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呑みながら書くなんて冗談じゃないよ

冗談じゃないよ、ってセリフをね、最近よく使ってるんです。ウザいととかキモいとかより、よっぽど品があると思いませんか「冗談じゃない」って。

だいたいね、ウザいはうざったいだしキモいは気持ち悪いでしょうが。なんでもかんでも略すんじゃないよ全く冗談じゃないよ。

もっと言えばさ、この前知ったすごい略語に「ワンチャン」なんてのがあるんだよ。わんちゃんわんちゃんいうから犬がどうしたって?tって思ってたんだけど、どうもよくわからない。文が繋がらないんだよ。そしたらなんと、「ワンチャンス」の略だなんていうんだよ。ワンチャンスの略でワンちゃんだってそれじゃぁ「ス」しか略してないじゃないか。言えよスくらい。いくら勉三さんだって怒るぞ本当に。寿司のことススっていうんだからあの人は。全く冗談じゃないよ。

それでね、この前ね、呑んだんですよ。何をってそりゃぁビールに決まってるでしょう。写真にあるやつをね、呑んだんですよ。

このときのビールっていったらね、本当に脳みそが塑性変形しるんじゃないかっていうくらいね、うまかったんですよ。

ブールは好きにあんだけど、ちょっとここひと月ほど我慢してたんですよ。なんでかっていうと、仕事の関係でね。重要な試験があったんです。まぁ私はお空にプカプカ浮かぶ仕事をしてんですがね、シミュレーターっていう箱に入っていろいろやる試験があるんですよ。んで最近、いろいろあってトレーニングが続いてたんですね。

これが本当に大変でねえ。いつまでたっても慣れないもんで。

トレーニング自体はね、面白いんですよ。でもうまくいかないと昇進が遅れたり下手するとクビになるプレッシャーがあって、冗談抜きで人生かかってるんですよ。一挙手一投足に。そういうことを意識しながら箱に入るともーだめだね。頭と体がバラバラになってうまくいかない。パフォーマンスなんかでない。

なんでもそうだと思うけど、いざって時にはさ、自分の頭じゃなかくて体を信頼しなきゃいけないのよ。インチューイションっていうんだけどさ。マインドじゃなくてインチューいしょんなのよ。かなたの月をさす指の如しなわけよ。

だからって指を見るな!って怒られてたでしょう。そういうことなのよつまりは。あれは全てに通じるのよ。マーベリックに同じこと言われるとは思わなかったけどね。考えるな、っていうあれね。パイロットは頭を使うよ。頭脳労働なの。でも同時に、考えちゃいけないないの。そういう矛盾が成立する体系があるってのはわかるよね。

考えないと前に進めないけれど、考えてはいけない。そんな禅問答を前に、人生をかけて、批判を受けるためだけに、箱の中に入るわけよ。冗談じゃないよ。毎回、真剣勝負だよ。ビールなんか飲んでる暇くらいはあるけど、そこはやっぱり我慢するわけよ。ここを乗り切ったら、飲んでやる。って。そうやって執念をわざと作っておくのよ。なんでかって、そりゃ諦めるのは簡単だからさ。現場でミスした時に、つい月ではなく指を見てしまう瞬間があるのよ。そうそうすると、どうしても忍び込んで来るのよ。考えちゃいけないことが、最悪のタイミングでね。「やっぱりだめなのかな」ってね。

でも、ほら、思い出してみてよ。俺はあのとき、ビールを我慢していたでしょう。

そうするとね、執念が湧いて来るのだよ。ビールに象徴される、全てのことを俺はあの時、意思の力で保留してここにきたんだぞと。あの時の俺は、今のお前がやってくれると信じているからこそ、我慢してくれたんだぞと。今諦めるんだったら、あの我慢したビールはどうなるんだと。

冗談じゃないよ。おとといきやがれ。

そうやって魂に火をつけてなんとか箱を乗り切るわけ。そうやって結果を出してね、へとへとになってホテルに戻って、ラーメン屋で

「オリオンビール一つ」

っていうわけよ。いや、そりゃサッポロでもヘッポコでもなんでもいいよ?好きにしてくれよ。

霜がついてるグラスに液体を注いで、しばらく凝視するでしょう。そしてね、一息に半分くらい喉に当てていく。で、グラスをテーブルに置くね。

カー!このために生きてるね!!

なんて野暮なことは言わないよ。正確には、言えない。何も声が出ない。それどころか、がっくりとうなだれてしまう。染みるっていうのはこういうことをいうんだとおもう。染みるわーって言えちゃうならそれは本当には染み込んでないんだよ。

本当にうまいビールってのは、言語を絶するのよ。

この時思ったんだよね。この感覚を知らない人間は、不幸だと。喜びってのは、その前の抑制ありきなんだと。そして、抑制には意思が必要で、意思のないところに喜びはないってことなんだよ。喜びの大きさを決めるのは、決して金額の多寡じゃじゃないんだよ。

結局みんな、金ばっか見てるでしょう。あ、いや、金は大事だよ。でもさ、目的になっちゃってないかね。でもね、以上の理由で金は喜びの大きさに直接貢献はしないのよ。自分史上最高のビールを味わうために必要だったのは、たった9ドルだったよ。そりゃビールとしては高いかもしれないけどさ、10ドル札一枚で人生で最高のビールが飲めるなら、金は副次的なもんだってわかるでしょう。

金は大事だ。でもそれは、不幸を回避するために大事なんだ。どんなに小さなことでもいいから、目の前のことに挑戦しているか、そのために意思の力で抑制的になっているか、人生は、その一点にかかっている。


たくさんの方々からサポートをいただいています、この場を借りて、御礼申し上げます!いただいたサポートは、今まではコーヒー代になっていましたが、今後はオムツ代として使わせていただきます。息子のケツのサラサラ感維持にご協力をいただければ光栄です。