放散

濡れた髪が
半分乾いて
ちぎれたケラチンが
床に落ちている

肺のへこむ音を
じっと きいていると
血液が
さっと赤くなって
骨の
浮いた手首が
水に浸けられている

空気をかき分けるまつげに
ちいさな水が
流れ込んで
鼻腔の奥が
そっと
つめたくなる

洗い流されてしまった
声が
ぞろぞろと
くずれてゆくのを
じっとみている
のどが無性にかわいているのに
服が
びしょびしょに
濡れている

電気を落とした
天井から
降ってきた涙は
透明な針の
似姿をしている

わすれてしまった
すべてが
首筋を
すべりおちて
ひとはわたしを
やめられない

光のないまなざし
それをさがしているのに
真空ガラスの外に
時がある

振動のない浴槽で
そっと背を丸め
つぶやいた
なにかを
きくものは
誰も
いないでほしい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?