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『はじめるデザイン』のはじまりかた(2)煉獄編

はじめに

こんにちは、人妻女子大生社長です。カトリックではありません。おかげさまで『はじめるデザイン』が流通し始め、多くの方に手にとっていただいているようです。ありがとうございます。第二回の今回は、天国にも地獄にも行けなかった6年という歳月について振り返ってみたいと思います(第一回はこちら)。

「世に問う」勇気

6年もかかった理由をひとことでいうと、長らく「世に問う」勇気が出せませんでした。本を書くということは少なからず読者に新しい価値観を問いかけるものです。本書が題材にしている広告も同じです。この問いかけは、同じメッセージであっても「誰が言うか」「どう言うか」で反響が変わってくるのは、みなさんご承知のとおりだと思います。「私なんかが言って(書いて)大丈夫なんだろうか」と今もずっと考えています。

「おわりに」にも書きましたが、この6年間出てもいない本について、悪い評価や感想をもらったらどうしようどうしようと毎日考えていました。悪評ばかりをいつもシミュレートしていくなかで、いつしか脳内Amazonレビューが★1を連発するという自体に陥ってしまいました。書籍の中に「どツボにハマるから一人で悩まないで」と書いてある部分が数箇所あるのですが、実に鋭いブーメランです。

それでもなんとか出せたのは、6年の間に共著で書いた本たちとその間に出会ったみなさんと、仕事、あとは厳しい恩師から言われた「"世に問う人"になってください」という言葉のおかげでした。何人かいる私の恩師はみんな厳しい。but 圧倒的感謝。

答えのない問いに答える難しさ

この本を出す前、業界経験のある年長者たちからの忠告は共通して「広告(販促)ツールの製作のプロセスは現場次第だから、全体を体系立てて書いたり断言するのは無理ではないか」ということでした。私も正直そう思います。一方で現場で頑張っている方たちからは、よい(売れる)デザインがわからないので教えて下さい、という声も聞かれます。広告(販促)デザインのプロセスというのは、答えのない実にモヤモヤとしたテーマなのに、アウトプットについては良し悪しをすぐに知りたいという即効性が求められすぎているように思います。プロセスとアウトプットはリンクしているので、なかなか難しいなと感じています。
私はこのモヤモヤに杭を打って旗を立てようと思いましたが、どんな旗が「良い」のかまでは、正直あまり言及したくない気持ちでした。百人いれば百通りの回答がありますから。デザインについて書いた1章は、結局掲載されている3倍以上の文章を書きましたが、悩んで自分でほとんどをボツにしました。そして、掲載されている文面からは隠しきれない弱腰が見て取れると思います。

実践型の「作例」の難しさ

私は諸々の許す限り、作例のリアリティにこだわっています。リアルじゃないとリアルの役に立たないからです。たとえば共著の『人物写真補正の教科書 Photoshopレタッチ・プロの仕事』では、普段からファッションモデルを撮影しているカメラマン、アートディレクター、ヘアメイク、そしてプロのモデルさんをバッチリ揃えてスタジオで作例の撮影をしました。

今作もリアリティのある作例を交えてご紹介をしたいと思い、2章で取り上げている土鍋のメーカーである、大阪のオーシンさんにお願いをしました。オーシンさんは東大阪にある町工場を主軸に、IHに対応した土鍋の加工を中心とした事業を展開されています。社長さんはIllustratorやPhotoshopにも関心の高い方で、『はじめるデザイン』の読者にぴったりでした。そこで私は実際に大阪に行って、工場や製品を見学して製品の説明を受け、うっかり美味しい焼き肉をごちそうになりつつも土鍋を購入し、カメラマンに撮影を頼んで、作例の素材作りに望んだのでした。このときの土鍋は今も使っています。

良い写真は撮れました。ところがそこからが大変でした。作例の基準として、(1)初心者が理解できる難易度か(2)作例としての魅力はあるか(3)広告のロジックを扱う本として、そのロジックに齟齬がないか(4)写真の力だけに頼らない汎用的なアプリのテクニックが盛り込まれているか...... これらを満たすのがとにかく大変でした。たとえばお鍋の写真について、合成やフードコーディネートを駆使してもっとユニークで面白い表現にすれば「広告のロジック」という点では及第点かもしれませんし、実際に仕事で受注していたら、ご提案するかもしれません。ところが「汎用的なアプリのテクニック」で言うと、実際のところ大したことがない結果になってしまったりするのです。むしろ「デザインを作る本なのに、結局これはカメラマンの腕がいいからじゃないか」と思われてしまう恐れすらあります。脳内Amazonに★1レビューをつける日が続きました。

結局の所、「超初心者」を対象とするには若干難しいレベルに落ち着いてしまったかな......と思う点はあります。ただ、そういった方に向けて、「1.5章」という、アプリを触るときの心得を書いた章を用意しましたので、何らかの形でお役に立てればと願っています。

それでもなんとか頑張った

それでもなんとか出せたのは、ひとえに出版社のみなさんとデザインDTPをしてくださったみなさんのおかげです。あとは、6年経っても類書が出なかったというのもあります。同じ本が出たら辞めようと思っていましたが、出ませんでした。書籍はかなりチェックしていますが、もしも類書があったら教えて下さい。

おわりに

次回は『はじめるデザイン』を出してみてよかったことを書こうと思います。書店等で見かけましたら、どうぞよろしくおねがいします。ご感想等ありましたらtwitter: @chaca21911 までお寄せ下さい。

実は書籍の作業にかまけて、大学のグラフィックデザインの課題を落としたままです。「センスなしでもデザインできる!!!!」というのが本書の表題に含まれているので、わたくし身をもって証明しておりますが、実に不名誉なので、近日取り組みたいと思います。女子大生編もそのうちまた。

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