知の学びを創造する者

頭の中を整理する創作の場としてnoteを始めました。 頭に浮かんだこと、短編小説(作…

知の学びを創造する者

頭の中を整理する創作の場としてnoteを始めました。 頭に浮かんだこと、短編小説(作品はフィクションです)などを書きたいと思います。

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【超短編小説】 消しゴム

俺は急いでいた。アカネが転校する。 今日は引っ越しの当日だった。 俺は坂道を走り、家の前に辿り着いた。 引っ越しのトラックが停まっている。 「ハアハア、間に合った」 ダンボール箱を抱えたアカネが玄関から出てきた。 「どうしたん?そんな慌てて」 「お前にさ、渡し、渡し忘れてたから」 俺はポケットから消しゴムを取り出した。 「それ、うちが貸した消しゴムやん。もう無くしたんかと思ってた」 「返そうと思ってて、引き出しに入れたままになってた」 「それを渡しに来た

    • 【短編小説】 明日、死ぬかもしれない世界にて 

      「ごめんな」 俺は携帯電話を片手にそう呟いた。 電話口の相手は泣きじゃくった。 こんなつもりじゃなかった。 悲しい思いをさせたくはなかった。 でも、こうするしかなかった。 「これからどうするのよ」 俺は少し黙って「分からない」と答えた。 「死んだら、許さないから」 「分かってる」 そう言って、電話は切れた。 しばらく壁にもたれた状態で立っていた。 大丈夫だ、俺は死んだりなんかしない。 痛みも受け止める。 歓声が鳴り響く中、俺は酒を一口飲んだ。(完)

      • 【ポエム】 だから、ここにいる

        できないことだってある。 理解できることばかりで世界を見て、 顔が見えなければ何でも言える。 そんな世界で生きている。 でも、それは一部にしか過ぎない。 まだ知らないことだってあるんじゃないか。 こうしている間にも誰かは悩んでいて、 夜の静けさの中で泣いている。 だから、ここにいるんだろう。 だから、遠い場所でもすぐに来てくれるんだろう。 「待たせたな」って、顔出してくれよ。 お前が必要なんだ。(了)

        • 【超短編小説】 饅頭を齧る女

          これは旅先で会った女の話だ。 その女は右手に饅頭を持ち、こちらを見ながら饅頭を一口齧った。 まるまるとした白い饅頭であったが、小さい口を器用に動かし、運んでいく。 それは頬張るというよりは齧るが適当であった。 まるで私に見せつけるかのように饅頭を美味そうに食べた。 女は饅頭を食べ終えると「ふー」と息を吐いた。 もう腹が一杯になったに違いない。 そう思った矢先、女は鞄から赤い饅頭を取り出した。 まだ食べるのか。余程、お腹が空いていたのだろう。 女は人目を憚るこ

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        【超短編小説】 消しゴム

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        • ポエム
          31本
        • 超短編小説
          101本
        • 閉じこもりの日々に別れが来るまで
          5本
        • アオハル
          12本

        記事

          【超短編小説】 夜中物語

          夜の静けさが好きだ。 真っ暗で何の音も聞こえない。 でも、だんだんと空は青になっていく。 わたしたちは笑った。 声はガラガラで、 すぐにでも眠りたい。 「明日、声、出ないかも」 「もう、今日だよ」とツッコまれながら、 飲みすぎて、歌いすぎて。 冷たい空気が身体を纏い、意識を保たせる。 こんな日常が続けばいいのに。 「じゃあね」と手を振ったら、 「おやすみ」と返したようだった。 気がついたら、布団の上にいて、 「おはようございます」と言ったスマートフ

          【超短編小説】 夜中物語

          【超短編小説】 形成

          人間はこれまで生きてきた中で経験したことを元に形成されていく。 過去にしがみつき、そして、また新たなものを取り入れ、形成していく。 そう、形成なくして生きていけぬ。 それが私の生き方だった。 積み上げたものを簡単には壊すことなど出来やしない。 そういうジレンマの中にいる。 私を形成するもの。 それは一体、いつから芽生えたのか。 それが私を蝕むようになったのはいつ頃の出来事なのか。 形成という、何とも言い難いものに支配され、 私の血肉となり、刻印のように今も

          【超短編小説】 形成

          【ポエム】 静かに消える。

          消えた。 音も立てずに。 そこにあったものは、すぐに消える。 存在したのかさえ分からず。 静かで、 夢のように見えて、 白い紙には10行ぐらいの文字が並ぶ。 消えて、また新しいものが現れる。 理由なんか分からないだろう。 分からない時点で、終焉を迎える。 油性ペンより水性に近い。 一瞬にして、文字は消えた。 そしてまた、ペンは動く。(完)

