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「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第一章 館林(その1)
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トーストのパンくずがついた皿を流しにさげると、調理台の上に置いてあるお盆を手にとった。
お盆の上には、赤いごはんに豚肉と白菜の煮物をかけ、焼いたバナナをトッピングした料理がのっている。
「また赤飯のやつ?」
食卓でワイドショーを観ている母に声をかけると、
「赤飯じゃなくて黒米ごはん。からだにいいのよ」
一瞬たりともテレビから目を離さないまま、母は言った。僕との会話より、熱帯夜の快眠法
「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第一章 館林(その4)
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カーテンからまぶしい光が漏れている。気づいたときには朝になっていた。
ここはどこで僕はなぜこのベッドで眠っているのだろう? 格式のある木製家具が置かれていたが、ホテルの一室にしては広かった。
じゅうたんの上に転がる笛が光っていた。きのう話した犬笛の少年のことを思い出し、壁を叩いてみた。
「犬彦くん。ねえ、犬彦くん」
返事はなかった。また壁を叩いてみたが結果は同じで、夢だったのかと思いつ
「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第一章 館林(その3)
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普段どおり、制服を着て8時すぎに家をでた。東から射す新鮮な光が熱っぽく僕を包みこむ。
今朝も母は素っ気なかったが、黙ってトーストにベーコンエッグをつけてくれた。だが、カバンには着替えとお泊りセット、そしてぬいぐるみが入っていた。僕はすこし胸が痛んだ。
いつものように、小次郎に朝食を持っていった。牛しゃぶごはんだったので、皿までペロペロなめていた。
なにかを察知されたのか、玄関を出るとき、う
「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第一章 館林(その2)
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「あっ、そうだ。〝空飛ぶペンギン〟って知ってる?」
終点の池袋でおりると、狛音がいま思いついたみたいに言い出した。僕らはホームの人の流れに乗って改札口にむかっていた。
「サンシャイン水族館のでしょ。テレビでやってた」
構内のアナウンスに負けないよう声を張ると、
「あたし、見てみたかったんだよね。行ってみよう」
池袋駅を一歩出ると、照明弾のような太陽が僕らの目を射た。
青く澄んだ夏の
マイ・スイート・ホーム(公園の桜と引っ越し代の行方)
大学生のころの話だ。塾講師のアルバイトをはじめて実入りがよくなったので、築20年のアパートから新築予定のマンションに引っ越すことにした。
家賃は4万円台から6万円台へと跳ねあがったが、オートロック付きでバス・トイレも別だった。
入居の契約をすませ、あとは建物の完成を待つばかりというときに、不動産屋から電話がかかってきた。4月に完成予定だったが、工事の遅れで完成が1カ月ほど延びるという。
そんな
タイムトラベルーーウド鈴木とスペースワールドのないスペースワールド駅
押し入れの整理をしていると、ふと段ボールのなかの1冊のアルバムが目に入る。パラパラめくってみると、小中学校のころのアルバムだった。すえた香りとともにたちまち懐かしさに引きこまれた。
スペースシャトルの前で撮った写真が目にとまる。小学校の修学旅行で北九州のスペースワールドに行ったときの写真だった。
スペースワールドは宇宙をテーマにしたテーマパークで、ディスカバリー号の実物大のモデルが飾ってあった