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人はいつ意思決定をすべきか -射撃競技観戦記-

射撃競技を観戦しています。射撃競技はターゲットを狙い定める精度の競技です。そうであれば毎回同じ動きを繰り返せばいいのではないかと思いがちですが、私たちの身体はどの瞬間を切り取っても同じ条件ではありません。四足の動物と違い直立二足の人間はかなり不安定な状態です。立っているだけでも揺れていて、だからこそ目を瞑っただけで安定を崩しそうになります。これは視覚で揺れを察知し瞬間ごとに補正をかけているからです。また生物が生命を維持するために起こしている活動も一定ではありません。人間は常に揺れ続け、そして一定のリズムで生命活動が行われています。

ですから、射撃の精度を高めるということは毎回同じ条件で打つということが重要になると考えられます。常時変化している条件としては呼吸、心拍、脳活動があります。

例えば呼吸をしている時は身体に微妙な揺れが発生します。息をしている時自分の肩や胸を見てみてください。小さく膨らみしぼむということを繰り返しています。呼吸を止めれば身体に揺れは発生しにくくなりますが、息を止めることはそんなに長続きしませんし、止めた後は呼吸が乱れます。例えば薄氷の上を歩かないといけないという描写が映画であると、大体主人公は息を止めるか、呼吸を静かに行います。その方が揺れが小さいからです。

競技中のトップ選手の呼吸を測定をすると、毎回吐き切った同じタイミングで射撃をしているそうです。興味深いのが熟達者は呼吸のリズム自体が安定してくるのだそうです。

次に心拍です。呼吸までは意識的にコントロール可能ですがここから先は不随意運動なのでコントロールが難しいです。トップ選手は無自覚にですが、心拍の合間を縫って射撃をしているそうです。考えてみれば心臓の動きはそれなりに身体に影響を与えます。どくんと動けば体も少し揺れます。この揺れが精度を狂わせることは十分に考えられます。トップ選手は心拍の合間で打っているのだそうです。選手は無自覚であることが多いそうですが。

考えてみるとこれはかなりすごいことです。ただでさえ心拍は一定ではありません。少し走ったり、緊張すればすぐ変わります。ましてや人生を賭けてきた五輪の舞台で心拍数が安定するはずがありません。にもかかわらずこのような状態で選手は心拍数を安定させているか、または心拍数が乱れていてもそれにうまく射撃のタイミングを合わせているわけです。

最後に脳活動です。これは私も研究者の方に話を聞いてうろ覚えなのですが、要するに脳活動にも一定の揺らぎがあり、どうも射撃の熟達者の計測をすると毎回似たような脳活動状態の時に射撃をしているそうなのです。

呼吸以外は選手はコントロールできません。ということは自分で打つという意思決定をしているというよりも、身体が引き起こしている不随意運動を察知して良いタイミングで意思決定をしていると考えられます。言い換えれば選手は狙って打つという能動的な感覚よりは、その時がくれば打つという受動的な感覚に近いのではないかと推測します。もしそうであるならば、欲の抑制がかなり重要になるでしょう。

いつ我々は意思決定すべきかという問いが、射撃を観戦しているうちに浮かんできました。

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