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ベンチャー企業の会社員が、フリーランスになって失ったもの。

ひとり法人である「フルスタックマーケティング株式会社」の代表取締役CEO・清水優志(@fsm_shimizu)です。
企業のマーケティング活動を支援しています。

僕は2017年4月から約2年半、渋谷のベンチャー企業で会社員として働いていました。
その会社を辞め、2019年10月に独立してから、法人を設立する2023年7月までの約3年半は、マーケターとしてフリーランスをやっていました。

僕はフリーランスという生き方をとても気に入っていましたし、いまでも「ひとり社長」としてほとんどフリーランス時代と変わらない働き方をしています。
しかし、思い返せばフリーランスになって失ったものもたくさんあります。

このnoteでは、僕が「会社員がフリーランスになって失ったもの」について、僕なりの視点でまとめたいと思います。

無条件に助けてくれる人たち

フリーランスになると、自分の世話は自分でしなければなりません。
それはまるで、義務教育を終えた子どもが親から「進路のことは自分で決めなさい」と、愛を持って突き放されるような、そんな状態です。

社会の仕組みは、けっこう非情です。
向こうから「独立するならこういう書類を出してね」「こんな保証や補助金があるよ」「こういう仕事を増やしていくのがおすすめ」なんて声かけをしてくれることは、まったくありません。
自分で調べて、探して、決めていかなければならないのが社会人です。

でも、会社にいると、なぜか無条件に助けてくれる人たちがいるんですよね。

知らないこと、わからないこと、調べたり決めるのが面倒なこと、ぜんぶ会社がやってくれていたりします。ありがたい話です。
妊娠すれば育休の案内をしてくれるし、出産・子育てすれば手当が出る。引っ越したら新住所を提出するだけで事務手続きは完了。キャリアアップの相談だってできます。なぜかボールペンとか付箋ももらえます。

特に日本人は、自分で調べ、考え、行動し、権利を勝ち取るという一連のアクションが苦手な民族です。逆に言えば、社会制度に対しての漠然とした不信感や不安感を持っている人が多いのではないでしょうか。
僕も含め、そうした人にとって、会社員という生き方に安心感を覚えるのは、当然のことだと思います。

強制される目標

自由主義の社会に生きていると「強制」という言葉に敏感になってしまいますよね…。自由を奪うもの、人権を侵すもの、というイメージがつきまといます。
しかし、僕はフリーランスになってみて、「強制」には良い面もたくさんあると実感しました。

その最たる例が「目標」です。

フリーランスになると、目標は自分で立てなければなりません。
しかし、自分の目標を自分で決めて、しかも計画的に実行できる人がどのくらいいるでしょうか。僕は、決して多くないと感じます。

かくいう僕も、独立してから現在に至るまで、明確な目標は特に立ててきませんでした(それでもなんとかなっているのは、運と根性のおかげだと思っています…)。

もし僕が今より少しでも怠惰で自制心のない人間だったら、10時に起きて、鼻くそをほじりながらゲームに興じ、ポテチ食べて酒飲んで、適当に連絡を返して仕事をしたふりをする、そんな生活を送っていたかもしれないと思うと、恐怖で鳥肌が立ちます。

「大多数の、目標設定が苦手な人」にとって、組織が強制的に課してくれる目標は、自分を律し、成果に向けて突っ走るための北極星になります。
自分をコントロールするために使うべきエネルギーを、仕事に100%向けられるのですから、こんなに楽なことはありません。

オフィスという協働空間

僕はこの1年、実は一度も「オフィス」に出社していません。さらに言えば、オフラインで仕事関係の知り合いと顔を合わせたこともありません。
つまり、1年間ずっと、仕事のために人と会っていないのです。

会社員をやっていたころは、毎日、朝10時ごろにオフィスに着いて、遅い日には24時くらいまで仕事をしていました。
もちろん毎日、同僚たちとも顔を合わせていました。今とは真逆の生活です。

会社を辞めて改めて考えると、オフィスで働くことは「自分のやりがい」を醸成するうえでは重要な要素でした。

僕のようにIT業界で仕事をしていると、エンドユーザー(最終的に商品やサービスを買ってくれる消費者たち)の顔が見えづらく、声も聞こえづらいので、必然的に「仕事仲間がどう思うか」「仕事仲間にどう評価されるか」がわかりやすい成果指標になります。
仕事仲間が褒めてくれると嬉しいし、仕事仲間に評価されれば「これでいいんだ」と胸を張れるわけです。

もちろん、本質的にはエンドユーザーの満足がすべてです。
しかし、構造的にそれが自分をモチベートしづらい以上、「自分のやりがい」を維持するにあたり、オフィスという物理的な協働空間で仕事仲間からフィードバックを受けられるということは、とても大事なことです。

