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【なぜ必要?】ゲーム業界のアートディレクター

意外と知られていないアートディレクターの仕事

アートディレクター(以下AD)の仕事を凄くシンプルに言うと

アートの方向性をまとめ上げる仕事

です。

ただ開発の現場ではアートをまとめ上げるために、それアート?っていう仕事も多いのです。
ネットで調べてもイラスト作成だったりコンセプトアートがどうこうみたいな話しばかり出てきます。間違いじゃないけど、ちとピンポイント過ぎるかな…

開発のAD業務は、もっと俯瞰で動くタイプもいて業務内容は?って聞かれてもサクッとは答えにくかったりする。

ここではゲーム開発の現場で、なぜADが必要なのかについて書きます。
何となくどんな仕事なのかも見えて来ることでしょう。

少々長くなってしまうので、お時間ある時にお付き合い下さい。


大小問わずチームプレイ

小規模の2D、ソーシャルゲームなら約2、30人〜PS4や5のハイエンドの場合は最盛期だとMax200〜300人が動くことも珍しくありません。
なので、社内外含めそこに集まった大人数の行動(アートに限らず)がバラバラにならないようアートの指針を用意する必要があります。
その指針を決めるのがADの役割りです。


絵作り以外にやることも多岐に渡る

アート領域なのでデザイナーとの連携は当たり前ですが、それ以外にクライアントとの折衝や他セクション、外部協力会社さんとの連携が必須になります。
以下がパッと思いつく限りで関係する人達。

■ADが関わる人達
・プロデューサー(クライアント企業)
・ディレクター、企画(ゲーム全体のディレクション)
・プロジェクトマネージャー
・エンジニア
・各セクションのリードデザイナー
 ↑すべてのデザイナーと直やり取りはキツいためリーダーを介します
・人事担当(採用)
・外部協力会社(出向の方、社外の業務委託の方、社外のCG会社など)

このようにADには職種や会社の枠も越えてアートの方針を伝え、調整して行く役割りがあります。

そのために、まず必要なのが”コンセプト”です。


ADがデザインのコンセプトを作る

実際のコンセプトは標語とか会社で言う企業理念のような短い文章のことを言います。
小学生の頃、教室や体育館に張り出されていたスローガンに近いです。

■コンセプトアートとは違う

ゲーム業界でアートディレクターというとコンセプトアートを描く仕事と思っている人も多いかもしれません。
それも間違いでは無いのですが”コンセプトアート”って言葉からして、コンセプトが先に無いとダメな気がしません?

それはその通りでコンセプトが先にありデザインコンセプトを体現した完成イメージコンセプトアートです。これもまたコンセプトを伝えるための手段の1つに過ぎません。

余裕があれば自分で描きたいですが、腕のいいコンセプトアーティストさんにお願いした方が良いこともあります。

やるべきはアーティストの仕事よりディレクションの方です。


コンセプトはまず言葉から

コンセプトはまず言葉で考える必要があります。

ADだからと言って全部を絵で伝えるのは無理で、描くより話したりテキストやリファレンス資料で伝える方がよっぽど楽だし早いです。
最近だったらAIを活用する手もあります。

それに絵心がない人でもコンセプトは作れるし、絵で判断できない人にも言葉でなら素早く伝えることができます。

中には「俺、絵のこと分からないから」を免罪符に色々言ってくる人がいます。コレ、意外に厄介なので言葉で合意しておくと後々それが結界の役割りをしてくれることもあり大切だったり。

言葉は色々便利なので、関係する人皆に何を作りたいのか?言葉で分かる形でコンセプトを建てておくのをお勧めします。

自分は「立てる」では無く「建てる」と書きます。コンセプトを土台と捉えて「建てる」の方がしっくり来るからです。

■コンセプトの参考例(ちょっと古いけど)
下記のCMでもよく耳にするdysonの商品コンセプト

ダイソン、吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機。

かの有名なdysonのキャッチコピー

このコンセプト(コピーライト)は消費者向け商品コンセプトだし物静かです。
あと、これはクリエイティブディレクターさんが考えたものかと思われます。

ゲームの場合もプロダクトのコンセプトは、プロデューサーかディレクターが企画書に記載していることが多いです。ADはそのストーリーにマッチするアート面のコンセプトを建てて行きます。

