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マジパン思い出話第十六回 終わりと始まり~初の公開オーディション~

 六人組アイドルグループ、マジカル・パンチラインから、結成時からのオリジナルメンバー三人が卒業する。その衝撃は、計り知れないものでした。しかも、圧倒的なビジュアルと歌唱力を誇る絶対エース、小山リーナと、彼女と同い年で名コンビを組んでいてビジュアルと人気で一切引けを取らない清水ひまわり、そして、高い歌唱力と深い知性でグループを支える屋台骨であった浅野杏奈、という三人だったのですから。ただ人数が半減するという以上のショックでした。
 沖口さんは後に「このとき私が決断していたらグループは解散していた」と語っています。しかし「大人たちからの『解散とか考えないの?』という圧を、頭が悪い振りで無視をして『マジパン続けます』としか言わなかった」とも。
 ただただ、アイドルに強い思いがある、マジパンに誰よりも思い入れがある沖口さんがいなければ、このときグループの歴史が終わっていたことはまちがいありません。

 しかし、残った三人だけではグループを続けられません。9月5日の卒業発表からおよそ一ヶ月後、10月3日に開催されたTIF(コロナ禍にてオンライン開催。余談ですが、このときの夜のスカイステージでの「今日がまだ蒼くても」は、グループ史上一、二を争う圧巻のステージでした)にて、新メンバーオーディションを開催することが発表されました。
 予想外だったのは、オーディションを公募で、公開で行うこと、でした。
 もともとマジカル・パンチラインは、BOXコーポレーションに所属する女性タレント(あるいはその卵)たちによる社内オーディションを経て結成されました。吉澤悠華、吉田優良里の加入も同様で、いずれもその経緯は一切公開されていません。
 それが今回は一般から広く募るうえ、ミクチャを利用しそのオーディションの様子まで公開するというのですから、驚きです。
 三人の卒業ライブが無事に終わった翌日、11月4日から、オーディションが始まります。

 率直に言って、公募・公開というやり方には、功罪両面がありました。
 まず、功の面から。残った三人では、まともなパフォーマンスができません。新メンバー加入まで、どうしても空白期間ができてしまいます。その期間、ファンの興味をつなぎとめるイベントとして、ミクチャでの配信を利用した公開オーディションは有効でした。
 また、オーディション時から応援していた子が加入すればそのままファンになってくれる、という運営の目論見もあったでしょう。しかしこれは同時に、功罪の「罪」の部分にもなったのです。
 当時、いくつかのグループが同じような公開オーディションを行っていました。その様子を観察していた僕は、思っていました。
「これはかなりレベルが低くなりそうだぞ」
 と。いくつものグループが乱立している今、アイドル志望の女の子は分散してしまいますし、有望な子はメジャーアイドルを目指します。これでは、どうやってもレベルは高くなりません。
 しかし、いざオーディションが始まると、そんな僕の予想は大きく裏切られました。マジパンのオーディションに集まった候補生たちのレベルは、他と隔絶して高かったのです。これは、今までのオーディション同様、BOXコーポレーション内のタレント予備軍の子たちにも声をかけたからでしょう。昔から、BOXは美少女発掘には定評があります。
 ですがこの点がまさに、マイナスになってしまったのです。レベルが高すぎるがゆえに、既存のマジファンたちが応援する子がばらけた結果「応援していたのにメンバーに選ばれなかった」という悲しい思いをすることになりました。現に、いまだに当時の落選者のことを語る人はいますし、落選者の中には何人もその後別のグループに入った子がいて、その現場に足を運ぶマジファンもいるぐらいです。
 後にKマネさんは「もう公開オーディションはやらない」と語っています。それだけ運営側にとっても、大変なことだったのでしょう。

 このとき僕は、ドルオタ卒業と言いつつ、それでも気になってミクチャでの配信をちょこちょこ覗いていました。といっても、熱心に追っていたわけでもありません。なので、情報は決して多くないという前提で、このときの後の合格者三人の配信での印象を少し。
 まず、益田珠希さん。とにかくビジュアルとスタイルがすごい。高レベルの候補者たちの中でも図抜けていました。また、以前に別の配信オーディションの経験があったため、応援する人も多く、ランキングも常に一位でした。
 反面「表情が乏しくて暗いな」と思ったのも事実です。モデルならいいでしょうが、果たして歌って踊るアイドルはできるのだろうか、と。やる気を熱く語るタイプではなかった点も、不安が残りました。
 続いて、山本花奈さん。候補生たちの中では数少ない、アイドル経験者です。同じくBOXコーポレーションに所属していたアイドルグループ「ハコイリムスメ」の解散を経たうえでの、第二のアイドル人生へのチャレンジ。僕も、名前だけは知っていました。
 正直に言うと、彼女の配信は、あまり印象に残っていません。(今では考えられないことですが)「真面目で大人しい、いいところのお嬢様なのかな」と思った程度です。ハコイリムスメのファンが配信を支えていたため、それを敬遠して僕があまり見ていなかった、という側面もあります。
 これは想像ですが、元ハコムスでこのオーディションまで落ちれば、彼女のタレント人生そのものが終わる、と言っても過言ではありません。その緊張と危機感があったのかもしれないな、と思います。
 最後に、宇佐美空来さん。若い候補生たちの中でも、最年少です。ウクレレの腕前はプロ級で、歌唱力も非常に高い。明るい性格の生粋のエンターテイナーで、ゲームや生誕パーティーなど数々の工夫を凝らし、配信の盛り上がりは候補生の中でも屈指でした。これは大物だぞ、と思ったものです。
 しかし、元気いっぱいで可愛らしいものの「子供の可愛さ」だな、とも思いました。果たしてアイドルらしく振舞えるのか、そこに一抹の不安はありました。当時は特にアイドル好きというわけではなく「受けるオーディションをまちがっていないだろうか」と感じたところはあります。

 約一ヶ月に及ぶ配信審査が終わり、12月29日には最終選考通過者が発表されました。
 そうして迎えた翌2021年1月21日、マジカル・パンチラインの第四章を共に歩む新メンバーとして、益田珠希、山本花奈、宇佐美空来の三名が加入することが発表されたのです。


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