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読書日記227【ブラックボックス】

 砂川文次すながわぶんじさんの作品。芥川賞を取っている。自衛隊に勤めながら書いていたという異色の作家。昔なら許されただろうけど、コンプライアンス重視の今の時代では、上司が許さないか認めてもらうのに時間がかかっているだろうなと思う。

 実際に作家になって程なくしてやめている。今は公務員をしながらというので、色々と葛藤があったんだと思う。インタビューで小説を書いたことを聞かれて、自衛隊時代に三重県伊勢崎市に配属され、休みの日に駐屯地にある寮から出て、PCをもってチェーンのコーヒー店で煙草を吸いながら書いていた。と答えている。インタビューを読んでいて、小説の捉え方がすごくいい作家だなと思う

  どうして物をよみ、書いているのか未だに分かっていない。分かる日がくるのかもわからないけれども、ただなんとなくそんな日はこないんじゃないだろうか、という予感を肌で感じている。

砂川文次 芥川賞 受賞のことば

 主人公のサクマはメッセンジャーをやっている。自転車で書類を配達する時間重視の仕事だ。都会のような交通量が多い場所で、交通網を切り抜けながら配達をする。体力のみで働く世界が延々と書かれている。職業紹介の映像を見ている感覚だ。詳述法というかリアルに仕事の描写を書いてある。

 日払いという不安。体力を駆使する世界への不安。社会に対する不安。そういう普遍的な部分が詳細に書かれている。サクマ本人は漠然と自分の体力を酷使しながら、この不安定な社会と向かい合っている。


 リモートワークで済んでしまうと思いきや、書類を必要とする仕事って多い。相手に渡す控えや信書と呼ばれるもの、手書きのアナログなものまで、距離的には数キロであっても歩いて届けている時間などない。そういう人が利用する世界というのを映画にしたものはあったけど、考えてみれば、20年以上前の作品だった。こういう仕事も廃れていくんだろうと思う。

 アメリカのテレビドラマの「ダークエンジェル」というジェームス・キャメロンが制作した作品の主人公も近未来のアメリカでそういう仕事をしていたから、都会では必要な仕事だったのだろう。荒廃した街の中でも仕事は頻繁にしていた。主人公のサクマのようにコロナになり仕事が無くなり…みたいな経験をすることになるとは思ってなかったように思う。

 淡々と流れるコロナのパンデミック部分と、都会に住み、人付き合いを避けて、自分の体力だけで生活をしようとする主人公の孤独感と倒錯性が後半の主人公の異常行動に拍車をかける。上手くいくよう願いながら、本能的な主人公の社会不適合部分が歯車を崩していく。

 その部分が「あ、わかる」と読者を納得させてしまう部分が少なからずあるような、そういう結末を書いている。そこでデタッチメントでなくコミットメントが主体の小説なのだと改めて気付かされる作品 

 読んでいると身体を動かしたくなる。


 うーん、男って普通に「強い」のと「でかい」のに憧れることがある。あんまり説明はいらないけど、女性にその行為中に「大きい!」と言われれば単純に興奮する動物なのだと理解することが(自分は小さいです(´;ω;`))弱くなる中年の時に改めて実感することがある。そしてそれは、ほとんどの男性がそう感じるんじゃないかと思える節がある。

 中年になり突然身体を鍛え始めるというのは、老化防止ではないというのは漠然とわかってくるというか、健康でいたいと運動するのは60歳を過ぎてだなと理解するというか…やはり男としての最後の火がつく感じなのだろう。女性の場合はわからないけど、友達と話すとある程度の理解を得る。

 壮年というか運動を本当にしなくなってしまった。散歩や軽い運動はするんだけど、身体を駆使するというか「動いたー」とか「疲れたー」という実感がない。そもそも、そういうことをしない人も増えているらしいけど、身体が動かなくなるほど体を酷使したあとの開放みたいなものを経験したことがある人はわかる感覚というか…

 村上春樹さんのように「走れ!歩くな!」と奮闘すれば良かったのだろうけど、人に見られるのを気にならなくなってから、そういうことが出来なくなってしまった。若い著者の作品を読んで本当にそう思った。

 

 

 

 


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