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入院32日目:夢の夢

『お母さんが退院したので、遊園地に行った。
途中まで車椅子で移動していたが、車椅子で移動しにくくなったので、お母さんは車椅子から降りて歩いて移動した。

ややゆっくりだが、想像以上に歩けていた。

「こんなに歩けるようになったんだね。」
「リハビリ頑張ったからね。」

そんな会話をしながら、一緒に歩いた。』

 
 
そんな夢を見た。
目が覚めてハッとした。まさに夢だ。
今後そんなふうに歩けるわけ、ないのに。

 
 
 
朝、母親からLINEが来た。

「あれから一カ月か
私の人生を変えてしまったこの右足とどうむきあうか
今はリハビリ頑張るしかない
ともかも一気に真咲家を背負うはめになり荷を重くしてしまったね
無理せず出来るところから一緒にやろうね」

 
本当に、一気に背負うことになった。

お母さんが歩けなくなることで、私がやらなければいけないことは多いだろう。
お父さんにしても、認知力や理解力の低下が心配だ。

身体障害のお母さんに加えて認知症のお父さんの介護まで、いつかは私がメインで一人でやるしかないのか。荷が重い。

これが独身実家暮らしの運命か。

 
 
一週間最後の勤務、金曜日。

同僚Aさんの子どもが具合が悪くなり、急遽休み
同僚Bさんが具合が悪くなり、急遽休み
同僚Cさんが早退。
リーダーは退職で一人マイナス。

 
朝から苛立つ。
人手不足にもほどがある。

 
そんな中、利用者が水筒で他の利用者の頭を叩いて、叩かれた利用者が病院送りにされた。
前施設長が病院に付き添い、現場は更に手薄になった。

その利用者は先日も木片で他の利用者の頭を叩いたばかりだ。

それでも退所にはならない。早退にさえならない。

職員の対応に問題があるとされてしまう。報告書作成の仕事が追加になった。ため息が出る。

 
職員も何人も病院送りにされている。

だけど利用者は障害者だから罪に問われない。

 
今私が何かで頭を叩かれても、障害をおっても、罪には問われない。
私が怪我をして家事ができなくなっても、この利用者も保護者も私の家を守ってはくれない。責任はとってくれない。

 
こんな時は仕事を辞めたくなる。

今まではリーダーがおさえていた攻撃的な別の利用者も、職員で毎日おさえている。
複数人でおさえてもおさえきれない。

だけどこちらの人も退所にはできない。

 
怪我をしそうで怖い。
今怪我をしたり、具合が悪くなるわけにはいかないのに。

私が倒れたら、家とお母さんを守る人が誰もいなくなってしまう。

 
利用者が辞めさせないなら、私が辞めるしかないのか。

収入がなくなるにしても、私が怪我をしたり、家事や介護ができなくなるよりはマシかもしれない。

 
お母さんが入院してからは人手不足な中仕事をしていて、そんな思いが強くなる。

人手不足だから、事件や事故勃発率は高いし
人手不足だから、私一人で現場を守らなければいけないことも多いし
そうなると、私が怪我をする確率が上がってしまう。

 
人手不足なため、一人でやらなければいけない仕事がたくさんあって
一人でさばききれない瞬間がたくさんあって
仕事のミスを上から言われて、いちいち言われて

しんどい。
苛々する。

仕事を辞めたい。

 
 
具合が悪いのは仕方ない。
具合が悪いなら仕事を休むのは仕方ない。

そんな中、頑張って現場を回すのは当たり前のことで
ミスをしないで回すのは当然のことなのだろうか?

 
心も体もしんどかった。

 
 
早く寝たい。

だけど、夕飯や家事をやらなきゃ。
一人暮らしではないんだから、やらなきゃ。

 
お父さんがネギトロ丼を食べたいと言っていたから作ろうと思ったら、ネギトロが売り切れてなかった。

夕飯はカレーと野菜炒めにした。
カレーはレトルトだ。
私は疲れていて食べる気力がなかった。

だけど、軽く食べたら元気が出たらしく
推しが出たテレビや金曜ロードショーを見れた。

 
お母さんが入院してから、お風呂に軽くしか入らない日がある。
お風呂に入らなければその分時間が作れるから。

お風呂には入らなくても、お父さんがお風呂に入ったから、掃除はした。
一人暮らしならお風呂に入らなければ掃除もサボれるけど、そうはいかない。

お風呂や洗面台が気になったので念入りに掃除した。

 
 
「こんな体であと20年も生きたくない。」お母さんはお父さんにそう言ったらしい。

私はお父さんにもお母さんにも言えないけど、たまに思ってしまう。

 
これから20年、私は旅行や外出も制限がかかり
自分も年老いていく中
仕事をフルでしつつ
年々弱っていく両親の介護を一人でしつつ
家を守っていかなければいけないのか、と。

 
私の人生はなんなんだろう、と。

 
 
27歳で結婚したかった。
子どもは二人。
マイホームで旦那さんと子どもと暮らしながら
生きがいである仕事をして
趣味を満喫したかった。

 
全て失った。
もう私には居場所も帰る場所もない。

 
 
人生に悔いは一つもない。
今まで好きなように生きてきた。

そのツケが今来たのだ。

 
結婚できなかった私には選択肢はない。
私がやるしかない。
嫁いだ姉はアテにできない。

私は独身だから、お父さんとお母さんと家を守る生き方を選ぶしかないんだ。これが私の人生なんだ。



 



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