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映画『クリスタル殺人事件』(1980)鏡は横にひび割れて

こんばんわ、唐崎夜雨です。日曜の夕べは映画のご案内。

本日は1980年のガイ・ハミルトン監督作品
『クリスタル殺人事件〔原題:The Mirror Crack'd〕』です。

1974年『オリエント急行殺人事件』、1978年『ナイル殺人事件』に次いで製作されたのが『クリスタル殺人事件』で、監督ガイ・ハミルトンはこのあとの1982年『地中海殺人事件』も監督をしています。

『オリエント急行…』『ナイル…』に比べると、『クリスタル,,,』はスケールダウンは否めなく、豪華スターの共演もわりと無難にまとまっている。
容疑者たちと探偵の接点がない。警察が探偵の代わりに動いてくれるが刺激的な捜査をするはずもない。推理を楽しむには物足りなさが残る。

原作はアガサ・クリスティのミステリー
『鏡は横にひび割れて〔原題:The Mirror Crack'd from Side to Side〕』。
まったくもってクリスタルと無縁な事件です。

邦題はおそらく1980年に田中康夫の小説『なんとなく、クリスタル』が流行になり、「鏡は横にひび割れて」の「鏡」から連想ゲームでもするかのように名付けられたのでしょう。

アガサ・クリスティのミステリーのファンからすれば残念な邦題ですが、トンチンカンにも慣れてくる。

ちなみに小説のタイトル『鏡は横にひび割れて』はテニスンの詩「シャロット姫」からとられています。

あらすじと老婦人探偵

ミス・マープルが暮らすセント・メアリー・ミード村に大女優マリーナ・グレッグとその夫で映画監督のジェイスン・ラッドが映画の撮影のために滞在するこになった。
映画女優と村人たちとの交流会に来ていたミス・マープルは、ちょっとしたアクシデントで足を怪我してしまい家に帰ることになった。
マープルが帰ってから交流会で事件がおきた。バブコックという地元の女性が亡くなってしまった。直前まで女優マリーナに昔会っていることを喋り続けていたのに。
捜査の過程で、バブコックの死は殺人、しかも誤って殺された可能性があると思われた。それはバブコックが死の直前に飲んでいたカクテルは、マリーナが飲むはずのものだったと分ったからだ。

ミス・マープルの探偵術は自らの足で証言や証拠を集めるものではない。人から聞いた状況を、自身の体験や見聞と照らし合わせるようにして答えを導き出す。
安楽椅子探偵のパターンだ。

イギリスの片田舎に暮らす老婦人の安楽椅子探偵は、小説を読んでいると面白いのだが、映画としては地味かもしれない。主人公が動かない、家から出ないのだから仕方ない。
そのせいか、ポワロに比べて銀幕に登場する機会が少ないように思う。

本作の時代設定は1950年代。映画が娯楽の中心であった時代。
「映画スター」を作品に出演させることで映画らしい華やかさを求めたかな。

これはこれで悪くはないが、せっかくだからイギリスの田舎を舞台にした渋いミステリーも見たい。ロバート・アルトマン監督の『ゴスフォード・パーク』みたいな。
英国の田舎の風景がわりと好きなせいもあるかな。

魅力的な出演者たち

本作でミス・マープルを演じたのはアンジェラ・ランズベリー。
1978年『ナイル殺人事件』にも出演している。そこでは先生みたいなミス・マープルとは対照的に、酒乱の作家を演じていた。
痩身で身長がある。小柄な可愛いお婆ちゃんとは違う。190cmを超えるロック・ハドソンを相手にしても引けをとらない。
彼女の探偵モノといえば1984年からのテレビドラマ『ジェシカおばさんの事件簿』がよく知られている。ジェシカおばさんよりミス・マープルのが先。

ミス・マープルの甥っ子でスコットランドヤードのクラドック警部が登場する。職務上関係者を尋ねるので、ミス・マープルの代わりに手足となる役回り。
これをエドワード・フォックスが演じている。
ガイ・ハミルトン監督の『空軍大戦略』でも若きパイロットで登場。唐崎夜雨が好きなのは『ジャッカルの日』の冷酷な暗殺者。

そして村にやってくる映画関係者たちには凄い顔ぶれがそろいます。
エリザベス・テイラー
キム・ノヴァク
ロック・ハドソン
トニー・カーチス
ジェラルディン・チャップリンなど。

復帰を目指す大女優マリーナ・グレッグ役は、まさに大女優のエリザベス・テイラー。
正直なところを申し上げてそれほど好きな女優ではないし、何度も結婚する私生活のほうに目がいきがちだけれども、彼女のキャリアは素晴らしいものだ。
ちょっと年齢を重ねて恰幅がよくなってきてはいますが、そのぶん存在感は抜群です。

そしてライバル女優ローラ・ブルースター役にキム・ノヴァク。
彼女の映画というと、やはりアルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』が強く印象に残る。
彼女は豊かな胸を強調させるピンクの衣装でリズに負けない存在感を発揮。

このとき二人の年齢をたすと、90以上100未満。

この二人が冒頭のパーティーで、あいさつ代わりに舌戦を披露する仁義なき戦いは見ものです。
私のほうが若いとか、彼女は演技がへただとか、太ってるだの、整形してるだの言わせるのですから、脚本家は命がけです。

ちなみにロック・ハドソンとトニー・カーチスとアンジェラ・ランズベリーは1925年生まれの同い年。

この春からアガサ・クリスティものの映画を見てきているが、やっぱり本も読みたくなってきた。
しばらく読んでいないから、初めてよむような感じで読める。年をとりモノを忘れてゆくことの醍醐味が発揮できます。


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