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初めてストリップ劇場に行って、理想のダンサーを見つけた話

明日をも知れぬ芸能

ストリップに行こうと思ったきっかけは、昨年読んだ花房観音先生の「女の旅」だった。

花房先生は広島でストリップという「昭和の遺物」と思われている身体芸術にハマる。
もっと言えば、花房先生は若林美保という今も現役のダンサーを見るために広島を訪れたのだけど…
(この章は、ありがたいことにnote上で全文が読める。僕の下手な解説より、ぜひコチラを)

この文章の美しさと共に、ストリップの「期限」あるいは「はかなさ」が、僕には印象深く残った。
ストリップが10年後、20年後も変わらず存在する保証は、正直どこにもない。
経済的な理由ももちろんあるし、性産業を含むこの手の業界は、行政の運用で簡単に状況が変わる(注1)。
明日、関西圏のストリップ劇場がすべて閉館になる可能性だってある。

そんなわけで、少々急き立てられるられるようにして、僕はストリップ劇場に行くことを決めた。

マチネの始まり

2024年1月某日(平日)、僕は大阪の東洋ショー劇場にいた。

どうせ観るなら、一番早い時間(正午開演)から観たくて、開場時間きっかりくらいに訪れた(注2)。
この時間なら好きな席が選べる…と思いきや、既にけっこうお客さんが入っていて、正面の最前列はもう満席。
なので、少し外れた席――正面ステージ・花道・客席にせり出した円形スペース(これが何かは、また後で)を少し斜めに見る席に座った。

「ストリップは女性ファンも多い(花房先生もそうだし)」という話も散見するけれど、僕が訪れた日の観客は全員男性。
見事な「紳士の社交場」だった。
年齢も僕より若い人は2人くらいしかおらず、あとは50代より上といった感じ。
もっともこれは時間帯の問題で、もう少し遅い時間帯であれば、若い人や女性も来ていたかもしれない。
若い人や女性は、平日の昼間にストリップを観に来られるほどヒマではないのだ(多分)。

できるだけ先入観を持ちたくなかったから、ウェブページもそこまで詳しくチェックしておらず、勝手はまったく分からなかった(今思えば、近くのオッサン…もとい紳士か、スタッフの女性に、色々訊けばよかった)。
とりあえず受付でもらった早朝撮影券の注意事項なんかを読んでいるうち、公演が始まる。

最初の踊り子さん:ポップでコメディエンヌな不思議ちゃん

最初の踊り子さんは、ほぼ着ぐるみ、というくらいモコモコなヒヨコの衣装で登場する。
え!これで踊るの?これを脱いでいくの?と登場時点で興味をそそられる。

そして衣装と共に、まず世の中のダンスが大きく変化したことに驚く。
僕は、10年ほど前にダンスを趣味にしていたことがあるのだけど、その時によく見ていたポップス、ロッキン、ハウス、ヒップホップの面影はありつつ、動きとしてはまったく別のもの。
詳しくはないけれど、K-POPやアイドルっぽい動き・振り付けに見えた。

そんなジェネレーションギャップも感じつつ、でも彼女の確かな技術も分かった。
コミカルな振り付けの中でも、ピタッと動きを止めてキメを作る。末端の動きでキレを出す。
振り付け・動きの流行廃りはありつつ、ダンスの基礎はそんなに変わらない。
そういう基礎があった上で、コメディーなストーリー仕立てで、ずっと興味を引く構成になっている。
ああ、プロのステージってこんなだったな…
そんな懐かしさも、僕はどこかで感じていた。

その後、彼女はステージ脇に退き、衣装替え。
ヒヨコから白鳥モチーフの白いシースルー衣装に着替える。
曲に合わせて、少しずつ帯を解き、肩を抜き、服を落とし…
性的に焦らす、というより、鳥の成長というストーリーの中で、一糸まとわぬ姿になっていく。
それから、中央のせり出した円形スペースにやってきて、横になって片足を上げるポーズで静止する。

直後、円形スペースが音もなく回転する。
その後知ったのだけど、このスペースは回転盆というらしい。
フィギュアの回転台と同じ機能と言っていいと思う。
その滑らかな動きにもビックリしつつ(注3)、その回転の動きを使って、少しずつ身体に落ちる陰影を変えていく踊り子さんと照明の技術にもまた驚く。

裸って、こんなにも多彩な表現ができるのか。
僕のストリップに対する先入観が崩れた瞬間だった。

ラストはまた、コメディタッチのオチに戻るのだけど…ネタバレになるので、詳細はヒミツ。

ステージが終わった後は、いわゆる「おひねり(チップ、アンコール)タイム」。
チップを渡すと、その方の前で踊り子さんがポーズをとってくれたり、手を振ってくれたり、ちょっとしたパフォーマンスをしてくれる。
常連の方々は、ちゃんと差し入れや渡すチップ(封筒は不要!)を準備していたが、僕は戸惑っているうちに終わってしまった。

2番目の踊り子さん:筋肉美際立つ80年代アイドル

2回目となると、なんとなくストリップの流儀が分かってくる。構成としては、

  1. ほぼ普通のダンス

  2. 衣装替え(袖に引っ込む場合も、舞台で着替える場合もある)で、脱ぎやすい服にチェンジ

  3. ここからストリップ

  4. 全裸、またはそれに近い姿になった後、回転盆で決めポーズ(ベッドショー、というらしい)

