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Dear… 第十三話「さくら開花記録」




○○)あ、すか…?


飛鳥)よっ。


○○)ねえ、ほんとなの?


飛鳥)うん、そうみたい。


○○)なんで、、、なんで?


飛鳥)私に言われてもね〜…


美波)飛鳥さん…


飛鳥)ごめんね、○○。



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数十分前


医師)奥様は、子宮頸がんです。


美波)なら、今から治療をすれば!


医師)いえ、そうではないのです。奥様の子宮頸がんは進行が早すぎるのです。こんな例は今までに報告されていません。


美波)間に合わないんですか?


医師)えぇ…我々も考えうる最善の方法を探しましたが、出産を諦めるか、治療を諦めるかの2択しか、見つかりませんでした…。


○○)子供を産んだら、飛鳥はどうなるんですか?


医師)絶対とは言えませんが、ほぼ確実に、亡くなってしまうでしょう。





○○)ぁ…ぁ…、、、っ…






美波)そんな…飛鳥さんが、、、






医師)医者である以上、患者が亡くなる、なんてことは言ってはならないことですが、ここで嘘をつくくらいなら、真実を言うべきだと判断しました…。ほんと、なんと言ったらいいか…





○○)飛鳥は…飛鳥は、なんて言ってたんですか?


医師)そちらについては、ご本人に直接確認していただければと思います。


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飛鳥)○○、大丈夫?


○○)、、、、。




○○は分かっていた。

飛鳥はきっと、自分の命と引き換えに子供を産むはずだと。


この世の誰よりも彼女のことを知っている○○だからこそ、分かっていた。


飛鳥)まあまあ、まだ先はあるしさ、たくさん思い出つくろうよ。




○○)…ごめん、、、。


○○は病室から出ていった。



美波)飛鳥さん…


飛鳥)まあ、そうなるよね〜…


美波)飛鳥さん。


飛鳥)いや〜、大変なことになったよね〜。




美波)飛鳥さんっ!!




飛鳥)……。



美波)いいですって、、、隠さなくていいでずっで!!泣きたいんでしょ?泣いてくださいよ!!素直にな"っでよ"っ!!





飛鳥)梅…ゔ、ゔわぁ"ぁ"ぁ"〜〜〜!!!






美波)ぐっ、、、う"ぅぅぅぅぅ!!!



扉の向こう側から聞こえる2人の叫ぶような泣き声。それを聞いた○○も…


○○)う、うぅ…くっそ、、くっそ、、、…なんで…なんでこんな………



全身の力が抜けて、崩れ落ちながら泣いていた。



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真夏)だめ、やっぱり出ない…


○○ちち)どうすればいいんだ…親として、僕たちに何ができるんだ…。


あれからしばらく経った今、○○は飛鳥以外との人間と関わらなくなった。


マスコミや外部の人間はもちろん、おとうさんやおかあさん、美波でさえも会うことを拒絶した。


飛鳥と出会う前のように、いや、その時よりももっとひどく、閉じこもってしまった。



○○ちち)こういう時、彼女ならどうしていただろうか…


真夏)ななみんなら、きっと…


○○ちち)でも、それだと…


真夏)…もし私に子供ができて、同じことになったら…きっと、そうすると思う。だって、子供は1番の大切なものだから、、、自分の命よりも、もっとずっと大切だから、、!!


○○ちち)真夏…


真夏)伝えましょう、飛鳥ちゃんに。ななみんのことを…


○○ちち)あぁ、そうだな…




真夏)あなた…


○○ちち)真夏は何も悪くない。誰も、悪くないんだ…


○○ちちは、静かに涙を流す真夏を抱きしめ続けていた。



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○○)飛鳥。ほら、前食べたカステラ買ってきたよ!


飛鳥)○○…?


○○)ここの美味しかったからさ、奮発して3箱買ってきちゃった笑


飛鳥)○○聞いて?


○○)ほら、一緒に食べよ?


飛鳥)○○っ、、!!



○○)……。



飛鳥)○○、私決めたよ。産もう、この子を。お腹の中の子を。



○○)……。



飛鳥)…実はさ、さっき○○のごりょうしんが来たんだ。


○○)え…?


飛鳥)親っていうのはね、どんなことがあっても、例え自分の命を投げ出してでも、子供を守らなきゃいけないんだよ、って。それが親の責任なんだよ、って。


○○)……。



飛鳥)私もさ、顔も知らない、声も知らない、そんな人のことを好きになれ、なんて言われたらきっと無理だと思う。でも、この子は私たちの子なんだよ。私たちが命かけてでも守らなきゃいけない命なんだよ。

だから、私はこの子を産みたい。それが、私の心からのお願い。



○○)飛鳥……。



○○を見る飛鳥の目には、一切の曇りはなかった。

それは覚悟を決めた母親の瞳。

命に変えてでも我が子を守るという強い意志。



○○)…飛鳥は、怖くないの?


