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地下アイドルは、「ライブアイドル」なのか?

どうでもいいけどこだわりたくなることを、人は趣味と呼ぶ。

つまり、役にも立たないしお金にもならないということ。地下アイドルオタクのかべのおくです。


僕はこの世に生を受けてからというもの、「地下アイドルオタクのかべのおくです」という自己紹介をしてきました(大嘘)。

しかし最近では、「ライブアイドル」という用語が登場したことで、「地下アイドル(最近ではライブアイドルとも呼ばれる)」という表現をよく目にします。



…いや、本当にそうなのか?



僕はいまだに、地下アイドルと同じニュアンスを持った言葉として「ライブアイドル」を使うことができていません。noteにおいては殊更、「ライブアイドル」という表現を使ったらなんか負けな気すらしています(そんなことはないだろ)。

似たようで似ていない、違和感のある2つの言葉について、オタクなりに真面目に掘り下げて考えてみようという最高にエキセントリックなnoteです。



※なお、このnoteにおいては、地下アイドルとライブアイドルのどちらでも捉えられるアイドルを表現する場合、「地下アイドル」としています。

そもそも、地下アイドルとライブアイドルとは?

まず、「地下アイドル」と「ライブアイドル」という言葉のあらましについて解説します。


地下アイドルとは

地下アイドルには様々な著作がありますが、元地下アイドルである姫野たまさんの「潜行~地下アイドルの人に言えない生活」が参考になります。

この本において地下アイドルとは「ライブ活動をしていて、ファンとチェキ撮影をするアイドル」と位置づけられています。


ライブアイドルとは

調べたところ、「ライブアイドル」という言葉を使い(広め)始めたのはサエキけんぞうさんという方らしいです。

どうやら、「地下アイドル」という名称が与える印象があまりよくないから作られた言葉のようです。どうりで取ってつけた感があるわけですね。

ちなみに、ネットにはサエキさんのインタビュー記事も上がっていて、ここでも「ライブアイドル」が連発されています。

「ライブアイドル」という言葉は2011年時点ですでに使われていたというのは少し意外でした。


地上アイドルと、地下アイドル・ライブアイドルの違い

なんとも境界線の曖昧な地下アイドルとライブアイドルですが、ここで地上アイドルを持ち出して、その違いを構造的にとらえてみようと思います。


元地下アイドルの方が書かれた以下のnoteが非常に参考になりました。

「地下アイドルはメジャーを目指すアイドル」「ライブアイドルとはライブで生計を立てるアイドル、メディア出演もライブ動員を増やすため」という定義が紹介されており、とても分かりやすく、経験者なりの示唆に富んでいる解釈だと思います。


上記の定義を元にすると、地下アイドルと地上アイドルの関係性は以下のようになります。

地下アイドルと地上アイドルの関係性

あくまでも地下アイドルは「地上アイドル以下のアイドル」であり、明確な上下関係が存在しているわけです。もしかしたら、自分もいつしかメジャーデビューできるかもしれない。考えようによっては可能性すら感じさせる表現でもあります。


一方でライブアイドルの位置づけは違います。関係図にすると以下の通りです。

ライブアイドルとメディア(地上)アイドルの関係性

ライブアイドルと地上アイドルは、そもそもの主戦場が違います。地上アイドルはメディアで集客を行っている、いわばメディアを主戦場にする「メディアアイドル」です。一方でライブアイドルの主戦場はライブであって、そもそもフィールドが違うだから上下など存在しようもないよね?という今風な考え方といえます。


結局、地下アイドルとライブアイドルはどう違うのか

さて、ここまでで地下アイドルとライブアイドルの違いを見てきました。まとめると、

  • 地下アイドル=地上以下のアイドル

  • ライブアイドル=ライブが主体であるアイドル

ということになるでしょう。


しかし、これでは「じゃあ、自分が通っている現場は地下アイドルなの?地上アイドルなの?ライブアイドルなの?」という話が解決していません。

結局、地下アイドルもライブアイドルも本質的には「ライブ活動を主体としているアイドル」なわけです。あとは個々人がどういう基準でその言葉を使っているのかをはっきりさせないと意味がありません。

