーンを持っていたのだという。
左手は緑色の健康食品のパッケージで、サッカー少年が今にもシュートを打つ瞬間を捉えている。よく牛乳で溶かして、朝に飲むと良い。

コンビニの目の前の公園まで行き着くと、知り合いのヒッピーが40年前にビートルズとセッションしたことがあると自慢してきたから、千円札を2枚渡して追っ払った。
彼は以前、野犬に噛まれたエピソードトークだけで外務省の主要ポストについていたらしい。
2千円じゃLサイズが食えないとなにやらピザの話らしいことをつぶやきながら、まだつきまとってくる彼を鬱陶しく思って、リュックから取り出した自前のピンヒールを彼のこめかみに突き立てた。彼の姿は後ずさりで小さくなっていった。
しかしそれでも、フック船長が最古のサイボーグだと彼は持論を譲らなかった。

天使の羽を背負った小学生の群れに、ダンプカーがノリツッコむ。
最近、闇金が督促電話をzoomに切り替えた影響で、日本の土下座件数は右肩上がり。
誰かの父親が昼間から砂場に土下座で埋められている。
政治家はだらしがない。お道具箱の整理が大の苦手だ。
ヒルズ族をあれだけ堂々と在留させながら、日本は単一民族国家なんてほざきやがる。
それでも祖父の支持政党は今日も、パンイチ民族国家への道を諦めない。
最近知ったが、知り合いのバンドの目標は、全員入閣することらしい。夢が大きくてうんざりする。

最近の俺といえば、モノマネもうまくできないから、藻の真似を始めている。
漂うのも地上在住でうまくできないから、ただ酔っている。

昔、ヒッピーにインタビューしていたら、はっきりと目が座ったベルボトムの女性に「ありがとねぇ」と30分感謝されたことがある。

これだけは実話である。

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