Dear… 第十六話「隣り合う梅と桜の花びら」
○○)……。
目の前の墓に、祈りを捧げる。
「橋本家」と書かれたその石には、僕のために闘った父と母が眠っている。
○○)よし、これで大丈夫。
美波)もういいの?
○○)はい、ちゃんと届いてるはずです。
美波)そうね、きっと見守ってくれてるわよ。
○○)はい。
空を見上げると、大きな桜が咲いていた。
僕と飛鳥を繋いでくれた、桜が。
美波)ほらさくら〜?さくらと同じ名前の花ですよ〜?
さくら)あっ、あっ!
梅澤さんに抱えられたさくらは嬉しそうに手を伸ばす。
美波)私もさくらだよ〜って、ね〜?
さくら)あっ!
美波)ふふ、可愛い…。
○○)ふふっ。
大きな桜の横には、梅の花が咲いていた。
○○:(桜に梅、か…。…飛鳥なら、きっと許してくれるよね?)
○○)じゃあ、そろそろ帰りましょうか。
美波)うん。
今年もまた、春がやって来た。
-----
その日の夜
美波)さくらちゃんはぐっすり寝てるよ。
○○)ありがとうございます。
美波)ふふ、本当に我が子みたいで可愛い。
○○)…あの梅澤さん。
美波)ん、どうしたの?
○○)実は、梅澤さんにお願いがあって。
美波)なぁに?なんでも言って?
○○)…梅澤さんに
「さくらのおかあさんになってほしいんです。」
美波)…え?
○○)梅澤さんなら、さくらのおかあさんになれると思うんです。もちろん、僕と結婚してくださいなんて頼むつもりはありません。ただ、僕と一緒にさくらを育ててほしいんです。
美波)でも、私なんかじゃ…
○○)梅澤さんにしかできないんです。梅澤さんがいいんです!
美波)で、でも、私は親になる資格なんか…
○○)いい加減許してあげてくださいっ!!
……自分のこと、許してあげてくださいよ…。過去の過ちを許せないのなら、今から贖罪してください。さくらを育てて、罪を償ってください。そうすれば、遥香ちゃんもあなたを許してくれるはずです。
美波)わたしで、いいの?
○○)梅澤さんがいいんです。飛鳥もきっと、梅澤さんなら喜んで受け入れてくれると思います。さくらは、僕と飛鳥と、梅澤さんの子供です。
美波)くっ、、、!うぅ……、、
梅澤さんはあまり涙を見せない。
でも、今まで見た涙よりも、今の涙の方が何倍も幸せに見える。
ぼくは梅澤さんをそっと抱きしめた。
-----
「○…○○…○○!」
○○)ん…飛鳥、と…母さん?
奈々未)久しぶりだね、○○。
飛鳥)夢に出てきてやったぞ!
夢…そうか、これは夢か。
母さんと初めて会ったのも夢の中だった。
○○)母さん、(僕を愛してくれて)ありがとう。
奈々未)こちらこそ、(産まれてきてくれて)ありがとね。
言葉はなくとも、伝わった。
○○)飛鳥、さくらは元気だよ。
飛鳥)うん、ずっと見てるよ。
さくらはもう幼稚園児になった。
すくすくと育っている。
奈々未)これで、最後なの。
飛鳥)もう、会えないから。
○○)そっか…。
2人の望みが叶ったんだ。
自分の子が、幸せに育つという望みが。
だから、2人は本当に旅立つんだ。
○○)母さん、飛鳥。
奈々未、飛鳥)……。
○○)愛してる。
奈々未、飛鳥)……私も、愛してる。
親愛なる母へ
そして妻へ
愛すべき、あなたへ。
-----
○○)ん…。
目を覚ますと、いつもの部屋にいた。
「○○〜!ご飯だよ〜!!」
○○)うん、今行くね〜!
親になることは簡単ではない。
自分の生活、好きなもの、命…
全てを捧げる覚悟が必要だ。
中には、それを「馬鹿げている」と笑う人もいる。
子供を産んだにも関わらず、その責任を放棄する人もいる。
僕は、そんな人間にはなるつもりはない。
父と母がくれた愛情と、妻が残した1つの命を、永遠に守り続けると誓う。
それが僕の、愛の向こう側。
愛を越えた先にあるもの。
「早くしないと冷めちゃうわよ〜!」
○○)は〜い!
飾ってある2枚の写真を横目に、僕は愛する家族の元へ向かった。
To be continued……
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?