          【ポエム】 静かに消える。

          【超短編小説】 リセット

          俺は横断歩道で車にはねられたはずだったが、 「リセット」という女の声がした。 気が付くと、いつもの交差点にいた。 母さんは5年前に亡くなった。 母子家庭だった俺は、母さんがある日、用事もないのにどこかに出掛けて行くことがあった。 ご飯は用意してあり、「夕方には帰るから」と言ったきり、どこに行くのか何も教えてはくれなかった。 母さんが亡くなって以後、不思議なことが起きた。 それは不慮の事故にあっても無傷で生きていたということだ。 しばらくして、俺は雨の日に雷に打

          【超短編小説】 リセット

          【ポエム】 海底に沈む世界

          起きている現実 それを取り巻くもの その渦中にいるもの 明日には変わってしまうかもしれない未来を 私たちは見過ごしているのかもしれない 照らされた明かりは、まぶしく その裏側にある影を 分かったふりして頷いた でも、そうじゃない そうじゃなかったのかもしれない 君が教えてくれた もう一度、時間をくれないか 考えてみるから 海底に沈む世界について(了)

          【ポエム】 海底に沈む世界

          いつもお読み頂き、ありがとうございます。超短編小説ももうすぐ100作目に近づいて来ました。 100作目に向け、また一つ、日々小説を考えたいと思います。

          いつもお読み頂き、ありがとうございます。超短編小説ももうすぐ100作目に近づいて来ました。 100作目に向け、また一つ、日々小説を考えたいと思います。

          【超短編小説】 エルト

          下降して、横に移動する。 私を乗せた"それ"という物は目的なく、 上下に動いては並行移動した。 到達点は何もない。 誰かの指示で動いているというより、 その日の感覚を頼りにとりあえず動いているという印象である。 乗せられている側からすればひどく迷惑な訳だが、 アルファベットのLの字や片仮名のトに近い形で動いていることだけは分かった。 私はそれを「エルト」と名付けた。 エルトはどこへ行くのか。 そして、この世界から私は抜け出せるのだろうか。 突然、ガチャと

          【超短編小説】 エルト

          【超短編小説】 桜でジャンプ

          「ウチらの記念。桜の前でジャンプしよう!」 桜が舞い散る4月、入学式のあの日。 同じ中学に入ったミナと校門にある桜の木の前で写真を撮った。 写真はひどくブレていたが、そこには笑顔の二人が映っていた。 3年後、卒業式。 私は、桜の木の前にいた。 ミナは生徒会長になり、クラスも2年生まで一緒だったが、なんとなく遠い存在になった。 校門の前で桜を眺めていると、ミナがこっちにやって来た。 私は「ミナ」と声をかける。 「どうしたん、こんなとこで」 「ミナ、覚えてる?

          【超短編小説】 桜でジャンプ

          【超短編小説】 GETS

          特急列車に乗っている人を視認できるほど、私の視力は良くない。 凄まじいスピードで通り過ぎる列車の中から、たった1人の人間を判別するなんてことは到底できるはずもなかった。 しかし、警察組織によって極秘に開発された「カメラ機能付き逃走対象者捜索用眼鏡(Glasses for Escape Target Search with camera function)通称:GETS(ゲッツ)」を用いれば、 どんなに速いスピードで走る乗り物であっても特定の人物を捉えることが出来る。

          【超短編小説】 GETS

          【超短編小説】 またひとつ

          「知りたいんだ、君のことが気になるから」 そう言ったものの、僕は何ら分かってはいなかった。 なぜなら、僕は君にはなれない。 どんなに君のことを分かろうとしても、 僕というフィルターを通してしか理解できないからだ。 それは、”解釈”という言葉で表現されるものと等しかった。 そう考えた時、僕は君のことを本当は理解できていないじゃないかと思った。 知ったかぶりをして本質は見えていないのかもしれない。 もし、そうだったとしたら、僕は君のことをいつまでも分かり合えないの

          【超短編小説】 またひとつ

          【超短編小説】 透明人間

          「もしも透明人間になったら、何をしますか?」という質問に思春期の頃の俺なら、邪な考えがいくつも浮かんでいたはずだ。 男子同士で盛り上がり、周りの女子からは《変態》と白い目で見られていたことだろう。 それがどうだろう。 30代半ばになった俺はそういうものにほとんど興味を示さなくなり、 「透明人間になったら豪華客船に乗って、世界中を旅してみたい」というフリーライダーに成り下がった。 そもそも語れるほどの恋愛経験などない。 合コンやマッチングアプリなどで話せるほどの武勇

          【超短編小説】 透明人間

          【超短編小説】 留守録

          「悲しいこともあるわ、生きていたらね」 母さんはそう言った。 「だってそうでしょ。今日も誰かが誰かを思う。涙が溢れることも。どうすることも出来ないことも、仕方がないことも」 「悔しいことも、不甲斐ないこともあるわ」 「そうやって何かを感じながら、また明日が来るのを待つしかないのよ。すぐには消え去らないことでも、誰もがどうにかやり過ごしているのよ」 「私はね、日常にあるそういう言い表せない何かと揺れ動きながら生きていたいと思っているの」 「誰かのために何かを犠牲にす

          【超短編小説】 留守録