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アイドルと移籍

<参考資料>
日本加除出版「地下アイドルの法律相談」
深井剛志・姫乃たま・西島大介/著 
https://idol-horitsu.com

深井剛志 X アカウント @TSUYOSHIFUKAI
https://x.com/tsuyoshifukai

寺嶋由芙 Xアカウント
@yufu_0708
https://twitter.com/yufu_0708


寺嶋
 podcast「アイドルと法律」!この番組ではソロアイドル…ねぇ、これいつも「10年目」って言ってたんですけど、11年目でした!私、ソロアイドル11年目!フリーランスのアイドルとして働く、ゆっふぃーこと寺嶋由芙が、 アイドルの労働問題に詳しい弁護士としてご活躍の深井剛志先生から、アイドルが知っておくべき法律を学びます。

日本加除出版株式会社から発売されている「地下アイドルの法律相談」著者でもある深井先生が、働くアイドルゆっふぃーに、アイドルが直面しがちな労働問題をわかりやすく説明してくれます。

整えよう、あなたの推しの労働環境!

というわけでよろしくお願いします。古き良き時代から来ました真面目なアイドル、真面目にアイドルゆっふぃーこと寺嶋由芙と、

深井 弁護士の深井剛志です。よろしくお願いします。

寺嶋 よろしくお願いします。あの、10周年だから10年ってずっと言ってたんですけど、10周年ってことは11年目なんですよね。

深井 そうなっちゃいますね。

寺嶋 数が数えられなかった。皆さん、よろしくお願いいたします。深井先生は弁護士何年目ですか?

深井 13年目に。

寺嶋 って、ベテランですか?弁護士的に…

深井 いや、ぜんぜん。若手も若手です。

寺嶋 そうなんだ。何年ぐらいから(ベテラン)?

深井 何年からベテランっていうのわかんないですけど、もう僕が生まれる前からやってる人もいますからね。キャリア50年って人もいますから、

寺嶋 その間に法律結構変わりません?

深井 もちろん。もちろん、ぜんぜん変わってます。

寺嶋 じゃ、それを常にアップデートして

深井 おかないといけないですね。確かに。

寺嶋 大変なお仕事だ。定年はないです?

深井 定年ないですね。だから、別にやろうと思えば寿命が来るまでできなくはないですけど。

寺嶋 資格の期限はないですか?

深井 ないですね。もう1回とったら。更新とかもないです。

寺嶋 そうなんだ。

深井 うん。

寺嶋 教員免許と一緒ですね。

深井 そうですか。教員もそうなんですね。

寺嶋 更新制度なくなっちゃったから。

深井 それがね、いいのかどうかみたいな。医師の免許もよく言われてますけど、果たしていいのかとかね。よく言われてますよね。

寺嶋 その13年の間に弁護士事務所は何ヶ所経験されたんですか?

深井 今いるとこだけですね。だから、入ってからずっと変わらずやってますね。

寺嶋 じゃあ、移籍のご経験なし。

深井 なしですね。はい。

寺嶋 じゃあ、そんな深井先生とお届けする本日のテーマは、アイドルと移籍の話です。

深井 はい。

寺嶋 移籍は私も何度か経験しましたけれども、

深井 寺嶋さんはおそらく円満に移籍してるんじゃないかと思うんですけれども…

寺嶋 円満!好きな言葉、円満(゚ω゚)

深井 ですよね。なので、あんまり今日話すテーマで困ったりしたことはないんじゃないかなと思うんですけれども、やっぱり移籍の時にかなり揉めたりとか、移籍の揉め事で僕のとこに相談に来たりとかっていう人はまあまあいましたね。

寺嶋 よく聞きます。理不尽な「これはやっちゃダメだよ」とか、「もう2度とアイドル活動するなよ」みたいな話に始まり、2度ととは言わずとも、「何年間あけなさい」とか、「SNSのアカウント使っちゃいけない」とか。あとなんだろうな…。で、結構言われたこと(を守っちゃう)、「移籍にお金かかる」って言って新しい事務所がお金払ったっていうのも聞いたことありますね。

