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雑記(京都、大阪、のち海の向こうへ②)

二日目、東福寺をはじめとした京都の寺社仏閣を巡りたいという母と弟と別れ、私は大阪観光に向かった。好きなアイドルがプロデュースしているアパレルのポップアップがちょうど梅田でやっていたのと、ピアスのキャッチを無くして着けるピアスがなくなってしまったのでそれを買いに行くのが目的だった。

朝が早かったので、とりあえず御堂筋線に揺られ、梅田駅の地下街で喫茶店に入る。JTの地図に助けられた旅行だった。見たことのない大きなコーヒーポットに惹かれ、スペシャルコーヒーとかいう馬鹿みたいな名前のコーヒーを頼んだら、690円で2.5杯も出てきてしまって自分に辟易した。量を聞けばよかった。コーヒーポットは欲しくなるくらい素敵だったが、コーヒーは一度にあんなに飲むものではない。

午前十一時、HEP FIVE が開店する。以前ここの観覧車に乗ってアクシデントがあった思い出の地でもあったので、今回も観覧車に乗ろうかと思っていたのだけれど、人混みが凄すぎてやめてしまった。
地下一階のHaulsのポップアップショップには可愛らしい服が並んでいて、目移りしてしまったのだけれど、下調べの通りに黒いパーカーを買って、着て行くことにした。前日はロリータ服を着ていたのだけれど、下に履いていたストッキングが先日作ってしまった膝の瘡蓋を剥いで血まみれになってしまって、とてもスカートを着ていける状況ではなかったので、急遽弟から、もはやどこの国のものなのかもよく分からない黒いワイドパンツを借りていた。上は普段寝巻にしている青いトレーナーだったので、さっさと脱いでしまいたかった。
パーカーにしてもトレーナーにしても、ただ表や裏にプリントがあるだけのものはあまり私の好みではなくて、袖にもプリントがあるものがいい。
先日歌舞伎町の名前も知らないホストが同じパーカーを着ていて、素直に可愛いデザインだと思っていたので(調べたら価格帯も懐に優しかったし)良かった。お揃いというふうに考えるとかなり嫌だけれども。
私のワードローブにはフリルやレースだらけのガーリーな服が多いけれど、実はラフに着られるサブカル系ユニセックスコーディネートも好き。春夏はこういったトップスに頭や素足に可愛らしいアクセサリーや靴下をまとい、ミニスカートにヒールの靴を合わせるのが乙女の心意気である。
私が日記にやたらと服やメイクの話をするのは、二階堂奥歯の影響がある。容易には着づらい服や歩きづらい靴を愛好するのも、彼女のせいかもしれない。そう、いつでも舞踏会に行ける心積もりを、私は彼女から学んだ。

買い物をしたらポップアップ限定のポストカードとポーチが貰えた。ポーチはクリアな黒地にホログラム風のラメが全面に入って、ブランドのマークである煙草をふかした猫がプリントされたもので、煙草とライターがすっぽり収まったので、愛用していくことを決めた。煙草のケースは案外サイズ感が難しいものなのである。誰と行ったのかも思い出せない紫色のラブホテルのライターと、ここ数ヶ月くらい決まって吸っているメビウスオプションパープル8mmがぴったりと入った。銘柄をピースに戻そうかなとも思うのだけれど、なんだかいまいちしっくりこないままこれを吸っている。

梅田から戻る形でまた御堂筋線に乗り、今度は心斎橋からアメリカ村へ。京都に比べて、観光地が一本の地下鉄にまとまっているのは巡りやすくてとても助かる。京都がその不便さによって内向きにコンパクトにまとまっているのに対して、大阪は開けていて観光客に優しい、という印象を受けた。万博も案外、やりやすいのかもしれない。
アメリカ村には中央にまあまあ大きな十字路があるのだが(もちろん、渋谷のスクランブル交差点ほどではない)、その中心に立ってみると、四方八方から日本語ラップが、しかもすべて違う曲が爆音で流れている。派手派手しいスプレーアートがいろいろな壁に撒き散らされている。何もかもが、過剰で、溢れている。
まずはお腹が空いていたので、せっかく大阪に来たのだし、たこ焼きを食べた。半分屋台風の店で、ネギが入っていないのかと思ってトッピングを注文したら、たこ焼きよりもネギの方が多い皿が来た。やっぱり過剰すぎる。ワンドリンク制だったので、ハイボールも飲んだ。店主が話好きで、大阪のたこ焼きは生地が違うという話を延々としていた。