飛鳥)怖いに決まってるよ。だから、○○が守ってよ。私のことを、この子のことを。もう、逃げたりしないんでしょ?


○○)っ…!



そうだ、僕は決めたんだ。


あの日、飛鳥にプロポーズした日、

もう何があっても逃げない。

どんなことがあっても飛鳥を守るって…!





○○)分かった。僕が守るよ、飛鳥も、この子も。


飛鳥)うん。


○○)だから、産もう、この子を。



飛鳥)うん……うん、、うんっ、、、!!!



○○)飛鳥…!



○○は安心感から泣き出した飛鳥を抱きしめた。


その姿は、覚悟を決めた父親の背中。

命に変えてでも我が子を、我が妻を守るという強い意志。




その姿を遠くから見守っていた2人がいた。


○○ちち)真夏。


真夏)うん、これでいいの。彼女もきっと、これを望んでいたはず。


○○ちち)あとは○○くんが…


真夏)あの人と同じ道を辿らなければいいけど…



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○○)飛鳥、じゃん!


飛鳥)え、ちっちゃ笑


○○)知らない?これでもめっちゃ性能いいんだよ!

飛鳥)へ〜、時代すごっ…



数日後、○○は一台の小型カメラを持って飛鳥の元へやってきた。



○○)これでバッチリ撮れるはず…よしっ!

飛鳥)撮れてるの?


○○)うん、大丈夫だよ。


飛鳥)へ〜、お〜い、見えてるか〜私の子供よ〜。


○○)そういえば名前。


飛鳥)あ、そうだね笑


2人は子供が産まれるまでの日々を、記録することにした。


いつか必ず、2人の子は疑問に思うだろう。


「なぜ自分には母親がいないのか。」


その疑問をぶつけられた時、○○はこの記録を見せるんだ。


君のために闘った、偉大な母親の姿を。




○○)名前、どうしようかな〜…


飛鳥)結局まだ思いついてない感じ?


○○)うん、色々候補はあるんだけどさ、なんかどれも違うな〜って。


飛鳥)私もお手上げ。


○○)僕たちの子にぴったりの名前…

お腹の中の子には、まだ名前がなかった。

ふたりはずっと考えていたが、答えは出ていない。



飛鳥)男の子なら、絶対にしたかった名前があったんだけどね?


○○)どんなの?


飛鳥)○○。


○○)ん?


飛鳥)いやだから○○。


○○)なに?


飛鳥)そうじゃなくて、名前!




○○)え、ええぇぇぇぇ?!


飛鳥)いい名前じゃん、○○。


○○)だって僕と一緒だよ?


飛鳥)そう言われても、○○以上に良い名前なんて思いつかないもん。


○○)え〜、まあ女の子だから良いけどさ〜、



いい名前が思い浮かばず、悩んでいると…




飛鳥)…さくら。


○○)え?


飛鳥)さくら、どう?


○○)いきなり?う〜ん…



飛鳥)さくらだ、さくらがいい!!


○○)ちょっ、どうしたのいきなり!


飛鳥)さくらだよ!!さくら、さくら…さくら!!


○○)そ、そんなにさくらがいいの?


飛鳥)うん、絶対さくらがいい!


○○)さくら、か…


そういえば、飛鳥と初めて会った日、あの日も桜が咲いていた。

外は暗かったし、その頃の僕自身も明るい人生を送ってはいなかったから気にも止めてなかったけど。


それに、飛鳥がこんなにも主張することは今までになかった。

それほどまでに、さくらという名前が気に入ったのだろう。



○○)じゃあ、さくらにしよう。


飛鳥)うん!じゃあこれは、さくらに向けてのビデオだね。


○○)そうだね、じゃあ撮り直すよ。



そして僕は、録画ボタンを押した。





飛鳥)やっほ〜、さくら、見えてるかな?


○○)今日からさくらが産まれるまで、毎日ビデオを撮ろうと思います。


飛鳥)今日はその初日。あ、その前に…初めましてになるのかな?さくらの母親の飛鳥です。


○○)さくらが産まれる前のパパだよ〜!


飛鳥)今ね、さくらはここにいます!私のお腹の中で、早く出たいよ〜って言ってます。笑


○○)僕たちも待ってるからね〜?


飛鳥)じゃあ、また明日。バイバイ、さくら!



○○)よし…こんな感じでいいのかな?


飛鳥)まあいいんじゃない?あ、蹴ってる蹴ってる笑


○○)撮ってるのバレちゃったかな?笑


飛鳥)待っててね〜、絶対産んであげるからね〜…


○○)っ……、、そうだね。


優しい笑顔を浮かべる飛鳥を、僕は直視できなかった。






To be continued……

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