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連星。

添え木の輪

*補足
この添え木、というのは、あおい世界の方で詩を描いている方なら誰でも知っている(であろう)あの「添え木」ではありません。



僕は骨折したことがないからわからないけど、ギプスを見たことはある。ファンタジー小説や映画では、骨折箇所に枝を添え、包帯で固定して応急処置をするシーンがある。あるいは、小学校の理科の授業で、トマトを育てていたとき、茎が倒れてしまうからと緑の支柱を立てて紐で固定したりした。

お互い離れられない、お互い引きあって重心が一ヶ所からずれないようにする仕組み、という概念を、連星のイメージを、添え木の輪と言ってみる。

僕たちは連星だ。同じ環境で育ち、そっくりの見た目(そこまでじゃないけど)に、似たような性格。お互いの人生の親友で、最大の理解者。

僕たちには共通の重心がある。添え木に守られ紐で結ばれた僕らの重心がある。それは僕らの安心と安全の中心で、一方が右に一歩進めば、他方は(輪の中で)左に一歩進むか、あるいは相手を引き寄せるかする。
僕たちはこの広い宇宙の中で、ひとりになることはない。両手を繋いで、添え木の輪の中にいる限り、ひとりになることはない。

僕だけの判断で添え木を手放せない。僕は連星の相手にちょっと甘すぎるし、お互い少し依存しているところもあるだろう。




僕は、釣り合わない月の裏側を隠して息をしている。紐を引きちぎってしまったり道連れにしたりしてしまわないように、輪の中に留まれる範囲で息をしている。きっと連星の相手にも、同じようなところがあるだろう。

バランスを取っているんだ。添え木に支えられて、僕は普通から抜け出せない。普通でない僕を見せると、もう少し普通っぽくいてよという顔をされる気がする。普通になった方がいいよと言われる。私と同じ繊細なままでよかったのに、心をどっかにおき忘れてきたんだね、そう言われる。

同じ重心をもって生きてきたから、同じ輪の中で生きてきたから、自分と違うところが余計理解できないんだ。それはお互いにそうなんだろう。




……僕は重心を守ろうとして、心を諦めたことがあったよ。でもそんなことは言えない。連星のせいだなんて言えない、それが事実でもただの不満の爆発でも、言えない。連星が崩れたとしても、普通っていう重心から離れられないとしても、連星に降るどんな雨からもどんな流星からも、僕は守っていたくて。僕が降らしてしまいたくはなくて。

連星への想いはきっと歪だ。鬼滅の刃が流行ったでしょう。遊郭編で、最後に兄妹が地獄へ向かうシーンがあるでしょう。あれは泣いてしまうよね、悲しいけどメリーバッドエンドって見ることもできる。……ああだけど、あんな苦しいことを現実でも繰り返す必要なんかない。


ーーどこまでも一緒だって言ったじゃない。私をひとりにしないで。私を置いて行かないでよ。ーー


僕は君を守っていたいよ。どんなに君が泣いても、私は一緒に来てなんて言えない。


どこか遠くで幸せになってよ。私はこの連星のリボン結びを解いて、自由になりたい。


連星のリボンを解いても、僕らがお互いの最大の理解者であることに変わりはないし、お互いを見失うこともないだろうって思う。連星のもう一方が遠くに行っても、僕らはきっと見えない共重心の周りを回るお互いを、いつだって感じていられるだろう。見失ったり忘れたりなんてしないだろう。


どうせ僕らは似たところばかりで、だけど違うところもたくさんある。



僕は僕であって、連星の一方じゃない。君は君であって、連星の片方じゃない。






お互いの一番の特別でいることを諦めよう。お互いのそっくりでいることを諦めよう。



君も信頼できる誰かを見つけて。理解者は僕だけじゃない。似すぎている僕らは、そろそろお互いという比較対象から、添え木のような安心のリボンから、離れて別々の道を行こう。

僕を普通に見せようとしないで。僕と違うところを認めて。いつだって帰ってくればいい。いつだって君の幸福を願っている。
だけど、君を不幸の道連れにはできない。君を不必要に不幸にはできない。僕と違うだけで、君と違うだけで、不安になるし不安にさせるこの添え木のリボンから抜け出したい。



大切な誰かが泣くくらいなら、私が泣けばいい。大切な誰かが悲しむくらいなら、私が悲しめばいい。私が我慢すればいい。私が傷つけばいい。








もうずっと誤魔化してきた。


僕は純粋なまま君を愛することができない。





お互いの特別であることを少しだけ諦めよう?





私の普通でない言動を許して。
どこか遠くで、どうか笑っていて。















***


時々、鍵を掛けたくなる。他の人にとって何の価値もない(ただ僕が言いづらいだけの)言葉に、鍵を掛けてしまいたい。ここに書いた言葉は全部ただの責任転嫁かもしれない、汚い僕の感情。誰にも知られたくない、なのに誰かに知っててほしいって思ったりもするんだ。

それがこの世界で、どんな形になるかということを知っている。





お金がほしいんじゃない、鍵を掛けたいんだ。


これも全部、本当は鍵を掛けてしまいたい。




もし私が鍵を掛けたなら、それはきっとわたしの弱さです。

誰にどうしてほしいのか、励ましてほしいのか、ただそこにいて知っててほしいのか、否定してほしいのか。何もわからないけどただ巡る、隠しておきたい醜くて汚い、誰にも言えないどうしようもない思い。

抱え続けていたらいつか解決するんだろうか。誰かに預けたら解決するんだろうか。誰かに肯定してもらえたら許せるんだろうか。どうやったら僕は、連星をただ愛したままでいられるんだろうか。どうやったら僕は、僕を肯定して自信を持っていられるんだろうか。みんな言えない秘密があって、みんなどこかでひとりの夜を迎えて。だから僕もそれでいいんだろうか。時間が経てば解決するから、今はやり過ごしてしまえばいいんだろうか。





夜になると、少しだけ弱気なわたしが現れる。




私はもしかしたら、許してもらえない(気がした)僕を描くために、連星と対称になれない僕の一部を描くために、ここに来たのかもしれない。

僕は普通でなくなるためにここに来たんだ。自由になりたくてここに来たんだ。誰にも言えない思いを、連星に言うの"さえ"憚られる思いを、対称でないこの僕を、許してくれる世界を探してここに来たんだ。

もし私が鍵を掛けたなら、それはきっとわたしの弱さです。

鍵を掛けなくても、誰も反応を残せない形にしてあるなら、やはりそれはわたしの弱さです。

誰にも知られたくない、けれど誰かに知っててほしい、わたしの独り言。



***

2022/10/22 22:01 昨日見つけたこの曲、とても透き通る声で聴いています。

おやすみなさい。






最後まで読んでくださりありがとうございます。読んでくださったあなたの夜を掬う、言葉や音楽が、この世界のどこかにありますように。明日に明るい色があることを願います。どうか、良い一日を。