gigi

小説用置き場です。紙媒体にすることを目標にしています。

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最近の記事

わたしの美しき人生論第二章3話「聖母」

 ママのことが聞きたい?  うーん、どこから話そう。  ママのことは大好きだから、最初から話したいけど、私は忘れっぽいの。  ママのことを思い出すとき、和室の窓際に座って外を眺めている姿が最初に目に浮かぶ。  小学校から帰ってきた私に気づくと、ママはいつも優しい笑顔で振り向き、その薄化粧したきれいな顔が西日に照らされているのを見て、私は、ママは本当にきれいだなあ、と胸がどきどきした。  私がママを思い出すときはいつもそうだ。  ママは本当にきれい。学校の先生も、クラスメート

    • わたしの美しき人生論 第二章2話「憂鬱な少年たち」

      〈嫌われ者の夏〉   年末が近づく師走の日、城下町は爆ぜるような太陽に照らされていた。  士官学校に預けられた少年たちは汗ばみながら、中庭や食堂で午の休みをとっていた。  サマーズ伯爵家唯一の正妻の嫡子、クリステン・サマーズは久々に戻ってきた街の雰囲気の変わりように飲み込まれないように、深呼吸をした。一、二、三。そしてアイロンをかけた制服の襟をただし、ボタンが外れていないか、革靴の紐が緩んでいないか確かめ、また歩き出した。  寄宿舎の離れ、学校の敷地の東側は茂った森が数エーカ

      • 今日は木曜日だからまだ薬たくさんのんじゃいけないのに 料理はできないしお餅も焼けない 好きな人はずっと居ない お酒は飲めないけれども本を沢山読むのよそれでいつか本を呑めたらいいのにと思う アンナ・カヴァンの『氷』はどんなカクテルか知ら 淋しい私の肢体をぎゅっと 人生に耐えられるように

        • わたしの美しき人生論 第二章1話「愛をめぐる騒乱」

          第二章 <寝室にて>  曇り空が一瞬の晴れ間を見せ、窓から降り注ぐ太陽の光に、ユハは思わず眉をしかめた。カレンダーが示す12月の領域を越え、世界は初夏の新鮮な陽気に包まれていた。  これも、すべて豊穣の女神たる私が……  彼女はゆっくりと瞳を開き、自らが再びこの悪夢のような世界に足を踏み入れたことを認め、鬱々とした心持ちに囚われた。 「何か夢を見ていたような……」  彼女はぼんやりと思い返すものの、夢の内容は曖昧で、ただ懐かしさに涙がにじむような心地だけが残った。 「ユハさ

        わたしの美しき人生論第二章3話「聖母」

          わたしの美しき人生観 幕間「真夏の刑死」

           8月。熾烈な酷暑が、私達の町を飲み込んでいた。  私はその日、コンビニのアイスキャンデーを舐めながら、いつものようにスマートフォン・ゲームに浸っていた。外の世界との関係はあいまいで、未来のことなど考えたくなかった。周りは受験モード一色だが、そんなことよりも、どうせこの先、「あの計画」がある限り、普通の大学生として平凡な日々を送ることなどできないという諦念が頭を占めていた。高校を卒業したらアルバイトでもしようかと、ぼんやりとした考えが頭の隅をかすめる。それが「あの日」以来の

          わたしの美しき人生観 幕間「真夏の刑死」

          透明なからだ

          おとこが色えんぴつをからからとしながら きみ、いろにはいろんな側面があるのだよと 裸の2人は。 しかし女は 何も言わずにいる からからと肌色のいろえんぴつが何本も コップの中で揺れている (2024.4.18) 2022.11.26の夢日記から抜粋

          透明なからだ

          わたしの美しき人生論 第7話「お赤飯を炊かなくちゃ」

           ユハは眼前にそっと置かれたホットワインを見つめる。 「なにこれ?」と彼女が問いかける声には、ひどいいらだち、まるで朝の朗らかさはすっかり消え、相手を非難するするどい怒りの音色がこもっていた。  ニッキは、まるでだれかから頼まれた伝言を伝える使者のごとく、「ホットワインです」と、静かに、動揺する気配もなくこたえた。 「お酒なんか望んでないよ。もっと実用的な、痛みを和らげる何かはないの? ひどい生理痛なの」と、ユハは無意識か、あるいはニッキにあえて気づかせるためなのか、大

          わたしの美しき人生論 第7話「お赤飯を炊かなくちゃ」

          わたしの美しき人生論 第6話「鉄の貞操帯」

           雨はいつの間にか止み、灰色の雲が空をおおっていた。 「まず、これを」  教区長は、まだ四十にもかからないくらいの壮年の男で、髪を長く伸ばし少しの鬚をたくわえていた。ユハはぼんやりとした頭で、彼は髭を剃ったらきっともっと若く見えるだろうと思った。  教区長に手渡されたものは、ずっしりと重い鉄製の何かだった。ユハはそれがなにか理解した瞬間、教区長に向かって思い切り投げつけた。 「ユハ!」  ネイヴはユハを叱りつけ止めようとしたが、ユハは恐ろしく鋭い目でネイヴを睨みつけた。それは

          わたしの美しき人生論 第6話「鉄の貞操帯」

          わたしの美しき人生論 第5話「ベトザタの血」

           ユハはネイヴを入れた四角い鉄格子の檻の鎖を引っ張りながら、ネイヴの指示通りに道を歩いていった。町というより広い城の庭園が延々と広がっているような場所で、城下町からは門を隔てた私有地だった。 「ねえ、ネイヴ、ここは学校?」 「うん、まあ、そうじゃな。学び舎でもあるし、優秀な軍人を育てる場所でもある」 「ああ、なんだかそんなことをあの人も言っていた……」 「あの人?」 「栗毛の男の子で、この国の王子様だって言ってた。魔法の箒に乗って、窓際までやってきて挨拶してきたの。ここに住ん

