見出し画像

マジパン思い出話第十八回 吉田優良里の卒業と五人の覚悟

 2021年5月26日、デジタルシングルとして「キラハピ」がリリースされます。盤ではない点は物足りないものの、今の時代、マジパンに限らず盤としてのリリースは利益を出すのが簡単ではありませんから、仕方がありません。
 横浜ベイホールでのワンマンライブを皮切りに、新生マジカル・パンチラインとして活発に活動していきます。コロナ禍による制限も少しずつ解除され始め、対バンやフェス等にも出演します。
 さらに、8月16日には新体制第二弾シングルとして「渚のサーフライダー」がリリースされました。宇佐美さんが歌い出しを担当した夏らしい快速チューンで、新たなマジパンの代表曲になりうる一曲でしょう。引き続き吉澤さんがデザインをした新衣装も、色が入りより華やかさが増しました。悪目立ちしない範囲で細かい部分まで拘りが貫かれていて、吉澤さんのデザインに若干の不安を抱いていた人たちも「これならもう安心だ」と思ったことでしょう。
 しかし、そういった順調な歩みの裏で、ファンの心には、ずっと引っ掛かっていることがありました。
 言うまでもなく、吉田さんのことです。この間、相変わらずSNSの更新はなく、公式からなにか発信されることもありません。グループの自己紹介でメンバーが「本当は六人なんですけど今は五人で……」と口にするたび、心にもやもやを抱えていました。
 恐れていた最悪の発表が行われたのは、活動休止からおよそ半年、9月30日のことでした。
 吉田優良里、グループ卒業。結局、新メンバー加入後一度もライブのステージに立つことなく、彼女のアイドル人生は終わりを告げてしまったのです。

 なぜ吉田優良里は卒業したのか。公式の発表は以下の通りです。

 いつもマジカル・パンチラインを応援頂き、誠に有難うございます。
 3月16日より、体調不良で芸能活動を休止しておりました吉田優良里ですが、本日、9月30日をもちましてマジカル・パンチラインを卒業させて頂く事となりました。
 体調は回復致しておりますが、本人とも協議の結果、グループは卒業した上で、引き続き株式会社ボックスコーポレーションに所属し、芸能活動を行っていく結論に至りました。
 吉田優良里のマジカル・パンチラインへの復帰をお待ち頂いていた皆様には突然のこのようなご報告となってしまい、誠に申し訳ございません。心よりお詫び申し上げますと共に、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
 今後とも吉田優良里、マジカル・パンチラインへの変わらぬ応援をお願い出来ますと幸いです。

 引き続き事務所には所属し芸能活動は継続する、という点は救いであったものの(といっても現在まで、目立った芸能活動は一切ありません)、はっきりした理由が語られない「卒業」には、釈然としないものが残りました。
 以下、完全に僕個人の推測である、と断ったうえで、少し語ろうと思います。あるいはこれは「邪推」であるかもしれません。その点をご理解いただいたうえでお読みください。
 まず、活動休止前まで、彼女に目立った不調は見られませんでした。それどころか、運動が得意で体力にも自信があり、風邪等でライブを休むこともありませんでした。
 そうなると、考えられる「体調不良」は「精神的なもの」という答えが浮かんでしまいます。
 個人的に強く印象に残っているシーンがあります。それは、三人の卒業の際、まるで子供のように号泣する吉澤さんを、年下であるにもかかわらず姉のように慰める吉田さんの姿でした。

 このシーンに象徴されるように、まだ若いのに大舞台にも物怖じせず、人前で涙を流すことも一切ありません。初ライブの際も「楽しかった!」と言い切っています。その肝っ玉の太さは歴代のマジパンメンバーでも随一でしょう。
 そんな彼女が精神的なことで不調に陥ってしまうだろうか、という気もします。反対に、こまめに発散することができず、一見強く見える人こそぽっきりいってしまうことがあるかもしれない、とも思います。
 繰り返しになりますが、これは一ファンの「邪推」です。デリケートな話題ですので、ここまで書くか非常に迷ったうえで書いた、ということをご理解ください。
 マジパン加入時、彼女はまだ中学一年生でした。最年少で、溌溂としていて、常にステージでは元気いっぱいでした。歌もダンスも、始めはただ元気なだけであったものが、どんどん上手くなっていきました。中でも「マジ☆マジ☆ランデヴー」の落ちサビで先輩メンバーに見守られ花道を進むさまは、今でも目に焼き付いています(そのパートは、意図したものなのかは分かりませんが、同い年の山本さんに引き継がれています)。
 素直で、食いしん坊で、オレンジというカラーにぴったりの明るさで周囲を照らす彼女は、全マジファンから娘、いや孫のように可愛がられた存在でした。
 2020年1月に開催された新年のファンクラブイベントで、僕は彼女が書いた書初めを抽選で引き当てました。

 いやもう、笑ってしまいますよね。他のメンバーが二文字や三文字でそれらしいことを書いている中「私のプリン食べたでしょ」ですから。
 いつか大人になった彼女と、額に入れたこの色紙を持ってツーショットを撮り「うわあ恥ずかしい」と言ってもらうことが夢でした。
 今だから書きますが、もし彼女が体調不良を乗り越え復帰したならば、その勇気に応えるため、自分もゆらり推しとして復帰しようと思っていました。それぐらい、彼女の復帰を祈っていました。
 しかし、その夢は叶いませんでした。

 吉田優良里の卒業は、せっかく順調にスタートした新生マジカル・パンチラインの歩みに水を差したニュースであったのはまちがいありません。しかし、メンバーたちはそれを振り切るように、力強く歩みを進めます。
 10月から11月にかけて、マジパンとしては最大規模の全国五都市を回るハロウィンツアーが開催されます。コロナ禍のためまだまだ制限がある中でしたが、五人でのマジパンの進化を証明したツアーであったと言えるでしょう。
 僕は、東京公演の2部に足を運びました。まともなライブを見るのは5月以来(夏に一度、アコースティックイベに行ったのみ)だったこともあり、メンバーの成長を実感することができました。
 前髪を作るようになった宇佐美さんのビジュアルがアイドルらしくなったこと、益田さんの歌声がしっかり出るようになったことも印象的でしたが、中でも特にインパクトがあったのが、山本さんの表情です。当時はまだ「表情筋神」という名言は生まれていません(翌2022年年始の書き初めイベが初出です)。しかし、常に全力のパフォーマンス、くるくると変わる表情はとても魅力的で、特に推しというわけではないのに、吸い付かれるようにカメラのレンズが彼女に向いたものです。

 11月10日には、デジタルシングル「カルミア」をリリースします。明るい王道アイドル路線に進む、と理解はしていても、それ一辺倒では物足りないなあという思いもあった中、がらっとカラーを変えた「カルミア」は、マジパンが持つ幅の広さを表してくれました。可愛いだけではない、カッコいい曲、エモい曲も歌えるのだと。第四章のマジパンでも屈指の名曲です。

 そうして、オーディションからの新メンバーの加入、吉田優良里の卒業という激動の2021年は終わります。様々な苦難を経たうえで「この五人で進んでいく」という覚悟を決めた一年だったと言っていいでしょう。

〈 目次 〉


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?