きなこ

はじめまして。野生の一人文芸部です。この物語はフィクションかもしれないしそうでもないか…

きなこ

はじめまして。野生の一人文芸部です。この物語はフィクションかもしれないしそうでもないかもしれません。 お仕事のご用命はTwitterのDM。もしくは此方の方までお願いいたします。⇨https://note.com/6016/message

マガジン

  • 1年生日記

    医療的ケア児付き添い登校の記録。

  • 1年生に、なれるかな。

    うちの末っ子、心疾患児であり医療的ケア児の就学の記録です。

  • 小説:グリルしらとり

    東京の小さな洋食屋を舞台に、ひとりの男の子の周りにいる人々のことを書きます。優しい物語を『グリルしらとり』のメニューを題名にして10篇ほどかけるといいなと思います。

  • 小説『みらいを、待ってる』

    コンテストに一応応募したものの箸にも棒にも引っかからなかったものを、さらに引き延ばして書いたものです。お焚き上げのような。

  • 短編集:詩を書く

    短歌や詩を下敷きにして小説を書きました。1つのものが1万字を上限にしています、ちょっと気の向いた時によめるものをこつこつ書いてここに置いておきます。あなたの気の向いた時に気軽に自由に手にとってくださると書いている人間は喜びます。

最近の記事

廊下の子どもたち

この春から色々あって小学校の廊下から子ども達の様子を眺める生活を続けている。 教室棟の1年生の教室から昇降口を挟んで2年生の教室に伸びる真っ直ぐな廊下の隅がわたしの定位置で、外に面した窓からは欅並木のグラウンドが見える、右手側には夏の訪れを待つ25mプール。 朝、令和の今は色とりどりのランドセルの揺れる集団登校の時間から、ランドセルの中身を出して仕舞って宿題プリントを出し、それからアサガオに水をあげると、朝学習、それから1時間目。 その頃になると、廊下はしんとして、響く

    • 短編小説:いぬのかぞく

      「なあモリさん、俺にはな、娘がおるんや」 霧雨の降る日曜の午後、朝からずっと落ち着かない様子で家の中を秀さんは、床に寝そべるおれの顔を覗き込んで言った。 「子どもなんて、スグきるもんやろと思てたんやけど、1年たっても2年たっても3年たってもどうにもでけへん、それで病院で調べてもろたら、里佳子さんは健康そのもの、いつでもママになれますてことやったんやけど、俺があかんかった」 ニンゲンの繁殖事情はよくわからないが、ともかく秀さんは細君の里佳子殿との間になかなか子が授からなか

      • やさしさで、できてなくてそれでいい。

        「放課後、帰宅中の児童らが、彼等の近くを歩いていた障害者の方の歩き方を真似して笑っていた、これは如何なものか、学校できちんと指導してほしい」 という内容の電話が学校にあったらしい。 昨今は悪戯な子ども達のしたことを大人がその場で叱って諭すとうっかり「声かけ事案」として警察署に通報されてしまいかねない。電話の方はそれを知っていて直接注意をせず、小学校の方に注意の電話を入れるという判断をされたのだろう。 それで朝、登校から1時間目の隙間の時間に「自分とはやや異なる体を持って

        • 1年生日記(13日目)

          ウッチャンは「あと数センチで彼岸に手が届く」ところまで行き、しかしその後此岸にものすごい勢いで戻って来たことがある。 3年前、3度目の心臓の手術のすぐ後のことだ。 あの時のウッチャンは、わたしがシロウト目線で数えただけでも25個のシリンジポンプ、3台の吸引機、人工呼吸器、人工透析器、ペースメーカー、アイノフロー、それからエクモと呼ばれる補助循環装置、その他諸々のなんだかわからないものたちに繋がれていた、あれがウッチャンにとって過去最大の医療機器装備だったと思うし、ICU在

        廊下の子どもたち

        マガジン

        • 1年生日記
          9本
        • 1年生に、なれるかな。
          9本
        • 小説:グリルしらとり
          5本
        • 小説『みらいを、待ってる』
          4本
        • 短編集:詩を書く
          6本
        • 短編小説集:春愁町
          5本