深井 辞めた後にすぐに活動したいとか、その芸名を使い続けたいんであればお金払えって言われて、新しい事務所が払ってくれたと。 それ聞きましたよ、僕。

寺嶋 で、それ聞いた時に、新しい事務所が払ってくれたってことは、事務所間でそういうことはするのは当然だっていう気持ちがあるのかな?っていうのを思ったんですよ。

深井 新しい方の事務所も、もしかしたら、移籍を制限するとか、芸名使えないようにするとか、そういうことは当然だと思ってるのかも。

寺嶋 そうですね。だから、「辞めた直後にこの子を預かるんなら、うちが払うのは当然だ」って思ってるんだとしたら、それって正しいのかな?とか。でも、そんな事務所間のやり取りが行われてるぐらい、このことが通っちゃってるっていうのって、ほんとにいいんだっけ?っていうのが、今日聞きたくて来ました。じゃあ、退所にあたってうんの条件、いろいろ確認していきたいと思うんですけど。辞める時って、「これで契約おしまいです」って一筆書いたりしますよね。

深井 うん。退所にあたっての覚書きとかね、なんか誓約書みたいなタイトルになってることもありますけど、そういうもの書いたりすることありますね。その時に例えば、「これで、この日をもって今まで結んでた業務委託契約はおしまいです」とか。で、「双方に負債はないです」とか。

寺嶋 私は移籍するときに物販を買い取らせてもらったことがあるので、その金額が書いてあるとか、そういうことが書いてあるのが、見たことがある契約書かなと思うんですが。

深井 それ以外にもね、結構、アイドル側に不利なことが書いてある覚書きを見たことがありますね。

寺嶋 それが、「2年間活動しちゃダメだよ」と。

深井 そうですね。順番にあげると、その活動を制限するものだったりとか、あとは、芸名は使用しちゃいけないとか。あとは、その、Twitterとかね、SNSアカウントはもう使えないよとかそういう条項が書いてあることが結構あったと思う。

寺嶋 それは、サインしなきゃいけないんですか?

深井 そういう、覚書きっていうタイトルだったりとか、誓約書っていうものであったとしても、双方が約束するっていうことは、それはやっぱり契約なんです。だから、辞めるにあたっての新たな約束は、それが覚書きだったり、誓約書なんですね。で、この放送では度々出てきましたけれども、「契約自由の原則」ってのがあって、

深井 はい。

寺嶋 契約するかしないかは当事者の自由。契約の中身も当事者の自由。というのが原則になりますので、その覚え書にサインするかどうかは当事者の自由です。なので、アイドル側がサインしないということももちろんできます。

寺嶋 「でも、サインしないと辞めさせないぞ(`°Д°´)」

深井 という風になりますよね。だから、アイドルがどうしても、円満に辞めたいという場合には、そういうものを結んでしまうことも結構ありますよね。でも、そうじゃなくて、アイドル側が辞める理由があるんだという場合には、あえてこんなのを結ぶ必要ないですよね。「もう解除しました、以上。」っていうことで。

寺嶋 うん。

深井 事務所側に非があるような場合に、そういう覚書きとか誓約書を結んで辞める必要はない。もう解除通知を送って終わりという風になりますよね。

寺嶋 ただ、そういう辞め方をすると、「勝手に辞めた」とか、そういう嫌な噂を回されたりしません?

深井 それは結構ありましたね。だから、新たな事務所に移籍しようとした時に、「前の事務所が、まだ辞めてないって言ってるけど?」みたいな風に言われた人もいますよ。だから、「もし新しい事務所に入りたいんであれば、 前の事務所との間できちんと退職の覚え書交わしてから来てください」という風に言ってきたケースもあります。

寺嶋 だから、新しい事務所も、前の事務所が理不尽だったからもう契約解除でいいってことをわかってないってことですよね。

深井 そうそう。

寺嶋 「辞めるには覚書きが必要なんだ」って思っちゃってるってことですね。

深井 そうですね。一方的な行為で、アイドル側からの行為だけで、契約を解除することが法的にはできるんだということを知らないで、「覚え書で辞めないといけないんだ」と、そう思ってる。

