マガジンのカバー画像

44
運営しているクリエイター

記事一覧

みんな文

みんなで山に行った。
みんなで駅前で待ち合わせて、
みんなでバスに乗って、
着いたらみんなでアイスを食べて、
みんなは山の空気を吸い込んで吐き出して、
みんなは気持ちよくなってたくさん笑った。

私は山に登れる靴がなくて、
私はリュックサックも持っていなくて、
私はバスに乗る小銭ももらい損ねて、
うちでパソコンの前でライブカメラで、
私は一人でみんなを見ていた。
山の麓の休憩所のみんな。

そこに

もっとみる

血文

時空がすっかり歪んでしまって。
歪んでしまったので。
目の前に産気づいた母がいる。
母の隣には産気づいた祖母が二人いる。
祖母たちの隣には産気づいた曾祖母が四人いる。
七人の女が七つの声で叫びながら、
りきんでいる。
りきんでいる。
叫び声がどんどん大きくなって、
高くなって、
私の目がそれにつられてどんどん見開かれて、
まんまるになって、
もう耳をふさいでしまえ、
と思った時、
ついに祖母が生ま

もっとみる
告知 TOKYO ART BOOK FAIR

告知 TOKYO ART BOOK FAIR

THE TOKYO ART BOOK FAIR に、cyanのメンバーとして参加しています。

私は、こちらで公開している文の冊子を出品します。

それぞれの過ごす時間に思いをはせる、
フリーペーパーpapercyanもご用意しました。

よろしくお願いします。

以下、ブログ webcyan(http://webcyan.blog.fc2.com/)から転載。

毎年たくさんのお客さんが来られて

もっとみる

抜本的文

抜本は一人になりたかった。
いつもいつも的がもっともらしい顔をしてうしろにくっついてくる。
抜本は行動した。その名にふさわしい強硬な姿勢でもって、土下座も辞さない構えで、頼み込んだものの代議士も学長も新聞記者も「あー」と言って抜本の目の前でひらひらと手のひらをはためかせた。それはつまり忙しいからあっちへ行け、という意味なのだった。
訴えはどこにも届かなかった。
そもそも自分がかり出されて、何かが劇

もっとみる