  5. 終わった後におひねりタイム

というもの。
少なくともこの劇場、この公演ではスタンダードな流れらしい(やっぱりちゃんと調べておけばよかった)。

2番目のショーは、80年代アイドルをモチーフにしたもの。
楽曲は当時のものだし、衣装も分厚い生地のヒラヒラドレス。
TBSドラマ「不適切にも程がある!」がスタートしたばかりの時期だったから、そのリバイバルムーブメントに掛けたのかも。
最初の踊り子さんは小柄な方だったけど、この方は(比較的)長身で筋肉質。
今風にアレンジした80年代ダンスのダイナミックな動きや、ヒネりを強調したミケランジェロ的なベッドショーでの見せ方は、最初の踊り子さんと全然違って面白い。

おひねりタイムの見せ方は、アイドル風と打って変わって気っぷがいい感じ。
気さくなお姉さん感が前面に出ていた。

3番目の踊り子さん:運動量と笑顔のクッキーモンスター

白眉は、3番目の踊り子さんだった。

彼女はパーカーとクッキーモンスターのかぶり物で登場する。
動きから、ヒップホップベースの人だと思う(曲ももちろんヒップホップ)。
柔らかい身体の使い方と、その豊富な運動量に圧倒される。

そして、時折くしゃっとした笑顔を見せる。
彼女はもちろんプロなのだけど、その笑顔は、まったくプロっぽくない。

演者は舞台に立てば、普段の生活とは、どこか違うモードになる。
普段と違うモードだからこそ、観客を別の世界に引き込むことができる。
ステージの上と日常は違う世界。
でもそれは、観客と演者の世界が別であることにも通じる。
2つの世界の間のどこかに、壁を作る。

一方彼女は、観ている側が「あれ、なんかミスした?」と思ってしまうくらい素の笑顔を見せる。
それが技術でやっているのか、天然でやっているのかは分からない。
ただ、そんな笑顔を見ていると、知らず知らず、壁が崩れていくことを感じる。
無意識に客観を保とうとしている自分がバカみたいに思えてくる。

理想のダンサー

「ダンスで一番大事なのは、エネルギーだよ」
ずっと昔、ダンスの先生に言われた言葉を思い出す。
「内側から湧き出すエネルギーを伝えられる、そんなダンサーがいいダンサーだ」
そうだと思う。
年齢を重ねたダンサーでも、それは変わらない。
その年齢に合わせた見せ方はありつつ、いいダンサーは生のエネルギー、表現したいというエネルギーに満ちている。
「三座は、どんなダンサーがいいダンサーだと思う?」

そこで、自分の言葉も思い出す。
「自分も踊りたい、と思わせるダンサーです」
長い間忘れていたことだ。
「上手いダンサーはいくらでも。魅了するダンサーは一握り。でも、観客に踊りたいと思わせるダンサーは、本当に少ないと思います」

2つの理想は、離れているわけじゃない。
たぶん、1つのことを別の面から見て言葉にしているだけ。
でも、僕と先生の2人の理想がピッタリ合う、なんてことはやっぱり稀な気がする。
もしそんな人がいるとしたら?
2人の理想を体現するようなダンサーがいるとしたら?
目の前にいるこの人だろう。

ギブ・ミー・ラブ

彼女が舞台でクッキーモンスターのかぶり物を外すと、ジャジーな曲に変わる。
聞き覚えのあるボーカル。
僕の大好きなshowmore。でも、僕の知らない歌。
クッキーモンスターをモチーフにした歌だ。

求め合うカップルの歌。
そう解釈するのが自然なんだろう。
でも、ワンナイトかも。
ひょっとしたら風俗かもね。

誰より 愛して 愛して 愛して…

そのリフレインに合わせて、彼女が回転盆で回る。

Give me love, give me love, give me love,..

どうしてか、自分が受け容れられた気になる。
今ここにある、この舞台以外のすべてが、どうでもよくなってくる。
ここに集まった紳士たちも、同じ感覚を味わっているんだろうか?
あるいは、花房先生も。

フィナーレ

その後、演者の3人による中間フィナーレ(注4)と撮影タイム。
撮影券を使えば、演者の撮影が劇場提供のカメラでできて、プリントアウトした写真を後で受け取れる。

3番目の踊り子さんは、流石の人気で長蛇の列。
それでも、ひとり一人に丁寧な言葉をかけて、要望に応えてポーズをとっていた。

僕の番が来る。
「どんなポーズがいいですか?」
僕の要望は決まっていた。
「ただ、笑ってくれませんか」
「フフ、いいよ」

できあがった写真は、バカみたいに手ぶれしていた。

脚注

注1

詳しくは「風俗で働いたら人生変わったwww」などを参照。

注2

これは、一日に複数公演ある場合、ソロなら一番エネルギーがある最初の公演がよい、という僕の(まったく当てにならない)経験から。
群舞の場合は、2・3回目くらいがこなれている(ような気がする)。

あくまで僕個人の感覚。プロの方はどの回も一定のクオリティでまとめる力量を持っているので、あんまり気にする必要はない。

注3

人が10名くらい乗れる大きさの台を、滑らかに動かす軸受けは、そう多くない。
特注かも?

注4

長くなるので割愛したけど、公演は5名のソロ(3名のソロショー+中間フィナーレ・撮影タイム+2名のソロショー+フィナーレ・撮影タイム)で構成されていました。
この後のお二方もとても魅力的でした。

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