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エッセイ

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就職できなかった

 22歳の無職は笑えないなどと、芯から思ってもないことをうそぶいているあいだに、おれは23歳になり、24歳になり、とうとう今年の春には25歳を迎えようとしている。25歳の無職、それも何か具体的な目標のある無職ではなく、ただ就職という選択を先送りにしているだけの後ろ向きで消極的な25歳無職は、本当に誰も笑えない。

 2022年の3月に大学を卒業してから、もうすぐ2年が経つ。そうするとつまり、今から

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星野源の音楽と共約不可能性

星野源の音楽と共約不可能性

 科学哲学の分野には、「共約不可能性」という概念がある。もともとは、“いかなる整数比によっても表現することのできない量的関係”を表すための数学用語であったが、人文科学ではしばしば、この「共約不可能性(通約不可能性とも)」という用語が、別のパラダイムを背景に持つ他者との分かりあえなさや、他者理解、共感の限界を示す言葉として使われる。

 そして私は、“共約不可能”という事態について考えるとき、ふと、

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不健康で文化的な最低限の生活

不健康で文化的な最低限の生活

 今年の3月に大学を無内定で卒業した。そのあと二週間ほどの無職期間を経て、今は書店に契約社員(パート)として勤めている。しかし契約社員と言っても、朝から昼過ぎまでの短い勤務で、シフトも週4日ときたものだから、収入は大学生のアルバイトにすこし毛が生えたほどである。

 それでも仕事がないよりはずっとマシで、運よく求人が見つかったことにホッとしている。社会から切断されて、家で一人何もしないでいるという

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駆け出さなくちやあ、間に合はないぢやないか

駆け出さなくちやあ、間に合はないぢやないか

 この3月で、4年間通った大学を卒業した。見事ストレートで大学を卒業し、ストレートで無職になったのである。自分のような人間が高等教育を修了できただけで御の字とはいえ、22歳の無職はなかなか笑えない。

 noteのアカウントを開設して、このエッセイを書いてから、だいたい半年が経った。現状は何も変わっていない。変わったことはただ一つ。おれは「死ぬ」という形の親不孝をやめて、「定職につかない」という別

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「生きてるだけで偉い」をめぐる議論

「生きてるだけで偉い」をめぐる議論

 少し前に、「『生きてるだけで偉い』のミーム化」という題のnoteを書いたところ、有難いことにこれが比較的反響の大きい記事となって、Twitterのリプライや引用リツイートでも様々なご意見をいただきましたので、自分の立場を明確にした上で、改めてこのnoteで考えを整理してみたいと思います。

✱ ✱ ✱

 ・・・・・・と、このあと実際に議論をまとめて、意見を整理して、いくつか本も

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おれと人生とパニック症

おれと人生とパニック症

 初めて発作を起こしたのは小学2年生の夏休みだった。その日は学校の隣にある公民館で小学生対象の「マフィン教室」が開かれていて、おれはそのマフィン教室の参加メンバーだった。朝早く起きて、エプロンと三角巾をリュックに、ドキドキとワクワクを胸にしまって家を出る。トボトボ、テクテク、ウィーン。小学校にはない自動ドアが開いて中へと入る。しかしなぜか、公民館の調理室に入るとすぐにイヤな感じがした。どんどん自分

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