蝶々と妖怪
脳梗塞を起こした母は、少し左側が不自由です。頭をうまく洗えないので、ヘルパーさんに月2回お願いしていました。
2ヶ月続けてみたのですが、やめてしまいました。理由を聞くと「ヘルパーさんが大変だから」としか言いません。
先日は母を散歩に誘いました。10分くらいで行って帰ってこれる道を40分かけて歩きました。山の中なので、いろいろな蝶々を見かけます。ひらひらすると白黒の半円が見えるもの、小さくて黄色いもの。紋白蝶は畑にひらひらしています。
母が、少し左側を引きずって歩きながら言いました。
「おばあさんがお風呂で亡くなったでしょう。あそこで髪を洗ってもらうのはなんかいやなのよ」
なるほどね。そういえばそんなこともありました。いやなら仕方ありません。
道の途中、花を植えるのが趣味という人の敷地が花畑になっていました。母は足を止めて「花はいいね。心がなごむよ」とつぶやきました。私は「そうだね」と蝶々を目で追っていました。蝶々はひらひらして見えるけれど羽ばたきはとても速くて、うまく撮れる気がしませんでした。
祖母のことは、こどものころから妖怪みたいとおもっていましたが、死を経て真に、母の心に棲む妖怪となりました。
散歩して花を見て蝶を見て胸が悪くなるなんて、あるんだなあ。
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