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鮨屋をDXした話。

DX(デジタル トランスフォーメーション)。
新型コロナウィルスの影響もあり、業務のデジタル化がさらに求められる中で、最近良く耳にするワードだ。

今、自分はBtoBのSaaSサービスを提供している会社で働いており、
まさにクライアントの業務のDXを進めるサポートをしている。

ただ、けど「DX」ってワードは先行しているが、
それってどういうことだっけ?というのをわかりやすく伝えられないかな、
と思案していた時に、ふと思った。

自分が、前職の鮨屋でやっていたことが、
まさにDXだったんだと。

0.そもそもDXの定義

そもそもDXが「デジタル トランスフォーメーション」と訳されることは、
多くの方がご存知ではないかと思うが、教科書的におさらいしてみよう。
DXは、以下の3つの段階に分けられる。

スライド1

参照:https://monstar-lab.com/dp/blog/digital_transformation/
   https://blogs.itmedia.co.jp/itsolutionjuku/2019/01/3_20.html

この3rd Phaseを経て「DX」したと言える。
ただ、言葉だけだとわかりづらいので、実際に自分が鮨屋をDXした過程を
振り返りながら説明していきたいと思う。

第1フェーズ:IT利用による業務プロセスの強化

2017年春。
ふとしたきっかけで、新卒で入社した広告代理店を退社し、なぜか西麻布にある鮨屋の経営に携わることになった。

その鮨屋は、当時50代の大将が現場を1人で切り盛りし、
予約はお店に置いてあるカレンダーに手書きで管理していた。

そんな状態なので、もちろん自分の知り合いから予約の問い合わせの連絡をもらっても、お店の営業中、仕込みなど大将の手が離せない時、お店の定休日、色々な場面ですぐに席の空き状況がわからず、せっかく頂いた問い合わせに、最悪後日対応することになってしまっていた。

原因は大きく2つ、
1.そもそも予約数がそこまで多くなかったので、以前は満席を気にする
 必要がなかった。
2.当時の大将は50過ぎの、いわゆる“職人”だったため機械の操作を面倒くさがり紙で管理を貫いていた。
Webの予約システムも1つ使っていたが、Web上の管理画面で在庫の管理ができないと言う理由で全く使われていなかった。

どれぐらいITリテラシーがないかと言うと、例えばPDFという単語も伝わらない。
メールで送ったメニューをお店のプリンターで出力してくださいとお願いしても、出力するために僕が夜、自宅から呼び出されるような状態だった。

そんなお店に最初に僕が導入したITツールは、Googleカレンダーである。

そう、あの「Googleカレンダー」である。

導入した理由はまず携帯でもパソコンでも誰でも無料で見られる。
やはり最初から有料ツールを導入するのは費用対効果も見えづらいしスタッフが使いこなせるか分からないのでまずはこういったものに慣れてもらうという意味で導入をした。

それでも効果はてきめんだった。

お店の営業中でも定休日でも自分知り合いや、オーナーの知り合いから予約の問い合わせが入っても即時に答えられるようになった。

予約の問い合わせに対して即時に返答できないことで顕在的に取り逃していた予約もあっただろうし、そもそも返答に時間がかかると言うところで面倒くさがられて取り逃していた予約、潜在的な取り逃しもたくさんあっただろう。

まず紙のカレンダーで行っていた業務をデジタル化する、
これがDXの第1フェーズ。

第2フェーズ:ITによる業務の置き換え

次に行ったのは予約のデジタル化だ。
そうWebでの予約を受け付けるのだ。

そんなこともやってなかったの、と思われるかもしれないけどやっていなかったのだ。いや、やれなかったのだ。
紙のカレンダーで予約管理しているとリアルタイムで在庫情報が把握できない。
そうすると、在庫がわからない、もしくはそもそもWeb上の管理画面を扱えない、ということでWebで予約を受けつけるという簡単なことすらできないのだ。

