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【旅blog】ベトナム統一鉄道の旅 7

8月14日(5日目)
朝起きると私の周りには大量のブイの死骸があった。床も足の踏み場がないくらいにブイが死んでいる。

泣きたかった。

気を取り直す為、私は近くの店でフォーを食べてベトナムコーヒーを飲んだ。もう日課だ。

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横に店主も座ってきて
なぜか一緒にコーヒーを飲む。

そして、この日は原付に乗り、
フエの世界遺産に向かった。

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グエン朝王宮。

遺跡は工事中だった。
中に入ると…草原?

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そう、フエの世界遺産は跡地なのだ。
つまり何もない。

戦争で跡形もなく消え去ってしまった世界遺産の残骸とも言える。何十年かけて修復するのだろうか。

ベトナム人のおっさんが一生懸命修復している姿がところどころに見える。

草原にたたずんでいると少し遠くに男の姿が見えた。今でも覚えている。

黒いサングラス。
あごひげ。
短パン。
TEVAのサンダル。
ARCTERYXのショルダー。

そう、彼が「そろ婚」に登場するマスターなのであった。

この頃はむやみやたらに話しかける積極性は持ち合わせていなかった為、お洒落男子はどこかへ消えていった。

引き続き、私は草原を歩いた。

相変わらずベトナム人のおっさんが
修復作業を続けている。

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歩いていると大きなホールのような建物があり、横から回り込んで正面の入り口へ行くと、
先ほどのお洒落男子とばったり出くわしてしまった。

しかも正面口にはコンビニにあるようなアイスケースが設置されており、彼はそこから勝手にアイスを取り出して食べようとしていた。

「勝手に食べていいらしいよ。」

「そんなわけないでしょ!」

私は自然と笑顔になった。

そう、彼がのちに私が描く漫画「そろ婚」に登場するマスターなのであった。

ちなみに私はこの日、ホーチミンで借金をして購入したあのベトナムTシャツを着ていたのだが、マスターは私のTシャツを見て、くそだせぇやつと心の中で思っていたということは帰国後に知る。

ホールの中は空洞になっていて、そこに置いてあった椅子に座り2人でしばらく話し込んだ。

彼もまた沢木耕太郎の「一号線を北上せよ」を読み、寝台列車で北上の旅をしていたらしい。

私よりもずっとひとり旅の上級者でこれまでいろんな国に行った話を聞いた。

「ベトナムの前はどこへ行ったの?」

「インドだね。ちょうど転職のタイミングで1ヶ月くらい時間があったからその間ずっとインドにいたんだ。」

「1ヶ月も行ってたんだ!インドへ行くと世界観が変わるってよく聞くけど、本当なの?」

「どうだろうね。とりあえず近寄ってくるやつはみんな騙すことしか考えてないから人間不信になるよ。」

「それはすごいな…」

「くそ野郎ばっかりだった。でもさ…、帰国しようと空港に向かう時、あんなにも騙されたりしてぶっ○してぇ。って思ってたのに急に帰りたくないって思って涙が出てきたんだ。」

「泣いたんか!」

「このままメシ食ってクソするだけの生活がしたいよぉって。」

「しょうもねぇやつだな。笑」

「そうやって大通りでワンワン大泣きしたんだよ。そしたらそれまで人を騙すことしか考えてなかったやつらがワラワラ寄ってきてさ、俺を慰めてくれるんだよ。」

「大通りで大泣きするくそ野郎とそれに群がるインド人ってすごい図だね。」

「肩を組んできて、おいどうしたんだよ?大丈夫か?よくわからんがお前ならきっと大丈夫だよってたくさんのやつらが俺が泣き止むまでそこにいてくれたんだ。それでそいつらに見送られて俺は帰国した。」

彼の話は過去の自分の旅を誇るでもなく、自分がくそ野郎であることを楽しんでいるかのようで、すごく楽しかった。

彼はこのベトナムの旅でさえ、私よりもかなり濃い経験をしていた。

彼は言った。


「旅を楽しむ為にその町で一番危なそうな奴に話しかけるようにしてるんだ。」


変態だと思った。
それとともに、すごく面白い人だと思った。

それから2人は一緒に昼食を取ることにした。

地球の歩き方を開いて店を決めながら遺跡の出口まで歩く。原付置き場に着くとマスターが言う。

「え?原付乗れるの!?」

「うん、国際免許いらないみたいだよ。」

「マジかよ、俺ずっとくそみたいな自転車乗ってたわ。店まで、交換しない?」

さっき会ったばかりの男をなぜ信用したのかわからないが、私は承諾した。

彼の自転車に乗って店に向かったが、明らかにハンドルとサドル、ペダルの位置が合っておらず、腕を引き、腰を前に突き出し、足を後ろに下げたZみたいな形で乗らなければならなかった。

よくこんな自転車に乗っていたものです。

遺跡を出ると、店は川沿いにあった。

私は川を眺めながら彼を待ったが、いつまでたっても現れる気配がない。私は思った。


くそ野郎に原付盗まれた。


しかし、その数分後に彼は笑顔で
原付に乗って現れた。

「遺跡の中を走るの楽しすぎて5周くらいしちゃった。」

回りすぎだろと思ったが、心の中で一つの台詞がこだまして、私は自分を恥じた。

人は、信じることから始めるべき。

私たちは店に入り、
軒先で昼食を食べた。

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ここで彼は2つ年上であることが判明し、しかも、東京でかなり近所に住んでいた。

話を続けていると、彼は私と同じ時期にベトナムに来たにも関わらずホーチミンからダナン、ホイアンと辿り、今フエにいるとのことだった。

この話を聞いてなぜ自分はホーチミンにあんなに長くいてしまったのだろうと少しだけ後悔した。

しかし、違う視点で考えるとホーチミン発がたった一日でも前後したり、昨日この遺跡に来てしまっていたら、彼とは出会えなかったのだ。

少しの選択で人生は大きく変わる。
そう、これで良かったのだ。

ここからの目的地は同じハノイとのこと。
私と彼は昼食を終えて、店を出た。

私が原付に跨ると彼は自転車に乗り、
私の右肩に手を乗せる。

「一回やってみたかったんだよね。」
彼は言う。

私は原付のアクセルを回した。

私が進むと、彼の自転車は
ペダルをこがずとも勝手に進む。

たくさんの原付が行き交う中、私と彼は笑顔で楽しいなぁ!と言いながら走り抜けた。

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彼の自転車はガタガタと震え、分解するのではないかと心配になった。十字路が見えた時、彼は言う。

「俺は右だ。」

「俺は左。」

信号は青だから私はアクセルをさらに回した。
それとともに彼の自転車はさらにガタガタと震える。

しかし、ドラマのようにうまくはいかず、信号は直前で赤に変わった。

「うまくいかないもんだねぇ。」

青に変わった瞬間に私たちは左右に分かれた。

「じゃ!」

振り返るとガタガタと震える自転車でふらつきながら去っていくマスターの後姿が見えた。

旅の出会いとは、こういうサッパリしたものが良いと思った。連絡先も交換せずにただ一期一会を楽しむ。

私はその後、宿屋の張り紙で偶然見つけたプールに向かった。

原付で20分ほど走ったところにプールがあり、
独り占めで楽しむことができた。

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その日の夜、私はまたベトナム統一鉄道に乗り、最終目的地ハノイへ向かった。

ホームでハノイ行きの電車を待っているとバックパッカーが話しかけてきた。彼は30代後半の日本人バックパッカーで、聞いてもいないのに過去の旅の話を誇らしげに、何ヶ国回ったとかどこどこの観光地に行ったという話を延々と話してきた。





つづく…


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