マイナス4000メートル

永遠の真夜中
海底を歩く
灰色の雪が
足元から舞い上がる

息もなく
つめたい風が渦を巻く
体温の溶けた肌に
静かな罅が浮く

叩かれた鉄
かあん、かあんと
振動は分子を辿り
沖合に波ひとつ

足跡に蟹が這う
砂一粒見失ったまま
涙も紛れて
首元がきりきりと痛む

骨のさらされた胸
あばらに潜む舌
光ひとつないまま
見つめ続けている
闇は黒さえ薄く
塗り重ねられた油彩が
ぼこぼこと
指は空を掴む

欠落だけが
沈んで朽ちてゆく
赤い錆が
ぼろぼろと崩れて
耳から遠ざかる

進む足
振り返ることもなく
今が何歩目なのか
知ることもできないけれど
楔の穿たれたどこかから
気付けばずっと
離れた場所にいる

青 どこまでも
色のない青
肺が冷えて
血の匂いが奥から
切れた唇に 
塩味が少し滲みて
すこしさみしくて
うつくしいだけの
心臓は動かない
ここに永遠がある

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