相田 冬二(Bleu et Rose)

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映画は音楽のように。音楽は映画のように。スカート「波のない夏feat.adieu」

「波のない夏feat.adieu」 スカート  映画『水深ゼロメートルから』の音楽を手がけたスカート(澤部渡)が、adieu(上白石萌歌)を客演に招き、作品のエンディングを飾った秀逸な主題歌。  2019年、当時高校生だった中田夢花が母校、徳島市立高校演劇部のために書き下ろした渾身の脚本。山下敦弘監督によるこの映画化においても、中田がシナリオを手がけている。  4人の女子高校生たちが、学校のプール掃除をしながら、自身の女性性の社会的ポジションを巡って、終わりなきトークを繰り

    • 『カラオケ行こ!』『水深ゼロメートルから』の山下敦弘監督zoom公開ロングロングインタビュー開催。

      相田冬二zoomトークイベントvol.228 【contact】featuring山下敦弘 2024.6.2日曜日 1830開場1900開演 綾野剛主演のスマッシュヒット作『カラオケ行こ!』に続き、高校演劇が原作である令和の名作『水深ゼロメートルから』が公開された山下敦弘監督をお招きし、そのキャリアを俯瞰する公開ロングロングインタビュー大会を開催します。 これまで、行定勲監督、井浦新さんをお招きしてきた【contact】シリーズの第3弾。前2回も伝説の一夜となりました

      • シチュエーションがハレーションを起こしている。『湖の女たち』の松本まりかについて。

        松本まりかがここで演じているのは、豊田佳代という、変わったところがまるでない名前の女性である。匿名性が高いわけでも、極めて凡庸というわけでもない。適度に丸みがあって、女性らしさが姓にも名にも宿ってはいる。しかしながら、どこか地味で、一度逢っただけでは、この人の姿かたちと、この名前が完全に一致することは難しいかもしれない。うっすらそう予感させるほどに、豊田佳代という名前は、印象が薄い。 豊田佳代は、湖畔の介護施設で働く介護士で、同施設で起きた100歳の老人怪死事件の容疑者とな

        • 4年ぶりに開催。俳優・福士蒼汰を語るzoomトークイベント《蒼汰湖 sota-ko》

          相田冬二zoomトークイベントvol.227 《蒼汰湖 sota-ko》 2024.5.31金曜 2030開演 最新主演映画『湖の女たち』(5.17)公開記念。4年ぶりに福士蒼汰の俳優力について語り下ろします。 新作の福士蒼汰は、人間の境界線上のアリアを奏でており、それは“これまで”と“これから”のゆらぎでもあります。 そこで、今回のイベントは、『湖の女たち』ならびに連続ドラマ「アイのない恋人たち」を軸に、【朝の福士蒼汰】【夜の福士蒼汰】の二部構成で、この俳優の深い深い

        映画は音楽のように。音楽は映画のように。スカート「波のない夏feat.adieu」

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        • おんがく
          47本
        • えいが
          178本
        • てれび
          28本
        • しょくじ
          12本
        • ほん
          20本
        • こめんと
          6本

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          わたしたちはどうなるかわからないまま喋り、どこに行くかわからないまま今日も生きている。映画『水深ゼロメートルから』

           デートするとき、話題が途切れないように、あらかじめ話すネタを用意したことがあった。交際が始まったばかりだったからなのか、相手に緊張していたからなのか、それなりに退屈しない男と思ってもらいたかったからなのか、おそらく、その全部が理由だったに違いないが、その日、彼女に話すことをメモしながら整理している自分の姿は、思い出してもひどく滑稽だ。  おしゃべりとは、そういうものではない。話題が途切れないように意識することは礼儀としてはアリかもしれないが、具体的な準備をする段階でそれはも

