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小説集

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過去に書いた小説を集めました
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記事一覧

革命家・西野アキ廣の象徴界サロン

 寝る前、ふと西野は自分が最近始めたクラウドファンディングについて思った。西野のクラウドファンディングには様々な特典があるが、今日から選べるようになった新しい特典は今までの物とは少し趣向を変えた革新的でクリエイティブな特典だった。それは以下のようなものだ。
①【態度悪く御礼】このリターンをしたことを西野アキ廣と会った時に行っていただけると、西野がぶっきら棒に「ああ。ありがとう」と御礼をします。50

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「狂人的コロナ演劇の誕生—自粛探偵・幸村の狂人事件簿—」

❇︎こちらは2020年9月に同人サークル「メルキド出版」から発行された『山羊の大学 創刊号』に寄稿したものになります。

 サテサテ、皆さま、この度はお忙しい中わざわざ足をお運びになっていただき大変感謝いたします。皆様にお集まりいただいた理由は勿論この館で起きた事件の真相を解明するためでございます。珍妙にして極悪非道なる事件は誠に難解極まりなく、事件の犯人はおろか、事件の内容さえ靄にかかって掴めな

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マクベス実験No.68

そして、・物語が始まる。
私が「音楽」と述べた時に(因果の流れ)君の世界には音楽="彼,queは一流のピアニストである,の調べ"が広がる=<君の世界には音楽が広がる広がる音楽は彼の調べ>は君を包み込むだろう/実のところ僕は何も話したくないんだけれど(逆説)それは不可能だ(因果の流れ)よって語らねばならない/そして今世界は構築されつつある。音楽は第8番イ短調k.310,queは彼の最も好むピアノソ

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第四回阿波しらさぎ文学賞一次通過作品『言語的慣性ドリフト』幸村燕

第四回阿波しらさぎ文学賞一次通過作品『言語的慣性ドリフト』幸村燕

その時ようやく水門は開き始める。すると次第に水中に流れが生まれ…小説が形作られていく。
突然どこからか言葉がやってきて、ものすごい速さで僕の前を通り過ぎていった。水面ギリギリを飛んでいったその言葉の影響で、水の上には波紋が生まれ、やがてそれが波となった。飛んできた言葉に弾かれた僕の言葉は同じように速度を持ち、滑り出す。
 僕の言葉はどれだけ速く走れるのだろうか。
僕は言葉だけでどれほど遠くまで

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速習西洋論破哲学 ひろゆきからマルクスまで

 ひろゆきは論破した。
 かのソクラテスを論破した。
 このことについてはプラトンの『ティマイオス』だか『プトレマイオス』だか『ティラノサウルス』かなんかに収録されている。
 「星とはなんだ」と問うソクラテスに対し、ひろゆきは「なんなのか、と尋ねることがバカで、実際それはそれでしかないわけですよね。なんなのかというような問いを立てること自体がバカで、何かを説明するには言葉が必要なわけじゃないですか

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その言葉には速度制限というものがなく、

文章を書くのがとても気だるくて、最近文章をかけずにいる。スランプということではない。小説の構想は六本ほどあるし、書こうと思えば今からでも書くことができる。ただしそれは書こうと思えばの話だ。もちろん僕は小説を書きたいとは思っている。だって、僕は小説家志望だし、小説を書き続けたいと思っている。でも、いざ文章を書こうとすると、気だるくて気だるくて溜まらなくなる。というか、正確には僕には「いざ」ができない

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ゆるやかな身体

喫茶店で友人の話を聞きながら、僕は左手の人差し指で鼻先をかいた。その後、両腕で肘をついて両手を合わせて、指を交差させた。すると、右手の薬指につけている指輪が気になって、それを外して右手の中で数秒転がして左手の中指につける。でもなんか変な気がして左手の薬指につける。すると右手の甲が痒くなって左手でかく。その次には左腕が痒くなって右手でかく。左手で前髪の毛先を軽くいじったあと、相手の話に2回頷く。そし

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文学の輪廻 解体する文学の宣言

✳︎この文章は秋の文フリで販売予定の『前衛アンソロジー2 解体する文学』の序文になる予定です。

…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
                        夢野久作『ドグラ・マグラ』
生命を構成している三元素は、もともと他の個体の破壊から生じたものではないだろうか。もしすべての個体が不滅だとしたら、自然が新たな個体を作り出すことは不可能では

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文学者・小泉進G郎の崩壊

※この文章はフィクションです。実在する団体・人物とは一切関係がありません。ご了承ください。

 小泉進G郎は自宅近くのスーパーマーケットでレジ打ちのアルバイトをしていた。仕事の内容は単純だ。バーコードをスキャンして、画面に表示された値段を言う。そして清算済みを示す赤いカゴに商品を入れる。これだけだ。彼はこの仕事を3年間もやっている。熟練者である彼のレジはいつも、他のレジよりも進みが早い。しかし、彼

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『あまりにも平面的な私小説』

 ✳︎授業で提出したものを編集&若干変更等を加えたものです。

 画面上で肉体が揺れている。ベッドの上に投げ出された裸体。スマートフォンの上の出来事。イアホンを伝って彼女の声が耳に届く。現代的なエロスの構造。その構造は次の3つで成立する。開かれたヴァギナ、閉ざされた空間、隔離された僕。これが僕の唯一の性行為。空虚さと快楽を同時に引き受ける手立て。死の欲動と生の欲動は同時に僕の元に訪れる。しかし、決

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Σ殺し

 まずはじめに、私が目覚める。

 私は暗闇の中を歩いている。(本当に歩いているのか?)足元が見えないからわからない。何も見えないまま、ただ前進している。(本当に前進しているのか?)それなら後退しているかもしれない。取り敢えずのところ、私が暗闇の中にいることは事実のようだ。光の灯らないこの世界では、闇のみが支配的である。闇を切り裂いて進むのは私だけ。

 私は私を殺すだろう。(私を?)いや、その私

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恋する者の肖像

信号が赤に変わった。彼は立ち止まる。その後、メガネを掛け紺色のスーツを着た男が彼のちょうど左側で立ち止まった。彼はゆっくりと首を左側へ向ける。一秒、二秒、三秒。三秒もかけて彼は左側を向いた。スーツの男はただ真っ直ぐ信号機を見つめている。男の右手はカバンを掴んでいる。彼の目線は男のカバンに付けられたストラップに向かっていた。彼はそのストラップに見覚えがあったのだろう。私は螺旋階段を登っている。白塗り

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