古着系にはめっきり縁がないため、ずっと気になっていた「雀蜂」という店だけが目的地だった。綾波レイが描かれた黒板が目印だった。店内は、まあ私のファンの人であれば必ず好きだろうなという尖りきったヴィレッジヴァンガードみたいな感じだった。結構最近のジャンプの表紙がなぜかゴブラン織りの絨毯になっていたので真剣に購入を検討したが、カード会社に多額の借金をしている身で意味不明なものを買える身分ではないし、三年くらい経ったら捨てそうなので買わなかった。ピアスを買った。私はアンドロイドなのだが耳朶に電源ボタンが設置されたことにより、より強調することができるので助かる。

心斎橋の喫茶店で二時間くらい『電気サーカス』と『幻想小品集』を読んで時間を潰し、御堂筋線で新大阪駅に行って、予定通り新幹線に乗り、途中の京都駅で母と弟と落ち合って、そのまま実家へ帰った。
そうやって、一泊二日の関西旅行は終わった。とてもたくさんの、かたちにならないもやもやしたものを抱えて、それに現実逃避による爽快感を練り込んで、眠った。借金がばれるという悪夢を見た。

翌日、つまりこれを書いている今日ということだけれども、早起きを続けていたのが身体に障って熱を出して、午後四時くらいまで寝ていた。もう熱は下がった。ケロQが販売している『素晴らしき日々~不連続存在~』と『終ノ空』のセットを買おうかな、と思って、レジのページまで飛んだけれど、やっぱり『さよならを教えて』のまひるルートをプレイしたくなったので、キャンセルした。ドライブが壊れてしまって購入しなおさなければならないので、二倍近い値段になってしまうし、もう持っている好きなゲームをやればいい。

弟が東大に行っていること、世界一周してきたことについて、すごいね、と言われることは結構ある。弟が日本の最高学府にいるということは私も誇らしいし、世界を回れるような英語力とかコミュニケーション能力とかサヴァイヴする力とかがあるのはいいことだと思う。それに対して劣等感を抱いたことは一度もない。でも、その旅で彼に何があったのか、別に知りたいとは思えない。話したかったら話せばいいけれど、興味ははっきり言ってない。
父は軽い口ぶりで私に、「お前も世界一周してきたら?人生観変わるかも」と酒の席で言ってきたが、かなり嫌だった。海外に行くことで人生観が変わるかどうかなんて分からないし、今の私の人生観を否定されたようでもあったし、やっぱりデリカシーというものが欠如した人だな、と思った。それが原因かは分からないけれど、久し振りにODをしてしまった。

そして私は、恋をした。いや、元さやと言うべきかもしれない。人見広介という男に恋をした。どこにでもいるようでどこにもいない。何もかも見えているようで何も見えていない。階段を上ったり下りたり、煙草を吸ったり、生きているようで生きていない。どの高校にも、どの閉鎖病棟にも、彼はいない。彼は文字の上で思考をして射精をしているが、私は彼と話すことはできないし、セックスもできない。彼が恋しくて煙草を吸い、恋しさのあまり入院を検討するが、もちろん彼に会うことはできない。
意味ありげで中身のない、哲学的なようでそうでもないことを、永遠に喋り続ける痩せていて卑屈な男の人が好き。
仕方がないので、パソコンを開き、アプリケーションを起動する。私たちの思考が同調シンクロしていく。私もまた、閉じこもって生きていきたい側の人間だ。また甘美な黄昏時がやってくる……。

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