        記事

          短編小説:猫になりたい

          朝起きたら、猫になっていた。 東の窓から差し込む朝陽を掴もうと手を伸ばしてみたら、自分の手の様子がなんだかおかしい。そう毛深い方ではないはずのわたしの腕に真っ黒な毛がみっしり生えている。おかしいなあと思って身体の向きを変えると、今度はこの家に引っ越した時に買ってもらったスチールフレームのシングルベッドが妙に広い。倍、いやもっとだ。 (なんか、ヘンじゃない?) ひとまずベッドから降りようと、いつものように床に足を降ろすと、床が異様に遠かった。 (あ、落ちる!) そう思

          短編小説:猫になりたい

          短編小説:「あ、おいしい」

          「もうちょい少なくしてほしいねんけど…」 この台詞を僕は人生で何度、情けない声で呟いただろう。 給食は基本的に残してはいけない。しかし僕のように極端な偏食や少食の子の救済措置として給食の減量が許可されている。僕は毎日、給食当番の前に皿を差し出して「あ、ソレもう少し減らしてくれへん?」と、給食の減量を懇願し続けていた。 僕は食べられるものが極端に少ない、肉類は鳥のささみがほんの少し食べられるけれどそれ以外は全部だめ、牛肉は匂いを嗅ぐのもダメだし、豚肉の脂身は多分吐く。加工

          短編小説:「あ、おいしい」

          わたしと大阪

          大阪が苦手だった。 わたしが地元の北陸を出て最初にひとり暮らしをしたのは、京都御所のごく近くの小さな学生用アパートだった。 平安の昔に建立された寺社仏閣と苔むした社の隙間に突然コロニアルスタイルの教会が現れ、その辺にいる若者の大体は近隣の大学の学生、駒寄せに囲われた町家の並ぶ街並み、そこにあるすべてのものをわたしはとても好きだったし、今でもとても好きだ。わたしがハタチ前後だったあの界隈にはまだ喫茶店の『ほんやら洞』があって、いもねぎが名物の『わびすけ』があった。 御所で

          わたしと大阪

          1年生日記(12日目)

          実はここ数日、ずっと 「朝ウッチャンを送り支援級の担任の先生か支援員さんにその日の体調のことなどを申し送り、しばらく様子を見て帰宅、昼ごろ給食をめがけて再び学校に行き2.0vの酸素ボンベを1.1vのものと交換し服薬を確認して帰宅、5時間目の終わりごろに再びウッチャンのお迎えのために学校へ」 この3往復形式が果たして本当に正しいのかということを考えていた。一度は「まあしゃあないよね」と思ったこれを始めて数日後、我が家でちょっとした事件が起きたものだから。 さて、うちの夫と

          1年生日記(12日目)

          1年生日記(11日目)

          1年生11日目。 小学校の掃除の時間をわたしはあまり好きではなかった。廊下や下駄箱の掃除担当になるとグラウンドからさらりさらりと流れて、もしくは子どもたちの足裏にくっついてやってきた砂がホウキで掃いても掃いても出てくるし、トイレや手洗い場の掃除は、地元が冬はしんと雪の降る北国だったせいもあって手指の感覚が無くなってしまうほど冷たくて辛いし。 広い教室の床を雑巾で拭くのも嫌だった、膝をつきつき雑巾をかけるから膝が汚れるし衣類も痛む。思えばうちの一番上の現15歳の小学校の頃に

          1年生日記(11日目)

          不完全幸福

          3月まで居座っていた冬が、突然「あ、春でした」とでも思ったのか突然消え去って桜が各地のあちこちで咲き初めた4月。その4月第一週目に間に合わせるようにして桜の咲いた金曜日、12歳の中学校の入学式があった。 12歳が進学したのは地域の公立中学校で、12歳と同じ小学校のお友達の7割はここに進学するし、その上このすぐ前の3月に12歳の兄が同じ中学校を卒業したばかり、勝手知ったる中学校の、12歳自身も親も、随分と肩から力の抜けた、静かで穏やかな入学式。 「でも、制服が可愛くない」