寺嶋 で、新しいところで活動したいから、じゃあちょっと変なこと書いてあるけどしょうがないってサインしちゃう子もいるっていうことですね。だからやっぱ全体的にリテラシーをあげなきゃダメですよね。アイドル本人も、それは無効だとか理不尽だっていうことをちゃんとわかるようになんなきゃいけない。と同時に、その事務所の方も、悪気があってやってる人はすぐやめてほしいけど、わかんないで、なんとなく慣習にのっとって「覚書きが必要なんだ」とか、辞めたからには1年あけなきゃダメなんだとか、あんま悪気なく言ってるパターンもある気がする。

深井 そうですね。なので、そういったね、業界の慣習みたいなものがね、正されていかないといけないかなと思うんですけど、そこはやっぱり法律の力というか、裁判とかで認められて、徐々にそういう意識が浸透していくというのを地道に続けていくしかないのかなと思っております。

寺嶋 で、今ちょっと話に出た移籍の制限とか活動の制限ですけど、これはほんとにすごく言われる、そして耳にすることですが、なんでなんでしょう?

深井 なんでこれを定めるのかっていうのは、この手の事案で裁判になってるケースも見るんですけど、その時にこの移籍の制限、例えば「2年間は別の事務所に所属しちゃいけませんよ」とか、「2年間は芸能活動禁止ですよ」というのが、その移籍の制限ですよね。それ、よく裁判になってるんですけど。裁判の中で、事務所が争ってくる時に、事務所側が言うことは、「先行投資の回収なんだ」という風に言ってるんです。

寺嶋 「うちが育てたのに、よそで活躍されちゃ困る」ってことですね。うちがまだ回収できてないのに…って。

深井 うん。だから、育成とかそういうものに費用をかけたと。レッスンとかそういうもので費用をかけた、それを回収するためにその期間、他の事務所で働かれると、うちがかけた費用で他の事務所の利益になってしまうという、それが困るんだということを主張してきます。それって合理的ですか、どうですか?

寺嶋 いや、本当にかけてくれたんですかね?本当にかけてくれてたら、その子は辞めないんじゃないですかね?

深井 レッスンとかボーカルトレーニングとか、ダンスレッスンとか、そういうものはもしかしたらやってるアイドルはいるかもしれないですよね。

寺嶋 そうですね。でも私、ソロだからかもしれないけど、結構自分で行ってる子多いですよ。「振り入れ」っていうのはあるんですよ。振り付けを(先生に)入れてもらって、みんなで合わせて練習するとか。グループさんだと(私より)もっと、合わせる練習とかやるから。レッスン多いところもいっぱいあると思うけど。割と、レッスンが多いところはきちんとやってくれるところで、こういう杜撰な契約書とかを書くような事務所さんが、丁寧なレッスンを行っているかは、ちょっと私わからないです。

深井 (自分が聞いたケースでは)行ってますね。行ってました。

寺嶋 そうなんだ。

深井 うん。僕も結構、あんまりいい契約書を見たことないんで、こういう杜撰な契約書ばっかり見ますけど、そういうとこでも、レッスンちゃんとやってくれてる、事務所の費用とかでやってくれるとくれてるとこありますよね。

寺嶋 そうなんだ。じゃあそれを返せっていう話?

深井 で、それが果たして合理的なんですかってことですよ。 そのために2年間の移籍制限を設けることが果たして合理的ですか?

寺嶋 合理的じゃないように思いますけど( •᷄ὤ•᷅)

深井 そこは裁判例があって、先行投資を回収するという目的で移籍を制限するというのは合理的ではないと。なぜなら、移籍を制限したとしても、それでその事務所が、(つまり)前の事務所が投資した費用が返ってくるわけじゃないでしょ。だから、その目的は全然合理的じゃないですよという判断をしています。

寺嶋 そうですね。うん、そりゃそうだ!

深井 だって、移籍を制限したって、その事務所が儲かるわけじゃないんだから。2年間活動できないっていうだけで、そのアイドルだったり、その移籍先の事務所が利益を上げることができないということだけであって、前の事務所が投資した資金を回収できるわけではないですよね。

寺嶋 確かに!