          わたしの美しき人生論 第5話「ベトザタの血」

          わたしの美しき人生論 第4話「気ままな女神」

           翌日、明け方から小雨が降っていた。街路樹のにおいをいっぱいにふくんだ春のおだやかな雨だった。  女王ユハが目覚める前に積もっていた雪が溶けだし、街路は一面濡れていた。   ニッキがいつものように朝食を運びに部屋を開けると、ユハは顔全体がうっすらすもも色に色づき、昨日よりずっと健康そうだった。そしてうっとりとベッド脇の小窓の外を眺めながら、誰に言うでもなくひとり祈っていた。天主の御母聖マリア、罪人なる我等のために、今も臨終のときも祈り給え。  ニッキはまるで母が娘に叱るように

          わたしの美しき人生論 第4話「気ままな女神」

          わたしの美しき人生論 第3話「美貌の端女」

           ユハは、目覚めてから三日経っても、ベッドの上から動こうとしなかった。それどころか、ネイヴをアパートから追い出し、ニッキ(女はついに自分はニッキであると名乗った)でさえ、寝室に入ることが許されるのは、朝と夜の食事の運搬のときだけだった。  ユハはすべてを拒絶するようにベッドの中にうずくまり、夜がくるのをひたすら待った。朝になれば、春の祝宴が城下町で行われ、人々の笑い声や話し声が聞こえてくる。ユハは目を閉じ、耳をふさいでじっとしていた。  彼女は、ここがどこかわからなかった。

          わたしの美しき人生論 第3話「美貌の端女」

          (散文)夢に推しがでてきて泣いたオタク

          2、3日前に顔が大好きで推している声優さんが夢に出てきた。最後に彼が夢に出てきたのは去年だ。 そのときは、初デートで遊園地に行って、緊張してしまい、でも彼にどうしても触れたくて「腕、にぎってもいいですか?」とたずねるという、私の可愛らしさ、いじらしさがにじみでてしまった夢だった。 彼の顔があんまりにも好きなので、こんなに好きになったら苦しくてたまらないと思い、一時期彼のSNSを見るのをやめていた。(彼もあまり自撮りをしないし、最近アニメや吹き替えの仕事も減っているので直接

          (散文)夢に推しがでてきて泣いたオタク

          わたしの美しき人生論 第2話「士官学校の騒がしい朝」

           亡羊士官学校の学生たちは、月曜日から土曜日まで、朝六時の鐘の音で目覚める。たいていの者は、顔を洗って着替えを済ますと、寮の部屋から出てすぐに大食堂へ向かい、朝食を摂る。  亡羊士官学校は、国内で唯一の、貴族や爵位をもつもの、大商人の子息のための寄宿学校である。  いずれ王の座を継ぐ者も、国を覆すほどの力を持つ政商の跡取りも、軍師を目指す者も、朝は皆一様に、肩を並べて、大食堂で朝食のベーコンやハッシュドポテトを口にする。年齢は一番幼い者で十二歳に満たぬもの、上は二十歳を超える

          わたしの美しき人生論 第2話「士官学校の騒がしい朝」

          わたしの美しき人生論 第1話「女神のめざめ」

            ネイヴは、人魚だった。  自分がいつからそうであったのか、思い出すことはできない。 部屋の一角に置かれ、カーテン一枚で仕切られている、浅く湯の張った浴槽の中で、いつもおのれの尾をくねらせていた。   桃色の鱗が、浴槽のふちに数枚、水滴を糊にして張りついている。鱗はうすく半透明で、口にいれてみると花びらの砂糖漬けのように甘く、一瞬で溶けて消えてしまいそうだった。  ネイヴは、絶え間なくコニャックを飲み続けていた。ずっと。バスタブから出ることもほとんどなかった。眠くなるまで酒

          わたしの美しき人生論 第1話「女神のめざめ」

          炉に投げる石

          「生まれた時から不幸面のやつっているじゃん。わたしは不幸な運命に生まれたんだって顔してるやつ。むかつくんだよね」  下北沢に来てから三日経った。わたしは会社をずる休みして東京にやって来て、下北沢でシェアハウスしていた。  久々に羽が伸ばせると思って新大阪から新幹線に飛び乗ったのに、あいにく東京は雨続きでどんよりしていた。まだ十月だというのに底冷えする天気だった。    わたしは下北沢の駅を降りて商店街をまっすぐ歩き、「ちょ美ひげ」という店を左に曲がってローソンを通り過ぎたと

          炉に投げる石

          犬神怪奇譚

            ***  「不気味だわ……帝都倶楽部なんて。鄙俗(いやら)しい。」  虎沢 つぐみは、眉間に皺寄せ苦々しい貌をして、茶器に口づけた。相対する葛木 梢はちいさく微笑った。 「あら、どうして? なかなか、珍しいことをする人たちよ。」 「新人はなんでも、我先と珍しいことをしたがるものね。」   つぐみは茶器を置くとその儘、右手の指を這わせ、テーブルの上に放り投げられていた梢の長細い手の甲をくすぐるように撫でた。二人の少女は一寸見詰め合ったあと、にっこりとうつくしく微笑みあった

          犬神怪奇譚