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THE パラレル

あらすじ
某北国育ちの喫茶真木豆神あすとらあて・あぬびすは2024年に二十歳となる男性。
SNS疲れと田舎疲れを脱ぎ払うために何度も日本列島を横断した過去とかつて格闘家だった時の海外遠征でも疲れていて、体力をあまり使わない世界で生きたいと考えていた。
ストレス社会への解放を望みながら今日も街を歩いていると景色に亀裂きれつが入り、見たことの無い世界の住人が喫茶真木に襲いかかってきた!



パラレル・リアル


    夢を見ることに特別性なんてない。
    記憶の整理だとかそういった小難しいことはさておき、殴られる夢ばかりの時と映画みたいなシチュで恋愛出来るかと思ったらオチをギャグにされて目覚めが悪い時もある。

    半裸で布団から起き上がって現実を実感するまでに時間はかからなかった。
    今日もまた欲望と叶わない暮らしの狭間で生かされる日々が始まるのだ。

    そう。
    いつも通り。

                                   * * *

     自室のサンドバッグを何度も殴っては空手の型を何度も試したりしても引退した今の自分にとっては単なるトレーニングでしかなかった。

    昔は何度も日本列島をめぐってはSNSにアップし、禁止区域に入っては怒られてを友達と繰り返していた。

    ちまたで言われているZ世代だからか高校時代には規制も倫理も厳しく成人年齢も喫茶真木の代で引き上げられ、遊びという遊びが出来たのは奇跡だったのかもと運の良さの喜びと同時にそこまで厳しすぎなくてもと苛立いらだちが芽生えることもあった。

    そんな時に試合の練習のために海外遠征できたのは良い経験だった。
    何度も死にかけたけれど明確に楽しかったと言える思い出だ。
    具体的なことを書くのは避けさせてもらうが。

    現在のアラサー以上の人間達のインターネットでの思い出話は今も昔もつまらなく、かといって結婚がどうだのも何故上げ続けるのか金稼ぎにしては原始人的だと喫茶真木もSNSでさんざんアピールをしたのにアンチしかいなくて何度画面の向こうにワープしてそいつらを殴りたかったか分からない。

    もしかしたら人間が嫌いなのかもしれない。
    何度も同じことしか繰り返さない動物だから。

     街に顔を出していつもの店で自炊じすい献立こんだてを買い出しに行く。

     安くて美味しい献立を作れるからか結局この場に依存いぞんしてしまう。
    ストレス解放にもまだまだ時間がかかりそう、か。嫌になる現実だが受け入れて進むしかない。

    この日常があと何年続くのだろう。
    いや、続くのか?
    もう未来が見えない。
    そして誰も疑問には思っていないような素振りをされる。

    ここで取るに足りないと思っている何かと悪しき人間や誰かの誘導には負けないようにかつて戦っていた時の殺気をまとわせる。

パラレル・イデアル

     疑問と疑惑を抱えたまま自宅へ帰ろうと喫茶真木あすとらあては道を歩くと景色に亀裂きれつが走った。

    壁なのかと触ってみると空気をつかんだだけだったのでこの亀裂はアニメで見るような光景だった。

    そして亀裂が大きくなる度に何か声が聞こえた。
    しかも日本語で。

「原生生物か原住民がこの世界にもいるらしいがどうする?」

「どの世界も大体統制されてるから下手な動きはしない方がいい。
しかもオレたちはその世界の人間じゃないしなあ。」

「この座標ざひょうなら人間はほぼ少ないはずだ。
いたとしても気絶させればいい。」

     そんな雑談を仲間と交わしていた人間とは違う異形いぎょうの持ち主二人が喫茶真木の前へ現れたのだった。

                                * * *

    この世界での言語を使えるまるで恐竜か爬虫類はちゅうるいのような異世界人二人が喫茶真木の真ん前にいる。

     異世界人は喫茶真木を見ても近づきも触りもしないが警戒をしていて、おたがいにらみ合うだけだった。

「なんだよ。
成人のオスがいるじゃねえか。
とても平和な地域だと聞いていたのに思ったより屈強そうだし。
どうする?」

「どうもしない。
ことを荒立てるな。

「仕事だ!って割り切れるわけねえだろ?
むしろ遊びでこっちに来たんだぜ?」

「ならその人間に会話してみるか。
なあ人間。
お前は異世界の住人であるオレたちを見てどう思ったのかなあ?」

     目的がこちらに教えられることはない。
     だが腹の探り合いか。
    人目のつかない場所になんとか誘導して追い出すか。
    亀裂の向こうで聞いた彼らの会話はどうみても友好的なことを考えてそうではなかったから尚更。

