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保育園には行きたいし、車にも乗りたい、しかし、シートベルトはだめだ。

今回のデルタ株は手強くて、オークランドは来週半ばまでレベル4が解除できない。しかし、市中感染が確認されなかったオークランド以南は、すでにレベル2になっていて、保育園にも行ける。

朝食を終えてバンボから飛び降りた息子。保育園に連れて行くのは11時。それまで、息子はリビングの中を界王拳100倍で暴れまわる。

今は、日本に居る両親にヤマト運輸で送ってもらったピープルのジャングルジムによじ登っている。そこから隣接するソファーの座面に水平に移動したら、手すりをものともせずに側面から地面に舞い降りて、Youtubeの映像を見て踊り狂うのだ。

Youtubeの映像は、壁に映写機で投射してある。熊とも虎ともつかない謎のCGキャラクターが、上半身だけに服を着て眉毛の角度だけで表情を作るのを呆然と眺めながら、こいつには内臓もないから、当然飯も食わないんだよな、などと考えて過ごす。

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我々は、飯を食わねばならないので、息子が踊っている隙に手早く朝食を作る。

ベーコンに中火でじっくり焼き目をつけたら、卵を投入して蓋をし、蒸す。冷蔵庫にある菜っ葉を取り出して軽く洗い、水につけておく。トースターに食パンを入れてレバーを引き下げたら、息子に付き合って踊る。

しばらくするとトースターから音がするので、台所に戻る。用意していた大皿に2枚に、菜っ葉と半熟の目玉焼きとトーストを乗っけたら、妻を起こして朝食だ。

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ホテルの朝食の100倍はうまい。料理は、出来たてに限る。

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息子を保育園に送る時間になると、リビングから廊下に続くドアを開ける。ドアノブは、ハンドルではなく球体のグリップに変えてあるので、息子の握力では開けることができない。

このドアが開く音がすると何をしていようが中断して、遡上するシャケのような勢いで突進してくる。廊下をL字に折れ曲がった先に、車があって、車に乗ると保育園に行けることを知っているのだ。

早く車のドアを開けろとせがむ息子。私がトヨタ・アクアの後部座席のドアを開けると、すぐにクワガタのように車の側面に取り付いて、チャイルドシートによじ登ろうとする。そこで私が息子を持ち上げ、こちらを向かせてチャイルドシートに背中から放り込んだ途端、今度は放り投げられた猫のように背中を目一杯反って、シートベルトを拒否するのだから合点がいかない。

保育園には行きたいし、車にも乗りたい、しかし、シートベルトはだめだ。

そういうことらしい。しかし、私も手馴れたもので、半分に切ったバームクーヘンのような姿勢になっている息子の股を、左の前腕をつっかえ棒のようにして支え、詠春拳の達人のように手を巻き取ってショルダーハーネスを引っ掛け、留める。回転式のチャイルドシートを90度回して前を向かせたらいっちょあがり。ちょっと前までは後ろ向きだったのだが、前を向いていないとすぐに叫び出すので変えた。

財布とケータイと鍵。それだけポケットにあることを確認したら、アクアの運転席に滑り込む。妻が用意した保育園用具一式を入れたサミットのバックパックは助手席に放り込んである。

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ハイブリッド車は、プッシュボタンを押してもすぐにはエンジンがかからない。少し動き出したところで暖気が始まり、騒々しくなる。車庫から細いドライブウェイをバックで出なければならないので、後ろを見ながら慎重に車を後退させる。ふと息子を見ると、ハニワのように口を開けっ放しにして運ばれるがままだ。

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保育園の駐車場にアクアを停めて、息子を解き放つ。園の門とまるっきり反対方向に走り出す息子。

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そっちじゃないよ。

息子は年長の子どもたちに大人気で、ナーサリーと呼ばれる年少組の部屋まで行く途中にやたらと声をかけられる。ナーサリーに着くと、そこにあるおもちゃや滑り台に向かって突進し、今しがた全体重を預けていた父親の存在を完全に忘れて夢中になっている。

保育園を後にするとき、泣かれたことは一度もない。

たくさんの方々からサポートをいただいています、この場を借りて、御礼申し上げます!いただいたサポートは、今まではコーヒー代になっていましたが、今後はオムツ代として使わせていただきます。息子のケツのサラサラ感維持にご協力をいただければ光栄です。