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原田ひ香『三千円の使いかた』(毎日読書メモ(533))

原田ひ香『三千円の使いかた』(中公文庫)を読んだ。単行本が出たのが2018年、文庫になったのが2021年8月だが、それ以降、新聞広告でどれだけプロモーションされてきたことか。めっちゃ重版されてる。
テレビドラマにもなっていたが、本読む前にイメージできちゃうのがいやだったので見ていない。なので、新聞広告で見た以上のイメージはなしに読み始める(なので、イメージ持ちたくない方はこの先は読まない方がいいです)。

舞台は東京都北区十条。駅前に活気のある商店街があり、土地勘がないので近づく機会はあまりないが、この辺に住めたら楽しいかも、と思えるような土地柄。池袋から埼京線で2駅で、田舎者のわたしにとってはほぼ都会の範疇に入る。
御厨家は十条に居を構えている。祖母琴子は、息子和彦、嫁の智子とは近隣で別々に暮らし、和彦智子の長女の真帆は結婚して近所のアパートに住み、次女の美帆は就職したのを機にあこがれの城南地区のマンションに住んで独立。この5人、いや、和彦はほぼ蚊帳の外なので、4人の女たちが、どんな経済観念を持ち、どんな目標を持って、それぞれに蓄財に励むか、という物語。女のライフステージとその途中に立ちはだかる色々な問題、その解決に向かい、どれだけ自己解決を目指し、どういう風に協働するか。

ノウハウ本的な要素が大きく、物語はややステレオタイプで弱い。
美帆は自分の稼いだ金で暮らし、遊ぶことに夢中で、殆ど貯金もなく(借金もないけど)忙しく働いていたが、保護犬猫譲渡ボランティアに行きあい、ペット可物件に住みたいと思ったら、自分の生活基盤が激しく脆弱であることに気づく。
真帆は、かつて証券会社で働き、蓄財のノウハウを豊富に持っているが、ノルマだらけの仕事がきつく、若くして結婚・出産していまは専業主婦。夫の給与が高くないので、元々持っていた貯金を切り崩さずやりくりし、貯金1000万円を目指す。自分の小遣いは原則なしで、ポイ活で自分の娯楽費分を稼ぐようにしている堅実さ、そのノウハウは目鱗。倹約疲れと、友人と自分を比較した葛藤は、あまりに蓄財を目指すことで、心が折れないかと心配になるほど。
祖母琴子は、夫の残した家と、自分で堅実にためてきた1000万円をよりどころに、見たところ何不自由なく暮らしているが、実際には年金で足りない分の補填をして、貯金が目減りしていっていることを認識。結婚して以来仕事をしたことはなかったのに、73歳にして、職探しを始めるという、生涯現役を具現化する展開。
智子と和彦(50代)は子どもの教育費はかからなくなったが、家のローンがまだ残っていて、これといった貯蓄がない(もう少しあると思っていた貯金が、教育費と長女の結婚関連で消えていたのに突然気づいた)。向上心が高く、習い事等に熱心な智子だが、親友の離婚話、自らのがん罹患等をきっかけに、経済基盤をもっとしっかり持たないと老後を過ごせない、ということに気づく。というか、50代でこの経済観念はやばくね?、というリアリティのなさだ。夫の家事しなさ具合とかも、この状況(妻入院とか)を見るとありえん的な無能さ。
節約とか蓄財とか、家計簿をつけることの大切さとか、色々語っている割には、足りないと思ったらまず働こうよ、ということに気づいていないあたりがリアリティなさすぎ。年金についての言及もあまりない。家の維持費とか、固定資産税とか、臨時出費や一時金的に出ていく経費をどのように管理しているかも小説読んでいるだけだとわからない。
琴子が偶然親しくなった、フリーターのような中年男性も驚くほど刹那的だし、やっぱり城南だと生活コスト高いからと十条に戻ってきてなお実家とは別に暮らしている美帆は、付き合い始めた彼氏の奨学金地獄と直面する。貯金が殆どないところにとうとう借金まで登場! その解決が、小説の大団円なのだが、一族をあげての自転車操業…という風にしか見えず、小手先の生活防衛よりは、不動産をまとめて(みんな一緒に住む)、基礎コストを下げる方が現実的なのでは?、と思ってしまう。
色々な気づきもあったし、蓄財のテクニックとかはなるほどねー、と思うところもあった。浪費家な自分には耳の痛いところも沢山あった。
家計簿の連綿と続く歴史について語る一節は、『彼女の家計簿』を既に読んでいたので、デジャヴ感あったが、たぶん作者として大事なことなので2回言いたいところなんだろう。
同じ一家の中でもそれぞれに違う人生があること、色んなスタンスで生きる人それぞれに持ち味があり、それを寄せ合うことで、みんなが豊かに生きることが出来るんだよ、というのが結論になるのかな、と思いつつ、そのベースが、脆弱な経済環境であることは、もしや(もしやじゃないんだな)きわめて現代的な物語だ、と言わざるを得ないのかもしれない。

ながしまひろみの表紙は、大家族物の表紙、という感じで好き(イメージは藤谷治『睦家四姉妹図』)。


これもながしまひろみさんか、と思ったら杉田比呂美さんでした。

本の内容は直接関係ないが『睦家四姉妹図』も。


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