          不完全幸福

          1年生日記(8日目)

          4月17日 小学校ではひらがなを、あいうえおの『あ』から習う。 わたしもかつて小学生だったうんと昔そうだったので、特に新鮮な驚きというものはそこにはないのだけれど、よくよく考えてみると一体何なのだろうかあの『あいうえお』って。 朝、ウッチャンと一緒に登校して1時間目のおわりか、2時間目の途中頃まで廊下でそっと立って(椅子も用意していただけたけど、座るとウッチャンが視界に入らない)ウッチャンの口唇の色、手指の血色、それから次第に姿勢が傾いて机に突っ伏したりしていないかを見

          1年生日記(8日目)

          1年生日記(7日目)

          4月16日 付き添い7日目、7というのは質感、音、形、全てがきれいな数字だと思う。その上、涼しい見た目に反していざ手に取るとほんのり温かい気がする。一見ひどく冷たそうに見える美人に意を決して話しかけてみると、意外に朗らかでまったく気取らない人だったと、そういう感じ。 でもうちの15歳、現在高校1年生から言わせるとそれは 「7はメルセンヌ数であり、メルセンヌ素数である、綺麗かどうかはしらん」 ということで、なんで数字の質感を気にするねんということのよう。尚この15歳の同

          1年生日記(7日目)

          1年生日記(6日目)

          4月15日 土日を挟んでまた月曜日、日中は少し汗ばむくらいの気候になってきた4月の半ば。 朝の登校班にはちらほらと半袖の男の子に、あれはなんて言う種類の衣類なのか、肩の部分がシースルーとかむき出しになっているタイプのカットソーの女の子(予防接種の時に喜ばれるアレ)がいて、そこだけなんだか初夏の風が吹いているような。 学校がお休みだった土曜日と日曜日、わたしは入学前に想像していた『病弱児・虚弱児学級』と、ウッチャンが今在籍している『病弱児・虚弱児学級』の実態があまりにも乖

          1年生日記(6日目)

          1年生日記(5日目)

          4月12日 5日間、1年生の教室に張り付いた、自分の子どものためだ。 医療的ケア児で、24時間の在宅酸素療法が必要なのだけれど、知的、情緒的、運動機能的な側面はぜんぶ普通の子のキワのキワにぶら下がっているウッチャンに『丁度いい学校』というものはいま現在地域に存在しない。 いや、もしかしたら、どこにもないのかもしれない。 少女漫画の古典にして金字塔、大島弓子先生の短編『毎日が夏休み』に、御近所の奥様方が「まあ立派なとこにお勤めなんですのねえ」と嘆息を漏らすような有名企業

          1年生日記(5日目)

          1年生日記(4日目)

          4月11日 Amazonのサイトに 『価格も品質も申し分ないのですが、いかんせん組み立てに力がいります。キャンプに持っていった際、高校生の娘の力では組み立てられませんでした』 というレビューのキャンプ用のコットがうちにある。それは撥水加工のキャンバス地に3つに分割してある骨組みを組み立てて滑り込ませ、キャンバス地と一体化した骨組みに空いた穴にスチール製の細い足を4つはめ込むと、軽量でかつ丈夫な簡易ベッドができるというもの、小さく分解できるので運搬も簡便。でもキャンプ用品

          1年生日記(4日目)

          1年生日記(3日目)

          4月10日 学校の廊下が寒い。 春、桜が咲いたらすぐに初夏がやってきてたちまち向日葵の笑う真夏になるというのが、ここ数年定着した春から夏への季節の移ろいだったので、今年も桜が咲いてしまえばすぐ上着要らずの温かな季節が来るだろうと思っていたら、ここ数日は思いがけず冷たい春で、わたしは今日も一人、換気のため窓を開け放った廊下で凍えながらじっと教室の張り込みを続けていた。 去年の冬「軽いし温かいし、きっと出先でウッチャンの保温に役に立つ」と言って清水の舞台から飛び降りて大腿骨

          1年生日記(3日目)