          わたしたちはどうなるかわからないまま喋り、どこに行くかわからないまま今日も生きている。映画『水深ゼロメートルから』

          もしかしたら彼女たちは、あの日のことをいつか忘れてしまうかもしれない。だが、わたしたちが、この映画を忘れることはない。山下敦弘『水深ゼロメートルから』

          水深ゼロメートルから 『カラオケ行こ!』が大好評の山下敦弘監督が、また新たな傑作を送り届ける。 山下が『どんでん生活』でわたしたちの前に姿を現してから四半世紀。彼のキャリアの中でも、この『水深ゼロメートルから』は今後、特別な場所に位置することになるだろう。 山下敦弘の美徳はさまざまにあるが、その大きなものに【メッセージしないこと】がある。 そして、この映画作家を特徴づける重要点に【季節の終わり】がある。 本作では、この二つのエッセンスがまばゆいほどの神々さで分かちがたく結

          もしかしたら彼女たちは、あの日のことをいつか忘れてしまうかもしれない。だが、わたしたちが、この映画を忘れることはない。山下敦弘『水深ゼロメートルから』

          笑うと誰かが救われる。『旅猫リポート』の福士蒼汰。

          有川浩原作・脚本による映画『旅猫リポート』で、福士蒼汰はキャリア最良の芝居を見せている。猫とふたり旅という特異な構造の作品だからこそ、この俳優の見たことのない表情がいくつもある。彼は、これほどまでのポテンシャルとスキルを隠し持っていたのか。ネタバレしない範囲内で、本作の「福士蒼汰リポート」を試みてみたい。 近年の福士は、アクションの印象が強いかもしれない。今年公開の主演作2本『曇天に笑う』『BLEACH』はいずれもバリバリの活劇だったし、昨年の『無限の住人』ではラスボス役で

          笑うと誰かが救われる。『旅猫リポート』の福士蒼汰。

          音楽は、ひとを敬虔にする。Sweet William『SONORAS』

          『SONORAS』 Sweet William  1990年生まれのSweet Williamは、愛知県出身の日本人ビートメーカー。ヒップホップの背景で鳴る音楽を制作するのが、ビートメーカーだが、純粋に音楽家と形容したほうがいいかもしれない。ソロアルバムとしては第3作となる彼の全13曲を聴いて、あらためてそう思う。  Sweet Williamの音楽には、クラシックの端正さがあり、シャンソンの悲哀があり、吟遊詩人のポエジーがあり、ジャズピアノの親密さがある。瀟洒で、エレガン

          音楽は、ひとを敬虔にする。Sweet William『SONORAS』

          はにかみの先にある虚無。レスリー・チャンにだけ許されること。

           初公開から30年。「さらば、わが愛/覇王別姫 4K」を、歌舞伎町タワーにある109シネマズプレミアム新宿で観た。  フィルム上映も可能だというシアター8は、全75席と小さめ。それだけに、ラグジュアリーなミニシアターで映画を体感する密やかな贅沢がある。  奇しくも、主演レスリー・チャンがこの世を去ってから20年。109シネマズプレミアム新宿の音響監修を務めた坂本龍一は、今年2023年に逝去。ゆったりと包みこまれるようなシートに身をうずめながらも、背筋がのびる。  坂本が

          はにかみの先にある虚無。レスリー・チャンにだけ許されること。

          【アーカイブあります】4.19zoomトークイベント『四月になれば佐藤健』

          2024.4.19金曜日 2000開場 2030開演 『四月になれば彼女は』の公開日3.22から、ちょうど4週間後。ほとんどの佐藤健さんファンの方は見終えているであろうタイミング。人によってはリピートしているかもしれません。 ちょうど桜が北上している時節柄。桜を慈しむように、俳優・佐藤健を語りたい。シンプルにそう考えたことから、新たなzoomトークイベントの構想が広がりました。しかし、その構成は、あえてここでは明かしません。たける会ご参加経験のある方々も、きっと驚くような

          【アーカイブあります】4.19zoomトークイベント『四月になれば佐藤健』

          神聖な日常から、恥じらいが映し出される。『四月なれば彼女は』における佐藤健表現について。

          佐藤健には、声にならない声を発することがあり、独特の風情につながっている。 作品や演じるキャラクターにかかわらず、また映画だからドラマだからということでもない。 それは【佐藤健表現】と呼ぶしかないものであり、俳優を画家に置き換えれば、もはや画法と呼んでいいほどの独自性がある。 たとえヒーローを演じても、活劇から内省を感じさせる彼は、内向きの演じ手と捉えるのが妥当かもしれない。 だが、役にひたすら没頭する、いわゆる成り切り型の役者とはまるで違う。 むしろ、ふと内面がこぼれ落ちる

