見出し画像

旅の出逢い ☆70

1990年代のいつだったか、私は初めて中華人民共和国を旅した。社会主義国家というものを、まだ未体験の私は、多少は緊張していたかも知れない。

私が選んだのは、北京や上海ではなく、桂林(けいりん)だった。

よく水墨画に描かれる神秘的な山の絵は、桂林なのである。

神仙に憧れる私は、インドの旅を経て水墨画の世界を歩いてみたいと思った訳だ。

いや、その頃は香港へも行った事はなく、ついでに香港も見たかったから、香港→広州→桂林のコースを考えていた。

考えていたと言っても、ほぼ無計画、行き当たりばったりで、とにかく広州駅までたどり着いた。

桂林までは列車でも行ける筈なのだが、駅窓口に殺到する中国人民の数と熱気に「ムリかもしんない」とあきらめ、

急遽、長距離バスで行く事に変更してみた。

どこをどう探したか曖昧だが、駅近くにそれっぽい場所があったので助かった。漢字で書いてあるから間違える事もない。

夕方広州を出発して、翌日の午後くらいに桂林へ着くバスだった。

客は全員中国人。

かと思ったら1人だけ女性のオーストラリア人が居て、彼女は私の隣に座った。

彼女の目的地は、桂林のてまえ陽朔(ヤンショウ)で、そこは白人のバックパッカーが集う場所で、彼女の恋人が長く滞在しているのだという。

バスは夜間はイスがベッドに変わり、寝ることも出来るのだけれど、

何しろ、舗装もされていない道路を高速でぶっ飛ばして走るから、安眠はほぼ望めない。

だから、彼女とずっと話をしていた。旅の話、オーストラリアの話、中国の話。・・・

彼女は昨年も陽朔にバスで来たという

「その時は大雨が降っていて、途中でバスが止まってしまったの。洪水みたいになって、動けなくて3日間も足止めされちゃったわ」

わお!!さすが中国、スケールがでかい。

彼女はとても人懐っこくて、10年来の友のように何でも話してくれた。

バスの旅はとても楽しく、我々以外の人もよく喋っていた。

途中、トイレ休憩があって、悪名高い汚れた公衆トイレに入ったり、

物売りが来て美味そうな食べ物を買い漁り、喰らう彼等を眺めたり、肝心の風景は真っ暗でほとんど何も見えなかったが、まあ退屈する暇はなかった。

私はふだん人見知りなのだが、旅先だとそうでもなくなる。特に外国だと却って話せるようだ。

旅の出逢いは、格別である。

まだまだ旅の出逢いの話はあるので、また機会があれば綴ってみよう。

#創作大賞2024


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?