でもあなたの業務でこういったことって起きていませんか?
例えば上司のスケジュールは共有されていなくて、上司にいちいち問い合わせをしないと会議の日程も取引先と決められない、とか。

これによって今まで電話での予約受付が9割を超えていたが、Webでの予約が6割を超えるようになった。
また他の飲食店と違うところでいうと、10席しかないカウンター席のお店だけど、予約のWebシステムは7つも使っていた。

ということで、今まで、予約のほぼ全てを「お店への電話に大将が対応する」という業務をWebでの予約受付に置き換えることで、営業時間外、定休日など物理的に対応出来なかった予約も含めて、予約は順調に増えていった。

第3フェーズ:業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態

先ほど導入した予約のWeb予約システムの中に、CRM機能が強いもの1つ入れていた。

※CRM=Customer Relationship Management(カスタマーリレーションシップマネージメント)の略語で、「顧客関係管理」や「顧客管理」などと訳されます。


これが最終的にはDXの決め手となる。
まず予約時にWebからの予約の場合、氏名・メールアドレス・電話番号、そしてどの予約システム経由の予約かという情報が自動的にCRMツールに登録される。
そして、そこにお店のホールマネージャー、職人が当日のお客様の情報を追記していく。
当日お酒は何を召し上がったのか、どういった利用目的でいらっしゃったのか、どんな会話をしたのか、苦手なものお好みはあったのか、効き手はどっちだった、などなど。

そしてその情報はCRMツール上に、記録をされていく。

さらに、CTIの機能と連携することで、そのお客様から電話があった際に画面には自動的に、前回の来店日、ご注文いただいたコース、その他当日に追記した情報が画面に表示される。
そして2回目のご予約であっても、まるで常連のお客様のように「いつもありがとうございます〇〇様」という電話での対応ができるのである。

CTIとは(Computer Telephony Integration System:電話とコンピュータの統合システム)の略語。

さらに、当日営業前のブリーフィングでは、その情報を出力し、スタッフ間でシェアすることにより、当日ご来店されるお客様の情報がきめ細やかに各スタッフに共有することができるのである。

そういったことを繰り返す中で、ITと業務が相互にシームレスに行き来して、切り分けられない状況になる。
これが第3フェーズ。
日々の予約情報、お客様の特徴、注意事項、前回担当した職人のみが知っている情報が全てこのツール上に集約され、それを日々の業務に生かし、また業務の結果をツールに入力する。
ITツールの導入だけではできないし、業務だけではITの機能を補完できない状況である。
最初の表にも記載したが「人間にしかできない価値提供をする」ことに人間が集中できる状況である。

4.まとめ

以上のような順番で、私は鮨屋のDXを進めてきた。

物事には必ず順序がある。紙のカレンダーで予約を管理していたタイミングから、いきなり3rd Phaseに移行しようとしても、スタッフのリテラシーとテクノロジーのギャップがありすぎてそもそも使いこなせない。
そして、そもそもそのツールを生かすほどのデータの蓄積がないと。せっかくのツールを導入しても生かし切れないといった問題がある。

以上は、実際の自分の鮨屋での経験だが、どの業界にもまだまだDXを進めることによって効率化する余地が多分に残っている。

自分が今関わっているSaaSサービスが提供するValueに、
こんなワードを付け加えてもらった。

“ムダな時間を、価値ある時間に”

自分が広告代理店を退職したきっかけの1つは、
42歳で亡くなった先輩を見て、いかに自分の人生、自分の大事な時間を生きるべきかという自分の想いとDXによって伝えられるサービスの提供価値を自分なりに表現した言葉である。

鮨屋時代、自分は職人でもないしホールスタッフでもなかった。
ただ自分はDXを進めることで、お店の生産性を上げ、スタッフにも、
他のお店以上の給料を支払うことができ、お客様にも喜んでいただけた。

それが今の自分にとっても、得難い経験であったと思う。

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