というわけでここからは、僕にとっての「地下アイドル」「ライブアイドル」論を語ります。


「ライブアイドル」が使われ始めた理由の考察

そもそも「地下アイドル」があったのに、なんでライブアイドルという言葉が生まれて目につき始めたのか。理由は大きく2つあげられます。


「地下」イメージ払拭のため

まず浮かぶのは「地下アイドル」ではなく「ライブアイドル」を使うことでイメージアップをはかる狙いです。これは「推し活」の需要を取り込みやすくする狙いもあると考えられます。

「地下」という表現には、アイドルを下に見る感情が多少なりとも含まれます。それでもオタク間の通称としての「地下アイドル」は全く問題なく用いられていたのは「AKB、ハロプロ、スタプラ以外のアイドル」という区別ができればそれでよかったからです。

しかし、2021年頃から活発になった、「アイドル」というコンテンツを使ったビジネス、つまり「推し活マーケティング」をするうえでは「地下アイドル」という表現は好ましくないと考えられます。そこで、ライブの物販で収益を稼ぐという機能的側面だけを強調するための「ライブアイドル」が使われるようになったのではないでしょうか。


「地下アイドル」に収まらないアイドルが登場したため

前述のマーケティング業界の陰謀は、ワクワクしますが短絡的で面白くありません。もう少しまともな理由はないのでしょうか?そこで考えられるのは、地上アイドルみたいだけど、地上アイドルではないアイドルが登場し、増えてきたためという解釈です。


先述の通り、地下アイドルは世間一般には全く知られていません。もちろんメディアにも出られるわけでもなく、対バンライブでの集客が中心で、それでも足りなければ路上でのビラ配りで運良く新規を取り込むくらいがやっとです。

しかし、近年のSNSマーケティングの発展によって地下アイドルもメディアでの集客が可能となりました。Instagramはとにかく盛れる写真を投稿できれば見てもらえるし、TikTokは面白いか可愛いか猫か子犬が出てくればバズるアルゴリズムが整備されてきたのです。


この結果、今までと違った所から顧客を引っ張ってくることで、地上アイドルでも地下アイドルでもないビジネスが可能になっています。

たとえばFRUITS ZIPPERは初期こそ地下アイドル的ビジネスをしていましたが、「私の一番かわいいところ」でのメジャーデビューを経てマスメディアにも頻繁に出演するようになりました。高嶺のなでしこは10代~20代前半に圧倒的支持を得ているHoneyWorksのサウンドプロデュースにより、JKからおじさんまで幅広い年齢層を動員しています。

しかしそれでも、AKB48や坂道、イコノイジョイ、ハロプロみたいにシングルリリースのたびにTVでパフォーマンスをしたり、大箱でコンサートを定期開催するには至っていません。やはりライブという日々の現場で歌って踊ることが彼女たちの活動の本質であり、ライブが主戦場であることには変わりありません。


以上のように、地上みたいだけど地上ではない地下アイドルを表現するための「ライブアイドル」は非常に便利でしょう。ビールみたいだけどビールではないアルコール飲料、「発泡酒」みたいなものでしょうか。


地下アイドルを「ライブアイドル」と呼んでもいいタイミング

「ライブアイドル」は、必要に駆られて生まれて広がった表現だということが分かってきました。じゃあどうやって使いわければいいのでしょうか?僕なりに「ライブアイドル」を使ってもいい、使っていきたいタイミングは次の2つです。


一般人に趣味を紹介するとき

初めて知り合った一般人、しかもオタクでない人に自分の趣味を紹介する場合、「ライブアイドル」は使いやすい表現といえます。「地下アイドル」と紹介するよりも説明がぐっと楽になるからです。


先述の通り、「地下アイドル」は、その言葉を使った途端に明確な上下が発生します。聞き手は、「この人にとっての『地上』と『地下』は何なんだ!?」という疑問を抱きかねません。

ここで一歩間違えて、「乃木坂とかAKBみたいに有名じゃないんですけど~」みたいな具体名を出してしまえば、聞き手は地上アイドルの名前に引っ張られてしまい、

「乃木坂だと〇〇ちゃんが好きだったんだよね~」
「あ~僕も乃木坂では✕✕ちゃん推しなんですよね~」
「…(沈黙)」
「…(沈黙)」

という浅い会話になって終了です。


一方で「ライブアイドル」という表現ならこのような混乱を招きません。相手にとっても「ああ、メディアに出るんじゃなくて、ライブ活動が中心のアイドルなのね」と理解してもらえるでしょう。


