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「勿忘」は「わすれな」と読まない


Awesome City Clubの「勿忘」がヒットし、昨年(2021)の紅白でも披露されました。
美しいメロデーと歌唱。良い曲だと思います。

ただ、タイトル「勿忘(わすれな)」は日本語としておかしいです。
ネットでこの読み方について幾つも記事があがっています。
しかし、私が見た限りでは「?」と思うものばかりでした。
以下「勿忘(わすれな)」は日本語としておかしいことを説明します。

一、forget me notを文語で言うなら「忘るな」。口語なら「忘れるな」
 「な」は禁止の終助詞です。今でも「喧嘩する」と使います。
 動詞の終止形に付きます。文語は「忘るな」。口語は「忘れるな」です。
 菅原道真の歌                          「東風(こち)吹かば にほひおこせよ 梅の花 主(あるじ)なしとて 春を忘るな」が代表的な用例です。

「忘れ」は「未然形」または「連用形」ですから「な」は付きません。 「忘れな」は間違いです。
※中世以降「未然形+な」「連用形+な」という用例が希に見られますが、例外です。

二、「勿忘草(わすれなぐさ)」は熟字訓です
熟字訓とは、二~三つの漢字に、一つの和名を当てたものです。
例えば「五月雨(さみだれ)」「紫陽花(あじさい)」「無花果(いちじく)」などです。植物名にはこういう例が多いです。
 植物学の牧野富太郎博士は、                  「『私を忘れるなよ』の意味であるから、ワスルナグサの方が良い。」と言っています。                                                                                                     

Awesome City Clubはタイトルについて次のように語っています。
「勿忘草というモチーフを思いついたんです。春の花だし、花言葉は「真実の愛」や「私を忘れないで」なので、映画ともすごくリンクするなって。    英語や片仮名ではなく、美しい日本語にしたくて、じゃあ、それをどう表記するか考えたときに「草」を取って「勿忘」がいいんじゃないかなって。」

「勿忘草」という三字一体で「ワスレナグサ」と読むのであって、「勿忘」 だけで「忘れな」 と読むことはありません。
「五月雨」から「雨」をとって「五月(さ)」と読んだらおかしいでしょう。

三、「勿忘」だけなら「ブツボウ」あるいは「ワスルルナカレ」と読む 「勿忘」のままでは、音読みで「ブツボウ」と読むしかありません。
あえて漢文訓読式に読むとすれば「忘(わす)るる・勿(な)かれ」です。あるいは「忘(わす)るること・勿(なか)れ」です。
勿←忘と上に返ります。「勿」は否定詞で、名詞または準体言(連体形)を否定します。

四、まとめ
○「勿忘」で「わすれな」と読ませることはできません。
○日本語(和語)で表したいなら「忘るな」と書くべし。
  
たかが歌のタイトルに面倒くさいこと言うな。                  タイトルは「創作」なんだよと言われそうです。
ですが、昨今の日本語の誤用は看過できません。
 ・「べき」を終止形として使う。
 ・「すべからく」を「総じて」の意味に使う。
など、とても耳障りです。

言葉は時代によって変化するものですが、
一度辞書を引いて正しい用法を調べてから、使ってほしいものです。



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