深井 なので、全然合理的じゃないよっていう判断をしています。

寺嶋 なんか、言われてみたらそりゃそうだって話。

深井 そうですよね。僕、至極全うじゃないかなと思うんですけど。で、そう考えるとですね、よく2年縛りとかルール、某アイドルも2年縛りがあったみたいで、2年間活動休止したアイドルもいるように聞いておりますけれども、

寺嶋 この時期のね、アイドルの、その10代、20代の2年っておっきいから…

深井 ですよね、あんまり活動期間の長くないアイドルさんもいますので、その活動の時期を2年間も無駄にしなきゃいけなくなるというのは、非常に酷ですよね。じゃあ、この条項が、果たして有効なのかどうか、と。結んでしまったものなんだから、契約書に書いてあるものなんだから、それは有効なんじゃないの?っていうのが、一般的な考え方ですけど、 前回の放送でもちょっと言いましたけど、 法律の専門家は、そこからさらに進んで考えるわけですね。その条項、本当に有効なのですか?ということを考えます。
で、これね、アイドルの業界に限った話じゃなくて、普通の会社員でも、「競業避止義務」って言って、「何年間は同業他社に勤務してはいけませんよ」っていうことが就業規則に書いてあるケース、結構あります。それは有効でしょうか?という問題と被りますよね。普通の会社員であっても生じている問題なので。

寺嶋 同業他社…?例えばauにずっと勤めてた人が、明日から急にdocomoに行っていいかとか、そういう?

深井 そういう話ですね。そうですね。

寺嶋 ペプシコーラの人がコカコーラに行ってもいいかとか。

深井 そうですね。うんうん。

寺嶋 いいんですか?

深井 で、それって、この放送の中でも度々出てくる人権…

寺嶋 職業選択の自由!!!

深井 を侵害してるってことになりますよね。基本的な人権としてはいろいろありますけど、ここでは、営業の自由とか、職業選択の自由、それを侵害するものなので、競業避止義務というのは、ほんとに厳しい条件が揃わないと有効にはならないというのが、労働事件、労働法の原則になってるんですよ。

寺嶋 相当厳しいっていうのは、もうほんとに会社の根幹に関わるような秘密を持ち出しちゃうとかはダメだとか…?

深井 そうですね。いいセンスしてますね。それが、この前の、法律の要件、認められる要件の1つになってます。

寺嶋 なんだろう、根幹に関わることって、わかんない。

深井 あんまないと思うんですよね。普通の社員だったら。あとは、その期間とか範囲が合理的な範囲であるかどうか。2年とかね、5年とか長い期間を定めていたら、それはちょっとやりすぎじゃないの、とかね。あとは、日本全国どこの同業他社に行ってもダメですよってなったら、それ広すぎじゃないですかとかね。というのが2つ目。で、3つ目が、そういった競業避止義務を課してもいいだけの、何らかの対価を与えているかどうか。退職にあたって、退職金を上乗せしてるとか、そういうことをしているかどうか。その3つの観点で判断します。

寺嶋 そうなんだ!

深井 うん。

寺嶋 結構、レコード会社の社員さんって、同業に移籍すること多いんですよ。この間までユニバーサルミュージックにいましたけど、今は、じゃあ、テイチクエンタテインメントにいますとか、ビクターにいますとか、ワーナーにいますとか、 転々としてきた人、すごく多くて。

深井 それはおそらく、その業界の就業規則とか雇用契約書に、そういう競業避止の規定がないんじゃないですか。

寺嶋 ないのか。だから、「あそこでもあそこでもやったことあるから、あの人もあの人も知り合いですよ」みたいな、顔が広い人が多いんです、レコード会社の人って。でもそれって、今話聞きながら、なんかこう、絶対秘密にしなきゃいけないこととかが、別にないからなのかなって思いました。

深井 そもそも、そういう競業避止義務の規定が就業規則とかになければ自由ですよ。あった場合には守らなきゃいけないのかっていうと、さっき言った3つの条件をクリアしないとダメですって、そういう感じなんです。

