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ニュージーランドの国境はいつ開くのか

日本がオミクロンで鎖国だ鎖国だと大騒ぎしているようだが、ニュージーランドはすでに2年以上「鎖国」している。

NZの「鎖国」の状況

現在、ニュージランドに海外から入ってこられる人は、原則として国民か、永住権保持者とその家族に限られていて「MIQ」と呼ばれる隔離施設(そのほとんどが民間のホテル)に10日間隔離されたのちに入国が認められる。

ところが、このMIQは、ニュージーランドの住宅事情と同じく需要に対して供給が全く追いついていない。部屋を取れるかは抽選で、結果的に海外にいるKIWI(ニュージーランド国民)が帰ってこられない状況が発生している。

先日は、アフガニスタンで記者をしているKIWIの女性が、MIQの特例を申請して断られたりして、ニュースになっていた。

国境が閉まるといっても自国民や永住権保持者は帰ってこられるんでしょ、とタカをくくってはいけないということだ。帰ってくる権利は保障するけれど、「抽選に外れた」という実務上の理由から実際に帰国が叶わない状況が発生しているのだから。

国びらきの段取り

さて、先日ジャシンダ・アーダーン首相が会見を行い、オミクロンの出現によって遅れていた「国びらき」の修正プランが発表された。国境措置の段階的緩和について、同首相はNZと世界との再接続を、以下の5段階で行うと述べた。

(1)ステップ1:2月27日(日)午後11時59分から、豪州からのNZ国民、NZ永住権保持者及び特例入国が認められた外国人。
(2)ステップ2:3月13日(日)午後11時59分から、全世界からのNZ国民、NZ永住権保持者、特例入国が認められた外国人、賃金の中央値の1.5倍以上の収入がある必要不可欠な技能労働者(6か月未満)及びワーキングホリデービザ保持者。
(3)ステップ3:4月12日(火)午後11時59分から、全世界からの既に発行済みの有効なビザ保有者、最大5,000人の留学生、季節労働者、必要不可欠な技能労働者(賃金の中央値1.5倍要件は撤廃)、その他優先される渡航者、プロスポーツ選手及びチーム関係者及び重要な文化イベントの出演者。
(4)ステップ4:7月までに、豪州国民及び永住権保持者、ビザ免除渡航者及び短期ビジネス目的渡航者及び労働ビザ保持者。パンデミックが次の段階に進んだ場合、日程が早まる可能性あり。
(5)ステップ5:10月、観光及びビジネス目的のビジタービザ保有者(通常のビザ発給プロセス再開)。


在ニュージーランド日本国大使館 Eメールより引用

私の場合、夫婦共々ニュージーランドの永住権を持っているので、帰ってこられなくなるリスクを考えると、日本にいる家族に息子を初めて合わせることができるのは、3月14日以降ということになる。

オミクロン以前にも、似たような内容で開国のプランを発表していたが、これが延期されて現在に至ったので、今回の発表も国民は話半分に聞いている感じがする。安心して外に出ても、突然ハシゴを外されて帰れないことになるのではないか、という不安がぬぐいきれないためだ。

また、このプランでは基本的にワクチン接種者が対象で、非接種者にはMIQが継続されるし、そもそも18歳以上の非接種者は、医学的理由でワクチンが打てない場合を除いて、ニュージーランド航空の国際便に乗れないので、航空会社を選ぶ必要があったりと、制約は比較的厳しい内容になっている。

国内の状況

トラフィックライトシステム

国外との繋がりはさておき、国内はどうなっているかというと、ロックダウン作戦をとっくに放棄して、現在はワクチンパスを条件に移動の自由を認める「トラフィックライトシステム」に移行している。

Credit: https://covid19.govt.nz/traffic-lights/

下記記事でも書いたが、簡単に言えばこれは、ロックダウンの枠組みを廃止、蔓延の度合いを提示する枠組みは残すものの、ワクチンを打った人には、基本的に移動の自由を返しますよ、という話だ。

グリーン、オレンジ、レッドの枠組みで蔓延度合いを示すのだが、一旦オレンジやグリーンになったライトが、オミクロン株の出現で一挙にレッドになった。

まっかっか
Credit: https://covid19.govt.nz/traffic-lights/traffic-lights-map/

ワクチン接種率

スーパー、薬局、医療保健機関、ガソリンスタンド、公共交通機関等は、ワクチンパスを提示しないで良いことになっている。ワクチンを打っていない人がこれらのところに入れなければ、生きていけないからだろう。

とはいえ、デルタ株蔓延で数ヶ月に及んだオークランドのロックダウンを目の当たりにして、国民はこぞってワクチンを打ち始めた。ロックダウンアラートシステムからトラフィックライトシステムに移行する条件に、各地域のワクチン接種率が入っていたためだ。

現在の国内ワクチン接種率 
Credit: https://covid19.govt.nz/news-and-data/

パイロット仲間に聞くと、ほとんどが3回目まで終わっていて、ワクチンを打っていない人は稀だ。

巷では、さまざまな理由でワクチンを拒否する人たちの話もよく聞くし、デモ行進なども行われているので、ワクチン接種に反対する人がたくさんいるように見える。しかし、実際には、高邁なる信念上の「理」より、目の前の生活の「利」をとる国民性が、この結果に如実に現れている。

ロックダウン時にはなかった新たなリスク

トラフィックライトシステムは「ワクチンを条件に移動の自由を返す施策」と述べたが、実際にその中で生活してみて、これがとんでもない勘違いだったことに最近、気がついた。

そう、「かかったら隔離の原則は」維持されるのだ。感染症だから、当たり前といえば当たり前だ。インフルエンザだって、学級閉鎖するのと同じ。

ロックダウンの時は、市中感染そのものを「根絶」することを目的にしていたから、自分の周りにウイルスがそもそも(ほとんど)存在していなかった。そして、市中感染が一件でも確認されたら、移動が大幅に制限されたので、自分が自宅から離れたところで感染して当地で隔離されるリスクはほとんどなかった。

しかし、トラフィックライトシステムは、ワクチン接種を条件に移動を認めている。よって、初めから市中感染をある程度許容する建てつけなので、出先で感染するリスクはむしろ増えた。ワクチンを接種していても、一定の確率で感染はするのだから。

私はパイロットという仕事上、自宅から離れた土地のホテルに滞在して次の日に帰る、という事態が頻繁に発生する。もし、滞在先で感染が発覚したり、自分が担当した便が「Location of Interest:感染者が訪れた場所」に指定されたら、会社は私を家に返せないかもしれない。1歳半の子供を抱える家庭にとって、これは死活問題だ。

後日、会社はクルーのオーバーナイトデューティ(宿泊ありのスケジュール)を極力減らす方針を出した。アローワンス(宿泊手当)は減るが、背に腹は換えられない。

どうやら、ワクチンを打っていればなにもかも自由、というわけにはいかないようだ。どうなることやら。

たくさんの方々からサポートをいただいています、この場を借りて、御礼申し上げます!いただいたサポートは、今まではコーヒー代になっていましたが、今後はオムツ代として使わせていただきます。息子のケツのサラサラ感維持にご協力をいただければ光栄です。