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戦略的モラトリアム【大学生活編】(42)

深夜まで実家の自分の部屋に閉じこもり4畳半のスペースいっぱいに熱情を滾らせる。教育実習中の自分には当たり前のことと思われれそうだが、自分の中では革命めいた心境の変化に驚いていた。いや、根っこのトコロは何も変わってはいない。

「目のモノ見せてやる」

そんな反骨精神と安っぽいプライドだけが自分の中に地味に深く食い込んでいた。

「まずは要点をまとめて、unitのテーマを明確にして
……解説と練習、そして考えさせる発展を工夫しながら……」

塾でいつもやっている授業と同じ計画を練る。いつも言われている「お土産を持って帰らせる授業」⇒知識をして何かを持ち帰らせるということ。

きっと、授業計画だけで悩んでいる自分の姿は一昔前の自分が見たら、さも滑稽に映っただろうね。まぁ、心根は変わっていないけれども。

「授業でいかに取り残さないか
授業でいかに満足してもらうか

前者は学校教員、後者は塾講師

受け手にとってはさほど変わりないテーマだろ?」

深夜2時にこの結論に達した。片意地をはった自分が馬鹿らしくなったと同時に強烈な眠気に襲われ、倒れるように眠りについた。

翌日も教育実習継続中。
教育実習中は農道をチャリで爆走。スーツ姿の見慣れない若者が一人。

ババァとジジィの余計な噂話のネタになることは覚悟の上。まぁ、それしかやることのないこのクソ田舎にはちょうどいい話題提供だろう。

そう作業をしながら横目で自分を見つめる老人たちを哀れな目で見返す。

1年1組前・・・・誰も来ない。
おかしいな。
担任の先生であり、自分の指導教官が来ないのだ。
いつまでたっても来ない……

やがて8時になり、他のクラスは朝読書が始まる。
廊下の向こうから教務主任の先生が小走りでやってきた。
「●●先生、今日お休み!悪いけど、朝の学活入って!」
「はい……分かりました」
少し訝しげに自分は答えた。何のことはない。塾での日常をそのまま学校でやるだけだ。
挨拶から健康観察、日直の話、今日の予定など、生徒にほとんどを任せて、自分は耳を傾けるだけで時間がみるみる過ぎていく。

そうかぁ、昨日の計画は無駄になったのか……

ふとぼんやりと窓の外を見ながら、そんなことを考えるうちに体の熱が次第に冷めていくのを感じた。

「あーぁ、今日は授業できねぇなぁ。ゆっくりと自習でもすっかな。大学のレポートもあるし」
職員室の戻ると、教頭やら教務やら何かとざわついている。何が起こったのだろうか。少し難しい話をしていることは後ろからなんとなくわかった。

「あぁ、ご苦労さん。欠席はだれかわかる?」
「あ、はい、今日は全員出席でした」
「あぁ、ありがと、ちょっとまってね」

何だろう?教員同士が集まって、何か話している。普通じゃないことでも起こったのだろうか。自分はただ、職員室の真ん中で話が終わるのを待っていた。


福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》