寺嶋 なるほど。

深井 で、それが、普通の会社員、労働者の場合のことで、じゃあアイドルはどうかっていうと、アイドルも労働者じゃないかみたいな話は何回もしてますけれども、労働者かどうかにか 関わらずね、基本的に、営業の自由とか 職業選択の自由っていうのは、基本的人権に関わるものですので、アイドルであろうと誰だろうと認められます。 そうすると、アイドルに2年間移籍禁止を課すとはいいうのは、やっぱり同じような理由で、相当厳しい条件がないとダメですよと。で、ましてやさっき言ったように、アイドルさんってまだ活動期間がそんなに長くない人が多い。ということからすると、その2年間を無駄にするってのは非常に大きな不利益だということからすると、この2年間の活動禁止、移籍禁止というのは違法ですよという風に認められた裁判例があります。で、そのことは「地下アイドルの法律相談」にも書いたんですけれども、そのさらに後、この本を出した後に、6か月間の移籍禁止(についての裁判があった)。2年間より短いんだからいいじゃないですか。

寺嶋 半年だ。

深井 うん、半年だ。それは、さっき言ったことからすると、期間が長すぎないからいいんじゃないですかっていう風になったかって言うと、それはそうではなくて、この6ヶ月でも「ダメですよー」いう裁判例が出ました。

寺嶋 もう、制限すること自体がダメなのかも。

深井 ということでしょうね。おそらくね。ですので、この「地下アイドルの法律相談」で書いた時よりもさらに進歩して、2年間 どころか6か月もダメですよというような裁判例が出ております。

寺嶋 なので、もしね、今そういうこと言われちゃって自粛してるんですみたいな方がいらしたら、「そうじゃないよ」っていうのを気が付いてもらえるといいですよね。

深井 そうですね。

寺嶋 でも怖いけどね、そんな「2年間やっちゃダメだろ」とか言ってくる人の言うことを破ってやるの、怖いですけど。でも、間違ってないから大丈夫。

深井 ということが原則になるといいなと。

寺嶋 なるほど。結構これはね、私の周りのアイドルさんも守ってるんです、ちゃんと。1年とかいう子もいたけど。1年とか2年とか。でも中には5年とか。

深井 5年!5年はもうアウトじゃないですか?

寺嶋 でも、ほんとに5年守ってた子とかいるし。なんかそういう子達の相談にもっと乗ってあげられたらよかったなって。 移籍を経験してきた身としても。なんかその子達がもう(アイドルを)やりたくなくなっちゃったんだと思ってたの、私は。辞めちゃった後に、アイドルっていうことがもう嫌になっちゃって、事務所さんとのトラブルとかで怖い思いしたりして、もうそういうものに関わりたくなくなったから出てこないんだと思ってたら、再会した時に「実は(課せられたルールを)守ってた」っていうのを聞いたりして。 で、思ったんですよね、なんかしてあげられることあったかな、とか。なので、今ここで喋っています。
 
深井 なるほど。

寺嶋 はい。

深井 たくさんの人に聞いてほしいですね。

寺嶋 本当に。あとは、辞めた後のトラブルでよく聞くのは、「芸名を変えなきゃいけない」。

深井 そうですね。それもよく聞きますね。

寺嶋 でも、本名の子もいますよね?

深井 そうですね。芸能界では、有名な事件として能年玲奈さんの事件がありますけれどね。 あれはおそらく、そういう覚書を交わしたのか、そういう契約になっていたのかわかりませんけども、本名ですよね、あの人ね。

寺嶋 だと思いますよ。

深井 (本名なのに)使えてないと。そういう事案ができてしまってますけど。

寺嶋 それって裁判とかになったんでしたっけ。

深井 能年玲奈さんはなってないんじゃないかな。

寺嶋 なってないのか。じゃ、もうその条件を受け入れて活動されてるってこと?

深井 かなと思います。

寺嶋 なるほど。それは、ご本人がそれでいいって言って、ご活躍もされてるからいいのかもしれないけど、よくないぞって思ってる時は、ちゃんと主張していいんですよね。

深井 うん。アイドルさんはね、やっぱりSNSを使って知名度上げるってのが、今結構ね、アイドルの知名度上げるための必須な条件みたいになってますので。その時に、SNS上の名前が変わっちゃったとかっていう風になると、え、誰?っていう風になったり。