          神聖な日常から、恥じらいが映し出される。『四月なれば彼女は』における佐藤健表現について。

          音符のような黒眼。小川紗良監督の『海辺の金魚』が見つめるもの。

           甲斐博和監督の『イノセント15』で、小川紗良を初めて知った。出口の見えない時間を生きる15歳の少年少女の逃避行劇。そこで、あまりに過酷な日常を生きるヒロインを演じていたのが撮影当時18歳の彼女だった。不幸のどん底にありながら、不屈の透明感をまとっている。原石の輝きにハッとさせられた。いまでも、あるシーンの彼女の貌が、忘れられない。  岩切一空監督の『聖なるもの』では、その先にある独自性を伸びやかに発揮した。4年に一度現れるという「伝説の美少女」に出逢い、映画作りを開始した男

          音符のような黒眼。小川紗良監督の『海辺の金魚』が見つめるもの。

          【アーカイブ受付中・3.17完全締め切り】2024.3.10井口理(King Gnu)主演映画『ひとりぼっちじゃない』公開一周年記念zoomトークイベント&同時鑑賞会〜伊藤ちひろ監督をお招きして〜

          2023年3月10日に公開された井口理(King Gnu)主演映画『ひとりぼっちじゃない』。 歯科医ススメの一風変わった恋と混乱の日々を、オリジナリティあふれる鮮烈な映像筆致で綴った傑作です。とりわけ、映画初主演とは思えない井口理の底知れぬ存在感に圧倒されます。 あれから一年。本作のzoom同時鑑賞会を、記念すべき公開日におこないます。 アフタートークには、原作・脚本・監督を手がけた伊藤ちひろ監督をお招きして、たっぷりお話をうかがいます。伊藤監督が語る俳優・井口理、そして奔放

          【アーカイブ受付中・3.17完全締め切り】2024.3.10井口理(King Gnu)主演映画『ひとりぼっちじゃない』公開一周年記念zoomトークイベント&同時鑑賞会〜伊藤ちひろ監督をお招きして〜

          瑛太はシザーハンズ。『友罪』について。

          瑛太という演じ手は、映画『シザーハンズ』の主人公を思わせる。 エドワード・シザーハンズ。両手がハサミの状態でこの世に生まれ落ちた人造人間。優しい心の持ち主ながら、意図せずに相手を傷つけてしまう危険性がある。誤解を受けやすいパンキッシュな見た目。周囲の偏見の増長が、彼の繊細な内面を追い込んでいく。 エドワードを体現したジョニー・デップのルックスや演技アプローチと接点があるわけではない。他者がビジュアルから感じとる凶暴さと、本人の胸のうちには明らかな隔たりがあり、そのギャップ

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          猫からはじまる。イ・チャンドン『バーニング』

          再会した幼なじみは整形していて、綺麗な女性になっていた。彼女はアフリカに旅に出るという。留守中、猫の世話をしてほしいと頼まれる。だが彼女の部屋には猫は見当たらない。やがて彼女は帰還。傍らには富裕層の青年がいて、主人公はそれから3人で不思議な時間を過ごすようになる。そうしてある日、彼女が行方不明にーー。 謎というよりは、空白が、穴が、たくさんある物語だ。青年の正体はもちろん、彼女が主人公に語る幼少期の想い出話も、共有が難しく、そのようなことがほんとうにあったかどうかの確証もな

          猫からはじまる。イ・チャンドン『バーニング』

          旅猫リポート

          旅猫リポート 思わず自分の人生を振り返りたくなる映画です。後ろ向きといえば、かなり後ろ向き。ですが、世の中には「すこやかな後ろ向き」というものが間違いなくあって、振り返ることで肯定される現在が存在しているのです。 愛猫を手放すことを決めた青年と、その猫の旅が、猫のモノローグも交えて綴られます。そもそも旅には、そのような側面があります。前に進んでいるようで、実は「これまで」を反芻しているのです。主人公の胸に去来するのは、積み重ねてきた過去たちの欠片。はたして、わたしたちは、