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遺影を撮りに行った話

今年もそろそろ終わり。
いつものことながらスマホのカメラロールはねこでいっぱいだ。
ねこ飼いあるあるだと思うが他人が見たら同じ写真のようでも飼い主には一枚ずつ違う。ボケていても削除できない。
結果。

どれもかわいい
わっちゃーん!
かーわいいわっちゃん

まあこれは通常営業なのでいいのだが、カメラロールを確認していてあることに気がついてしまった。

母に、プリントしてあげるね、と言ってそのままになっている画像が鬼のようにある。共有すらしていない。ヤバい。
いつかやろういつかやろうと思いつつもうだいぶ経っている。いつかやろうはばかやろう有難いからありがたい@筆談ホステス。ええ堂々たるばかやろうですよ。


母ミツヨ四捨五入して齢80、に「遺影を撮って欲しい」と言われたのだった。
お友達が大層な確率でいなくなっているらしい。

自分もいつあっち側に行くかわからないんだから準備はしておきたい。

それは大事なことだけど。

確かに、父が亡くなった時、いい写真がなくて困ったのだった。
葬儀屋さんがこれをこう加工してと言ってくれた、正面を向いたものはどうにも堅苦しくて、それよりこっちがいいと母ミツヨの画素数の低いコンデジで撮影した笑顔の写真を大きく伸ばした。
多少ピンボケしていたが、遺影は笑顔の方が断然よかった。

多分それを踏まえているのだろう。
お友達とお出かけすることもコロナ禍で少なくなり、ふと気がついたら「最近の」「自然な」「笑顔の」「いい感じの」写真がないのだと言う。

なぜ自らそんなにハードルを上げるのか。
遺影への溢れる期待。

それで母ミツヨと梅を見に行ったのだった。
積極的に「ここで撮って」とポーズを取る母ミツヨ。
ファンデーションがいつもより濃い。オレンジ系のリップが目に眩しい。
「あらここもいいねえ」
「あそこもいいねえ」
「ここで」
「こっちがいい」
めっちゃ指示が多い。
そして母ミツヨはわたしの腕をぐいと掴んでヒソヒソ声で「あの人も遺影だと思うよ」と少し離れたところで息子さんに撮影してもらっているミツヨと同年代女性を指差した。
指を差すんじゃないと言うと、口をへの字にして肩をすくめる。
なんだそのアメリカンなリアクションは。
ってゆーか、自分と同年代がみんな遺影を撮ってると思うなよ。
ただの記念写真かもしれないじゃないか。
と思っていたのに漏れ聞こえる親子の会話。

「これ遺影にしようかねえ」
「いいね!」
「はははは」

あ、遺影だった。
ほれ見たことかと勝ち誇った顔でわたしを見る母ミツヨ。

なんだろう、この年代特有の遺影ギャグなんだろうか。
まだ「遺影にしよう」「イエイ!」などと言わないだけマシかもしれない。

と、そんな感じで数十枚撮影。

遺影候補ナンバーワン

いい感じの遺影候補も撮れたし、とは言えこのまま帰るのはもったいない。
ということで、わたしと姉が大好きな関ヶ原ウォーランドに寄ることにした。

https://www.warland-web.com


何があるのよと不審がる母ミツヨに、コンクリート像で関ヶ原の戦いが再現されているのだとざっくりすぎる説明をしたところ、いいねえと乗り気になっている。
関ヶ原ウォーランドは昭和のコンクリート像作家・浅野祥雲の作品がやまほど見られる、マニアにはたまらない場所だ。好みががっつり分かれるところなので一緒に行く人はよく見極めないといけない。
さて、母ミツヨはどうだろう。


明石全登と。

まったく心配なかった。エンジョイ。
頼んでもいないのに武将とどんどん同じポーズをとる。
血を感じる。


家康と握手

アグレッシブにコンクリート像と絡む母ミツヨ。
武将の間を歩き回りながら「石田三成も頭が良すぎたのかもしれんね」やら「小早川は裏切ったのよ」やらまるで知り合いの話でもするように安土桃山時代のことを語る。
へえよく知ってるねえ、と言うと、昔は司馬遼太郎を愛読していたと少し遠い目で言われた。
でも最近の大河はうるさくて嫌いらしい。ここで「苦手」とか「ちょっと…」ではなくハッキリ「嫌い」と言い切るのが母ミツヨ。

「あらそう、うちらは毎週楽しみにしてるけどね」
「あたしは嫌い!なんかみんなふざけてて」

なるほど。
そう思うお年寄りも多いんだろうなあ。

と言いつつ。


母ミツヨの推し武将、三成と

どの口で。
キミも大概ふざけとるがな。

さて大体見たしあとはお土産でも見て帰ろう、と思ったのだが。
鉄砲隊だ。

「その前に、鉄砲隊いるよ一緒に撮ろうよ」
「いいねえ」

ということで、鉄砲隊に紛れることに。
ちゃんと紛れないとだめよ、おもしろくないからね。
さあさあ、あなたも鉄砲隊の一員に!


左のウサギが母ミツヨ、中央の黄色いのがわたくし

まったく紛れる気がない母ミツヨ。
がっつりリーダー。

紛れるわたくし

紛れるというのはこういうことを言う……と体を張って見せているのにもうスタスタと歩き出していた母ミツヨ。
見て!
娘がわざわざ枝まで拾って鉄砲隊に紛れてるのに!


梅をバックにいいふうなオバショットを撮ったけれども、
「自然な」「笑顔の」「いい感じの」
という点で言えば圧倒的に武将と2ショットの方が勝っていた。

はてさて、遺影はどれにするのかしら。
使うのはまだまだ先のことであってほしいので、これからもどんどん遺影を撮影しに行かねば。イカネバの娘。
そして年内になんとかプリント&共有だな。

てゆーか。
やっぱりふざけてるよなあ、うちの血筋。














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