    喫茶真木は異世界人の一人の気を引くことにした。
「どう思ったか俺が話す前に場所を変えないか?
そちらの思惑おもわくと噛み合うはずだから。
それにこの街は最近は人通り多いんだよ。」

    異世界人の狙いが分からない以上、こちらも変に警察などに嗅ぎ回られないように端末の電源を切って予備のカメラを用意する。

「平和ボケはしてないようだ。
こいつ、簡単に気絶させられないぞ?」

    勘が鋭い。
    恐らく何度もこの世界に足を運んでいるのか。

    ここまで喫茶真木が抱えていたストレスは消えてなくなったが次は死なないように思考を張り巡らせる必要が出てきた。

    下手に殴れるほどのヤワな皮膚や装備もしていない。
    毒がある可能性もある。
    なら空き家付近まで誘導しよう。

「今、この世界のネズミって猫も人間も恐れない。
堂々と地上や川、海、排水管を歩き回る。
だがそれでも人通りが多い場所に進出するほど馬鹿じゃない。
あんたらもそうだと思ってさ。」

    少しだけ怒らせてこちらへ陽動ようどうしようと考えたが不意に拳が喫茶真木を横切った。
もしかしたらと思って後ろに一歩引いていて助かったのだが。

「ネズミと同等の威力に見えたか?」

「まさか。
武力を向こうは使わないからな。
よほど追い詰められなければ。」

「質問の意図はともかく人前でお前を倒すのはやめだ。
ちょうどいい空き家?廃墟まで連れてきてくれたからここをお前の死に場所にしてやるぜ!」

    もう一人の異世界人はやれやれとポーズだけして傍観ぼうかんしている。

    そうか。
    なんとか敵の攻撃を避けて空き家までおびき寄せたか。
    あとは管理人がいないといいのだけれど。

    ガラス破片、石、様々な落し物をさっと手にして拳やしっぽで攻撃する異世界人と戦う。

    気が荒い奴の計算されていない攻撃は人間と共通している。
    しかも無造作むぞうさと思っていたら隙を作らせないように腕としっぽを使ってまで。

   治安が悪い場所での格闘術か。
   喫茶真木は空き家のホコリで息をするのも前を向くのもつらいのに異世界人は目と呼吸器官をなんらかで保護しているのか動きが余裕だ。

   分が悪い。
   だがこのままでは気絶じゃすまない!
   手に持ったガラス破片をダーツの容量で力を込め、異世界人の脇が露出したところに喫茶真木は破片をぶち込む!

「ぎゃああああ!
こ、こいつ!
なんだってこんな技を!」

    残りの攻撃をパルクールの動きで避けた後に画鋲がびょうを空中にばらまいて牽制けんせいする。
   せめて遠距離武器で対抗するしかなかった。
   迂闊な近距離が通じる相手ではないからこそ。

   すると傍観していた異世界人がこちらの肩を掴んだ。

「悪かった。
オレたちの負けだ。」

   いや、今の間にこちらを気絶、どころか殺せたはずだ。
   知恵が回る方か。

「今のご時世で乱暴な真似なんてすんなよ。」

「さんざんこちらの攻撃を避けてこの場を武器にしておいて。
まあいい。
戻るぞ。

「クソっ!
脇から…いてっ!」

「治療薬は打っておいた。
なあに。
この世界にいる彼が上手だっただけだ。」

    仲間を落ち着かせたもう一人の異世界人の彼はこちらをにらんで空間に亀裂を開く。

「一人一人の力は軽視出来ないなあ。
君と会っておいて良かったよ。」

    捨て台詞らしき言葉をつぶやいてささっと異世界人は元の世界へ帰っていった。

    喫茶真木はどっと疲れ、空き家床に足をつけた。
    管理人にその後声をかけられて。

パラレル・パラレル


    何故空き家にいたのかを説明するのに何度も管理人に質問攻めをされてあれから自室で眠っていた。

    一人危ない異世界人の脅威を救ったと言ってもいいくらいに行動したのに。
    所詮これが現実か。

    「この世界も」と異世界人は言っていたからまだパラレルワールドってやつはあるのかもしれない。

    そこもおおかたストレス社会か。
    いるはずないのか。人間よりマシで意思疎通いしそつう出来るやつ。

    また今日もサンドバッグを殴る。
    現実を見ながら希望を考える。

    この疲れが本物だったからこそ。

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