寺嶋 そう、また知名度イチからやり直しになってしまう。

深井 なので、やっぱり芸名を使い続けられるっていうことは、結構重要なことなんじゃないのかなという風に思ってるんです。

寺嶋 ね。そう思います。心機一転のために、自分から望んで変える子もいますけど。

深井 なるほど。うんうん。

寺嶋 活動が変わったので…っていう子もいるけど、制限されちゃって、変えなきゃいけなかったっていうパターンもあるから、それはね。せっかく積み上げてきたものが変わってしまうのって、キャリアが途絶えるって話になってしまうから。

深井 で、先ほど、能年玲奈さんの件は裁判にはなってないと言いましたが、 法律の本とか読むと、芸能人の芸名が問題になったケースはいくつかあります。

寺嶋 うん。

深井 ただ、そのケースは、例えば商標登録をしていたケースだったりとか、 契約書の中に書いてあったりしたケースとかで。あんまり、アイドルの芸名を使えるかどうかってことに、ちょっと当てはまらないケースがあったんですけれども。これも、この「地下アイドルの法律相談」を書いた後に裁判例が出て。バンドの方々、これはアイドルではないんですけども、バンドをやっている方々が、その事務所を移籍した時に、前の事務所で使っていたバンドの名前を使えるかどうか(という裁判がありました)。とはいえ、辞める時には使えないですよっていう契約になっちゃってたんですね

寺嶋 うん。

深井 だけど、そのバンドが、新たな事務所でも、旧事務所のバンド名を使い続けた。そしたら、昔の事務所が、そのバンド名は使えないだろうっていうことで、使用差し止めを求める裁判を起こしてきた。そういう事例なんです。まさに、アイドルが昔の事務所での芸名を使ってたケースと似てますよね。

寺嶋 そうですね。

深井 で、そのケースどうなったかっていうと、バンド名っていうのは、そのメンバーたちの人格的な利益に非常に属している。 なので、他人がその使用を差し止めるとか、そういうことはできませんよということで、昔の事務所で使っていたバンド名を使い続けることを認めた。

寺嶋 へえ!

深井 という裁判例です。

寺嶋 芸名は個人名だから人格に繋がってるっていうのわかりやすいけど、バンド名でもそうなんだ!

深井 そうですね、そういう風な判断がされましたね。だから、 芸名を使ってましたと。で、それを新たな事務所で使うのを禁止された時に、じゃあ、それを昔の事務所が使用禁止だということで差し止めを求めたら、おそらく同じような判断になって、使ってもいいよという風になるんじゃないかなと思います。

寺嶋 そうですよね。でも、「名前だもん(使えるの当たり前だよ)ね」って思っちゃうけど。でもそれが、「アイドルは商品だから」っていう話ともしかして繋がってくるのかな。結構言われるし、自分たちでも自覚してる部分ではあるけど、「アイドルは商品だから、恋愛しちゃいけない」とかもそうだけど。「キズがつくようなことをしちゃいけない」とか、「商売に影響しちゃうようなことをしちゃいけない」とかで、「このステージにいるときの人格は商品としてのものだから、そこに対しては事務所に預けてるんだから」みたいな感覚があるのが、法律的に見ると実は違うっていうことが結構あるってことですかね。

深井 うん、そういうことでしょうね。

寺嶋 なんか、仕事する上での意識では必要なことかもしれないなとも思うんですよ。仕事をさせてもらってる責任があるから、事務所の評判に傷がつくようなことしちゃダメだなとか。(そういうのは)あるけど、それがちょっと行き過ぎてるのは正していった方がいいですね。

深井 そうですね。あとは、その芸名の使用禁止したことで、事務所にどんなメリットあるの?ってことなんです。

寺嶋 うん。今後、その芸名を使ってその子が利益を生むことが嫌だから止めたいだけですね。

深井 ですね。だから、さっきの移籍制限と同じなんですよ。「先行投資を回収する?移籍を制限したって回収できないでしょ」っていうのと一緒で、芸名を使用禁止したことで事務所に何のメリットもないんだから、嫌がらせ以外ない。目的は。