ただ、いきなり「ライブアイドル」という表現を使うと、相手も知らずに困惑する可能性があります。そもそも一般人にとって地上、地下、ライブアイドルの区別は重要ではないでしょう。単に、「休日はアイドルのライブを見に行っています。」「趣味はアイドルのライブを見に行くことです。」と言うだけでもいいのかもしれません。


地上アイドルと対比したいとき

いわゆる「地上アイドル」と対比する際にも、「ライブアイドル」という表現はとても有用です。上か下かではなく、ライブかメディアかという議論に持ち込めるためです。


前述の通り、そもそもメディアを主戦場とする地上アイドルと、ライブ会場を主戦場とする地下アイドルは、「アイドル」という体裁が同じなだけで、ビジネス的に見れば全く別物と言っても過言ではありません。にも関わらず、「地上」「地下」というワードで比較するのは少しナンセンスといえます。

ならば、「ライブに来てもらったオタクとの交流を大事にしているアイドル」という意味合いで「ライブアイドル」を使うことには合理性があると言えるでしょう。


もちろんライブアイドルを応援したいからと言って、必ずライブに行かなければならない、ということはありません。応援スタイルはオタク側に委ねられていると思います。ただし、応援の気持ちをいちばん分かりやすく表す手段が、ライブに沢山行くこと・チェキを積むこととされているというだけです。

逆に、地上アイドルだからと言って、本人たちがライブを軽んじているわけでは決してありません。ライブアイドルと同じかそれ以上の覚悟でステージに臨んでいるメンバーも沢山います。あくまでもファンが興味を抱くきっかけ、集客の主体がメディアであるだけであることにご留意ください。


それでも僕が「地下アイドルオタク」を名乗る理由

さてここで終わりでもいいのですが、最後になぜ僕が「地下アイドルオタク」とわざわざ名乗っているのかについて、この際話しておこうと思います。


地下アイドル文化へのリスペクト

まず第一に、僕が地下アイドル文化にある種のリスペクトを抱いているということがあげられます。地下アイドル現場の多様性さ、奥深さに果てしない魅力を感じているためです。 

私見ですが、「地下アイドル」と「ライブアイドル」の違いは、言葉が抱えている歴史の違いだと思います。前述の通り地上(メディア)アイドルと区別するために生まれた「ライブアイドル」は、機能的側面が強いと言えます。一方で「地下アイドル」には、名も無きアイドル達、オタク達によって作り上げられてきた文化が内包されています。

僕はそんな「地下アイドルの文化に染まっているオタク」であり、これからもその世界で生きたいと考え、敢えてこの言い方をしているのです。


オタクとしての立場表明

第2に、オタクとしてnoteを書くうえでの立場表明という目的もあります。書き出しの段階で、「今から地下アイドルのオタクが話しますよ」ということを明らかにしておきたいからです。


地上アイドルオタクと地下アイドルオタクでは、日常生活・情報収集・推し方のスタイルが全く異なります。たとえばライブひとつとっても、頻度・会場・チケット代・服装などは全く異なるので、「うちの現場は違う!!!」と言われても困るわけです。

だから自己紹介でかましておけば、理解のある読み手は「ああ、この人はハロプロでもスタプラでもイコノイジョイでもなく、地下アイドルのオタクなんだな」という気持ちで読めますし、書き手の自分としても地下アイドル現場での経験をバックボーンとして、いい意味で借り物の自分で勝負できるのです。


ただしこれにはデメリットもあり、他人の畑に我が物顔でズカズカと踏み込むと、反感を買って炎上しかねません。そのため、「地下アイドルオタクではない人にとって、この書き方は伝わるか、失礼に当たらないか」「自分の推しが、この表現を見たら傷つかないか」など、いつも気をつけています(今回みたいな話題は特に)。


ただ、結局noteを書いている目的は自分のアイドルオタクの記憶・記録を文字として残しておくことです。なおかつ、多くの人の目に止まるならそれに越したことはありません。

多く読んでもらえるようなコンテンツを考えるうえで、「地下アイドルかライブアイドルか」なんてのは本当に些末なこだわりです。だから、必要であれば「ライブアイドルのオタクです。」と名乗ることも決して厭わない。そんな気持ちではあります。


おわりに

まとめます。

結局、ちゃぶ台をびっくり返しがち。

以上です。

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