ADが建てるべきコンセプトは上の広告的なものでは無く、どっちか言うとダイソンでいうサイクロン技術を作るためのコンセプトと思った方がいいです。言葉としては世に出ることはありません。

念の為触れておくとサイクロン技術にあたる部分はゲームデザインの場合が多いです。やはりゲームなので。
しかし、その場合もやはりアートの説得力が求められるのは変わりません。
しかし、昨今のゲームの表現力の高さからアートに対する要求のハードルは非常に高くなっています。
ゲームの1セクションという考え方で割り切れる範囲では無くなって来ています。

ダイソンの例は対象が違うとはいえ、この商品にしか無い付加価値、独自性がストレートに伝わりますよね。

こうした抽象的な言葉を出発点に、その先の絵や仕組みへと具体に落とし込んで行く過程が開発です。
この抽象 ⇄ 具体も大事な思考で、説明が長くなるのでまた別の機会に。
このコンセプトを職種を越えて伝えたり、行動を促すための音頭を取るのもADの務めです。


【if】ADがいないとどうなってしまうのか?


ココで、試しにADがいない【if】の世界を想像してみます。

なんだか回りくどいようですが、AD抜きの状態をお見せする方が効能が見えやすいので。

しばらくちょっと長めに【if】もしもの話しが続きます。
ADがいないので、ADが関わるはずの人達に色々と降りかかります。
それは主に先程説明したADが関わる人達が対象になります。
降りかかっても個々の仕事がこなせれば良いわけでは無く、その先の成果物にも色々と降りかかります。
まずは、次の降りかかってしまう人達を見てみて行きましょう。

【if】ADの仕事が降りかかってしまう人達

ADがいればやらなくて良かったことが少しずつ色んな人達の負荷になって行きます。

●ディレクター
ディレクター自らが絵作りのためにリファレンスを集めたり、クライアントと★絵作りの話しをする時間を捻出します。

●エンジニア
絵作りに関して★描画面の特殊なオーダーが無いので、エンジニアは粛々と仕様書に沿ってゲーム開発を進めます。

●リードデザイナー
各セクションのリード(キャラモデル、アニメーション、エンバイロメント、VFX、UI)が★監修の仕事を分け合います。

●プロジェクトマネージャー、人事
人事の人は各セクションに★ヒヤリングして作成した求人票を元に採用を進めます。外注先の選定もこのヒヤリングが基準になるはずです。

★それぞれに降りかかってしまったもの
上の人達に降りかかってしまったもの(本来やらなくて良かったこと)を下記で振り返ります。

★ディレクター

本来やるべきゲームデザインの時間を削ってしまいました。その分、ゲームデザインにかける時間、仕様の詰めが手薄になっているはずです。上流の工程で起きたこのロスは後々ボディーブローのように響いてきます。

★エンジニア

この状態はゲームエンジンのデフォでしか絵を作っていないことになります。言い換えれば、ゲームエンジンを使いこなせば他でも作れる絵なので彼らが開発する絵的な必然性には疑問が残ります。全否定はしませんが。

ダイソンの例で言うとサイクロン方式にあたる独自の何かを作らずに進むことになります。
その分、仕様書に沿ったゲームロジックの実装は捗っているかもしれません。しかし、ディレクターは本来やらなくていいはずの絵作りに時間を割いてしまいました。もしかしたら仕様書すらまともに作れていないかも…
その仕様、大丈夫?
色々あって一番大事なゲームの面白さは半減しているかもしれません。