寺嶋 あ、それはちゃんとわかってくれるんだ。「嫌がらせでやってる」っていうことを。裁判所というか、司法はわかってくれるんですね。

深井 ま、司法がね、嫌がらせのためにやってるってことまでは言ってないですけど。

寺嶋 そっかそっか。

深井 芸名については。

寺嶋 うんうん。でも、芸名はそのまま使うにせよ、SNSのアカウントはどうですか?事務所に言われて開設してたりしたら。

深井 うん、これ結構難しいですよね。事務所が行って開設したんだと。だからそのSNSってのは事務所の財産だと、果たして言えるのかっていうと、なかなか難しい部分もありますよね。もちろん、アイドルがその事務所に入る前から使ってたアカウントですよというのであれば、アイドル個人の財産という風に言えるかもしれないんですけれども、事務所に言われて開設したと。

寺嶋 うん、結構それ多いと思う。

深井 そうですね。僕も結構よく聞きますけどね。ただ、そのあとそのアカウントを管理して、文章作って、フォロワー増やして、ってやったのはそのアイドル本人なわけで。

寺嶋 はい。運用は自分でやってた子が多いと思う。

深井 そうですよね。で、さっきもちょっと言いましたけど、アイドルの知名度って、やっぱ今SNSで上げていくものですから、フォロワー自体もそのアイドルの重要な財産だと僕は思ってるんですよ。

寺嶋 そう思います。うん。

深井 そうするとね、その財産を、「事務所が開設しろと言ったから」ということだけで使用禁止にしたりとか、削除させたりとかっていうのは、さすがにどうなのかなと思っております。なので、ちょっとここね、裁判例うまく見つけられませんでしたけれども、もし判断されることがあったら、どういう風な判断になるのか、非常に興味深いなと思ってますけど。やっぱり、アイドルの利益、 人格的な利益とか、アイドルの財産っていうようなことに、結構、裁判所は理解示してきていますので、今のところね。これも理解してもらえるかもというふうに期待してます。

寺嶋 うん、そうですね。なので、「使っちゃダメだよ」とか、「SNS消さなきゃダメだよ」って言われた時に、それでいいならいいけど、今後もまた新しい場所で頑張りたくて、そのためにこのアカウントなり場所が必要だって思ってる子は1回諦めないで相談した方がいいですね。プロに。

深井 ですね。僕はSNS消すようにすごく強く言われてたアイドルの子に依頼されて、代理人になりましたけど、それで交渉して継続しを認めさせました。

寺嶋 だってSNSって無料で使ってたものだし。ホームページだとね、サーバー代を事務所が払ってくれてたとか、更新するの事務所がやってくれてたとかだったらまた変わってくるかもしれないけど、Twitterとかインスタって基本的に無料でやってて、本人がいじって、本人のさじ加減でやってたものだから、あんまりそこを事務所が主張するのはなんか私も変だなと思ってますね。

深井 うん。その感覚が正しいんじゃないかなと思いますけどね。

寺嶋 いやはや、移籍大変ですね。というわけで、今日のテーマは「アイドルと移籍の話」でした。
これに限らず、いろんな問題を深井先生にご相談したいっていう場合はどうしたらいいんでしたっけ。

深井 はい、TwitterのDM解放してますので、TwitterにDMいただければ反応したいと思いますので、お寄せいただければと思います。

寺嶋 お願いいたします。あとは、番組で取り上げてもらいたい匿名相談などがありましたら、深井先生にそちらもDMをお願いします。はい。
万一ゆっふぃーに話したいということは移籍経験者でもありますので、もしありましたらinfoからご連絡をください。
この番組でお話したことは後日noteで公開予定です。noteにはゆっふぃーからの一言、深井先生からの一言ということで、補足情報や感想などを有料部分に書いております。よろしければそちらもぜひご覧いただき、コメントいただけると嬉しいです。
この番組のご感想は、「#アイドルと法律」でぜひたくさんポストしてください。
それでは、今回もありがとうございました。次回のテーマは「アイドルとハラスメントの話」です。はい、次回もどうぞお楽しみに。ここまでのお相手は、ゆっふぃーこと寺嶋由芙と

深井 弁護士の深井剛志でした。

深井・寺嶋 ありがとうございましたー!



以下、有料エリアでは、深井先生からの移籍妨害に関する問題提起と、ゆっふぃーが見聞きした過去の事例と反省についお話しています。


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