クソでか感情でアイドルを推す【2023.12.06の日記より】

 かねてより楽しみにしていたイベントがある。ずっと応援しているアイドルグループの武道館公演のライブビューイングだ。「推している」という表現は便利だけれど、自分としては「応援している」か、「(活動を)追っている」という表現のほうがしっくりくる。

 わたしが応援しているのは、ハロー!プロジェクト(ハロプロ)所属のJuice=Juice(ジュースジュース)というグループだ。Juice=Juiceは今年でデビュー10周年で、私は結成時から追いかけているので、ファン歴もほぼ10年ということになる。10年前、父親を癌で亡くした直後、ぽっかり空いた心の隙間にするっと入りこんできたのが、初めてオリジナル曲を与えられたばかりの彼女たちだった。心が弱っているとき、人はアイドルにハマりやすい。これはタレントの柳原可奈子さんの言葉である。

 ハロプロのアイドルグループには、結成当初のメンバー構成を変えずに解散まで駆けぬけるタイプと、卒業システムでメンバーを入れかえながら、ハコとしてのグループを維持していくタイプとがある。どちらにもそれぞれのよさがあるけれど、わたしは後者のタイプが好きだ。楽曲がメンバーからメンバーへと受けつがれていくのには、ほかでは得がたい感慨がある(要は「エモい」)し、メンバー構成が少しずつ変化しながらもグループとしては変わらず存在しつづけるという成長の形は、わたしたちの身体が一見何も変わらないように見えて、実は細胞が少しずつ入れかわっているのにも似て、とても有機的だ。生物として自然な形であるように思う。

 Juice=Juiceもそういう、メンバーの入れかえがあるタイプのグループだ。デビューから10年経っているので、結成当初のメンバー(オリジナルメンバー、いわゆるオリメン)はもう、ひとりしか残っていない。そして彼女は、来春にグループを卒業することが既に発表されている。シーズン開始早々に今シーズン限りの現役引退宣言をした新庄剛志(現・日ハム監督)なみに早い卒業予告だった。

 わたしはJuice=Juiceの中に特定の推しをもたず、グループそのものを応援する、いわゆる「箱推し」というやつだけど、最初に好きになったときの構成メンバー、つまりオリメンにはやっぱり特別な思いがある。オリメンが全員卒業していなくなったとき、それでもJuice=Juiceは、わたしの愛したあのJuice=Juiceだと言えるのか。オリメンの歌声がまだ耳の中にこだましているのに、現メンバーの歌うJuice=Juiceの曲を聴いて、それがわたしの愛したあの曲だと思えるのか。試されているのはアイドルたちではない、ファンであるわたし自身だ。

 というようなクソでかい感情をもってライブビューイングを見にいく。緊張して1時間も早く、会場の映画館に着いてしまう。映画館の周囲にあるお店をぶらぶら見て回るけど、何も目に入ってこない。私が舞台に立つわけでもないのに、無駄に緊張してしまうのはなぜなのか。映画館でのライブビューイングは、始まってしまえばとても快適だ。大きなスクリーン、迫力のある音響。隣りで振りコピするオタクと身体がぶつかることもない。座席の引きが悪くて、機材が邪魔で舞台が見えない……なんてこともない。もちろん現場には現場でしか味わえないよさがあるけれど。

 ライブを観ていて毎回、新鮮に驚くのは、メンバーたちが軒並み成長している!ということ。本当に毎回思うし、今回もまずそう思った。若い人たちの成長速度は半端ない。いつもニコニコ元気印!みたいなキャラだった子が、しっとりした曲では大人っぽい表情を見せている。この間までしゃべるたびにいっぱいいっぱいになってすぐベソをかいていた子が、長いソロパートを堂々と歌いあげている。まだ加入したばかりの最年少が、ソロパートでの歌い方にアレンジを効かせるようになっている。みんな本当に見違えるようだ。過去の先輩たちが作ってきた基準点に追いつこうとしているのではなく、そこを超えていってやるぜという気概を感じる。先輩たちの背中ではなく、ちゃんと未来を見据えている。それが感じとれたのが、個人的に今回のライブで最大の収穫だった。ライブの最後、メンバーひとりひとりのスピーチで、ある子が感極まったような声で「わたしは、Juice=Juiceが本当に大好きです」と噛みしめるように言っていたのが印象的だった。なんだかファンみんなの声を代弁してくれたようで、胸がいっぱいになった。

 今の時代に、アイドルグループを応援することはとても苦しい。そこには絶対に搾取的な構造があると、みんなうっすらわかっているから。アイドルたちが傷つくのを見るのは本当につらいし、彼女たちの幸せを心から願っている。なのに、たとえばわたしの姪っ子がアイドルとして芸能界デビューすることになったら、わたしは絶対に止めるだろう。にもかかわらず、今日もわたしはアイドルのライブを見にいって心から感動したりしている。これは大いなる矛盾だ、自分の内部が引き裂かれるようだ。そしてこれは、あらゆるエンタメの抱える問題でもある。輝きがまぶしければまぶしいほど、その裏には必ず濃い闇がある。誰かの人権が侵害されていて、誰かの労力が搾取されている。それはわかっている、わかっているけれど、アイドルたちの輝きを目の前にすると、もうどうしたって惹きつけられてしまう。誰かの犠牲で成り立つエンタメはなくなったほうがいいとしても、その心の動きまでなかったことにはできない。だから苦しい。そしてわたしは、こういう矛盾を抱えながら、これからも当面はアイドルのことを応援し続けてしまうんだろうなと思う。

 ライブを観たあとは、興奮していつもなかなか寝つけない。お酒もたくさん飲んでしまう。きっとこの日も、遅くまで眠れないんだろうな……と思っていたけれど、わりとすぐ眠りに落ちた。アイドルたちもオタクたちも、今日この夜ばかりはあったかい気持ちでぐっすり寝られるといいなと願う。

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