★各セクションリード

各セクションのリード達はアートのテイストが定まらず疑問を抱えつつ個々の監修を進めて来ました。
採用担当からは、どんなスキルセットの人が欲しい?ってヒヤリングもされたりしたはず。それもまた少し疑問を抱きつつ答えていたかもしれません。絵のコンセプトが無い状態で、監修も採用も正しかったのかは不明。

★プロジェクトマネージャー、人事

自己紹介で触れましたが、開発の長期化により採用も今開発中のタイトルに左右されやすい傾向が強くなっています。
社員採用より業務委託の方の採用は特にタイムリーなので、作品の傾向に影響を受けやすい性質があります。協力会社さんも同様。
念の為ご説明するのですが社員の場合は、少し基準が変わってきます。
会社のビジョン、人柄、長期的なキャリアプランなど判断軸が業務委託の方と違うのでその時々で必要なスキルセットでは判断できないためです。
ヒヤリングの結果、うまく開発タイトルのニーズに合ってたら良いですが。

【if】そして成果物ができて…

ココで言う成果物は、プロトタイプ版とか本開発直前のロムと思って下さい。たぶん、これでは本開発に至らないので…

こうして、AD不在なりにそれぞれのピースの格好は付いたかもしれません。
それらのピース全部が合わさった時、集まった人も彼らの成果物もガチャガチャな物になっているのに気付きます。
さっきのdysonで例えると

ダイソンっぽい、並みの吸引力、フィルター式掃除機。

サイクロンじゃない…
デフォのゲームエンジンだからサイクロンにあたる独自性が作れなかったんでしょう。これが★描画面の特殊なオーダーの部分です。

こういうトコこそ、掃除機だろうとゲームだろうとエンジニアの腕の見せ所のはずだけど…

もちろん、ココをアートがすべて担保する必要は無くゲーム性でディレクターが担保する部分かもしれません。が、今回の場合はディレクターにそんな余裕は無かったと思います。

このように、コンセプトが無いと統一感とか以前に、独自性もなく作る意義自体が希薄な物になってしまいます。

この掃除機だったら実家にあるヤツで事足りてしまいますし。
わざわざ新たに作る必要も買う必要も見当たりませんよね。
そうなるとプロジェクトごと消滅という最悪のケースもあり得ます。


まとめ

ifのような事態を避けるためにもコンセプトを貫いた開発を進めるためにADは必須と言えます。
何となくADがなぜ必要か分かって頂けたでしょうか?

ココで再びダイソン。

ダイソン、吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機。

広告では言っていないダイソンのサイクロン方式は、

・吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機

ココを担保するのに前提となる技術です。
それが無いと頭のダイソン、が成り立ちません。

ダイソンは、かの有名なサイクロン技術でどんな価値を世に打ち出すか開発者間でコンセプトを共有したはずです。
これは勝手な想像ですが、上の吸引力の変わらないは、まず発案者のコンセプトとしてあったのでは無いでしょうか。

それが達成できればただひとつの掃除機と言えるし、ど頭のダイソンは皆んなの記憶に焼き付くことでしょう。

開発のADが建てるコンセプトは、ダイソンの広告のような消費者向けのコピーでは無く、サイクロンを作るための世には出ない言葉の方です。
目指す絵にどんな価値があるから作るべきなのか?を説き、事を動かして絵に落とし込むのがADの仕事の本質です。

とすると絵を描くことと少し違うのが分かるでしょうか?

むしろデザインの統一感とかルールとか表層的な部分は、いちいちADが事細かに指図しなくても済む状態が理想です。

とか言いつつ、自分が全部完璧にこなせているとは言えません。ポロポロ取りこぼしもしています。

実は意外に地味で、カッコいいコンセプトアート描きたいとか、業界で名を馳せたいとか思うタイプには向かない仕事なのかも…
アートディレクターも開発の仕事の一部です。結局はみんな裏方。

次回は今回の内容を踏まえて、どうやってADになるのか?を書いてみたいと思います。



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