Dear… 第十五話「家族」
真夏)○○。
○○)あ、おかあさん、おとうさん。
○○ちち)驚いた、本当に泣いていないんだな。
○○)うん、飛鳥と約束したから。
真夏)きっと、飛鳥ちゃんも喜んでるよ。
○○)ありがとう。
今日は飛鳥の葬式。
親族や身内だけなのに、沢山の人が来た。
それだけ飛鳥がいろんな人から愛されていた証拠だろう。
真夏)さくらちゃんはどう?
○○)元気だよ。今は梅澤さんが面倒見てくれてる。
少し遠くにさくらを抱きかかえている梅澤さんの姿がある。
○○ちち)梅澤さんも本当に優しい人だね。
○○)うん、本当に、感謝しかないよ。
さくらが産まれてから、梅澤さんはさくらの母親代わりとして色々なことをしてくれた。
梅澤さんがいなかったら、今頃さくらは無事に育っていなかったと思う。
本当に、感謝をしてもしきれない。
真夏)これからどうするの?よかったら、うちに戻ってくる?
○○)いや、実はさ…
僕は今考えていることを2人に打ち明けた。
○○ちち)…そうか。○○がそう言うのなら、きっとそれが最善なんだろうね。
真夏)何かあったら、何でも言ってね?
○○)うん、ありがとう。
そろそろ、言わないと。
飛鳥と約束した、あのことを。
○○)あのさ、2人に聞きたいことがあるんだけど。
真夏)ん、どうしたの?
○○)僕の、本当の両親のこと。
○○ちち)っ!!…それって、
○○)飛鳥と約束したんだ、逃げないって。だから聞かせてほしい、僕の両親はどうして僕を捨てたのか。どうして僕の前から姿を消したのか。
真夏)……そうね、○○には話さないとね。
あなたのために闘った、素晴らしい2人のことを。
そして2人は、昔話を始めた。
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○○父)奈々未〜、ただいま!
奈々未)おかえり、あなた!
○○の母、奈々未と○○の父は順風満帆な日々を送っていた。
真夏は奈々未の友達であり、出会う度に惚気を聞かされていた。
そんなある日のこと、奈々未はお腹に異変を感じ病院へ向かった。
医者)検査の結果が出ました。
奈々未)はい。
医者)……、おめでとうございます、お腹の中に新しい命が生まれましたよ。
奈々未)本当ですか?!
医者)ええ、赤ちゃんです。
奈々未は○○を孕った。
そのことを、○○の父に電話で真っ先に伝えた。
しかし、そこで事件は起こった。
○○の父は病院へ向かう道の途中、交通事故に遭い亡くなってしまった。
そしてその2ヶ月後、新たな事実が発覚した。
医者)申し訳ありません、橋本様の子宮から、
「癌が発見されました。」
奈々未は子宮頚がんだった。
そしてその進行は予想より早く、子供を犠牲に助かるか、自分を犠牲に子供を産むかの2択に迫られた。
そう、飛鳥と同じように。
奈々未は絶望した。
夫も失い、自分自身も命が危ない。
そんな現実に、ただ泣くことしかできなかった。
しかし、お腹の中の子はどんどん成長していき、癌はどんどん進行していく。
そして、奈々未は決めた。
奈々未)先生、私産みます。この子を、○○を。
奈々未は、癌と闘いながら、自分を犠牲にして○○を産むと決めた。
それが親となった自分の責任だと。
そして、真夏にとある相談をした。
奈々未)真夏。
真夏)ななみん…
奈々未)お願いがあるの。この子を、育ててほしいの。私の代わりに、親になってほしいの。
真夏)でも、私に親なんて…
奈々未)できるよ、真夏ならできる。子供産めないんでしょ?なら、この子が真夏の子ども。○○を、独りにしたくないの。だから、お願い…。
真夏)…分かった。ななみんが言うなら、私頑張る!絶対に○○くんを立派にするから!
奈々未)ありがと、真夏。
○○は捨てられたのではない。
○○は、初めから愛されながら産まれて、愛されながら育って来たのだ。
奈々未は、○○の父は、決して○○を捨てたりなどしていなかった。
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○○)そんな…
○○ちち)○○、これを見てくれ。
そう言っておとうさんはノートパソコンを開いた。
○○ちち)これはね、君のお母さんが毎日記録していたものだ。そう、君たち2人がやっていたようにね。
○○)っ!!
僕は、そのパソコンの映像を食い入るように見た。
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奈々未)○○〜、見てる?初めましてかもしれないけど、○○のママの奈々未です。自分の子供に初めまして、なんて変だけどさ、笑
そこには、いつも夢に出て来た女性の姿があった。
奈々未)私は絶対に○○を産んでみせるからね。大きく育つんだよ〜?
○○)っ…?!
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飛鳥) 今ね、さくらはここにいます!私のお腹の中で、早く出たいよ〜って言ってます。笑
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頭の中で、飛鳥の声が、笑顔が、リフレインされた。
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奈々未)今日は初めて○○の顔が見れました!可愛かったな〜…これからもっと大きくなってね!
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飛鳥)さくらの顔、すごく小さいね〜!これは将来、私に似て小顔に育つね!笑
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奈々未)ふふ、すごいお腹を蹴ってる…待っててね、ちゃんと産んであげるからね〜?
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飛鳥)ちょっとさくら〜?蹴りすぎだよ〜笑、ママのお腹破裂しちゃう!笑
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奈々未)髪の毛が全部抜けちゃって、実はこれウィッグなんです。でも、○○はすくすくと育ってるよ。もうすぐだからね〜?
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飛鳥)もうすぐ産まれるよ〜。早くさくらの顔が見たいな〜…
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映像の中の母と、頭の中の飛鳥が何度も重なった。
○○ちち)○○、君のお母さんはね、すごく、すごく…
「優しくて暖かい人だったんだよ。」
○○)母さんっ、、、!!
僕の母は、どんなに酷い環境でも心折れることなく最期まで僕を想って闘った、強い人だった。
そんな母に、今まで勘違いしていた謝罪と感謝の気持ちが溢れた。
溢れて溢れて止まらなかった。
真夏)私たちは2人みたいに強くないけど、それでも○○の親として精一杯努力するから、これからも○○にとっての家族でいさせて?
○○)うんっ、うん…、、!!
家族になるには愛が必要。
愛がないのなら、それは家族とは呼べない。
そう思っていた。
でも違った。
家族とは、愛の先にあるものなんだ。
愛する気持ちを越えたその先に、家族があるんだ。
僕は愛されていた。
誰よりも愛されていた。
だから、僕はこの愛を、家族と呼ぶことにした。
母さんも父さんも、おかあさんもおとうさんも、飛鳥もさくらも……
愛し愛され愛を越えた
家族だ。
To be continued……
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