オンラインでも似たようなことはできますが、やはりオフラインとオンラインだと情報量に圧倒的な差が生まれます
デジタルはアナログの持つ情報量を圧縮してしまいます。レコードで生演奏が再現できないように、あるいはSpotifyでレコードが再現できないように、オンラインはオフラインを完全には代替できません。

組織のダイナミクス

僕がいた企業は、入社当時で7期目のいわゆるベンチャー企業でした。

入社した頃は業績も良く、新規事業への投資も盛んだったのですが、入社2年目になると徐々に雲行きが怪しくなっていきました。

成長が鈍化し、退職者や体調不良者が続出するなど、いわゆる「組織の成長痛」に蝕まれていました。
このころは、よく「50人の壁」という言葉を耳にしました。組織は50人を超えるタイミングで大きな壁にぶつかるのです。

この対策として、現場の意見も取り入れながら「企業のビジョン・ミッション・バリューをアップデートする」プロジェクトが始まりました。
貴重な業務時間を使って、半年以上の時間をかけて、どうすればこの苦境を乗り越えられるかを、有志の社員が一丸となって検討することに。

このプロジェクトの最終日、社長が涙を流しながら「会社を良くするために、協力してくれてありがとう」と話していたのを鮮明に覚えています。
社長という仕事の圧倒的な孤独感を初めて理解できたのも、このときでした。

このように、組織には人が集まり、人が集まるところには大きなうねりが生じます。僕はこれを「ダイナミクス」と呼んでいます。
フリーランスをやっていると、こういった組織のダイナミクスとは無縁になります。業務上の関わりはありますが、基本的には外部の人間として扱われますから、社員とは情報量も、求められる行動も、まったく異なります。

当然いいことばかりではないのですが、壮大なドラマの当事者としてダイナミクスの渦中にいられる経験は、何者にも代えがたいものだなと、今は思います。

同じ釜の飯を食う仲間

会社を辞めてからというもの、人と会う機会も、人と遊ぶ機会も、驚くほどに減りました。
僕の場合は、結婚したことも大きな要因ではありますが、やはり会社員に比べると、フリーランスは人間関係が希薄化しがちです。

その分、能動的に動いて人間関係を広げたり、コミュニティに所属するなどして、不足分を補うことはできます。
ただし、フリーランスにとっての仕事上の人とのつながりは、会社員のそれに比べると脆く儚いものです。

それもそのはずで、会社員にとっての同僚というのは、文字通り「同じ釜の飯を食う仲間」であり、運命共同体だからです。

会社員時代、残業終わりに同期や先輩たちと居酒屋に行き、山ほどビールを飲んで、締めにラーメンを食べ、帰ってからまた仕事をして、翌日は二日酔いで出社する、なんてこともよくありました。
プロフェッショナルとしては褒められたものではありませんが、こういう「無駄」の中にこそ、会社員としての人生の物語はあります

西洋の「会社」観が日本でも知られるようになったことと、日本の個人主義・効率主義が進んだことで、会社における人間関係は以前よりもドライになってしまいました。
しかし、僕は日本の会社組織の基盤や会社員としてのアイデンティティを強固にする一因として、ある程度ウェットな人間関係は欠かせないものだと考えます。

フリーランスは孤独だとよく言われます。
「ひとりでいること」を孤独とは思わない人でも、ふと、「誰かと一緒にいない自分」を認識し、孤独だと感じる瞬間はあるのではないでしょうか。

特に会社員を一度でも経験し、素晴らしい同僚に恵まれた人ほど、反動による孤独感は大きいかもしれません。

まとめ

僕のキャリアで最大の幸運は、フリーランスになったのと時期を同じくして、妻と出会ったことかもしれません。

フリーランスになってたくさん失うものもありましたが、妻と暮らしていると、無条件に助けてくれるのも、目標を与えてくれるのも、一緒に働くのも、大きなドラマを一緒に経験するのも、同じ釜の飯を食うのも… すべての役割を妻が引き受けてくれました。

結果として、僕は会社員を辞めてからも喪失感を覚えたことは一度もなく、一切の後悔がないままにフリーランスを満喫できたのでした。
もしあなたに大事なパートナーや、大切な仕事仲間がいるなら、フリーランスになったときは、きっとあなたを支えてくれるでしょう。

最後に、フリーランスになりたてのとき、よく妻と一緒に聴いていた、大好きな曲の歌詞を紹介して終わります。

夜の深さに自信を失う 最近いいことないし正解とか探しちゃう
いいから進もう 思いの向くまま 悩む理由は悩んでから考えろ
振り向きがちなあなた 優しくて臆病だ 小さなことで落ち込んでしまう
いいから進もう 思いの向くまま 涙が出るのは強い証だ

『ひとりの夜を抜け』Lucky Kilimanjaro

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