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部長は「姑」ではなく「トップオタ」であるという結論に心から納得したのも束の間、ラスト4分の破壊力がすごすぎて、もう本編の記憶がありません。

拝啓 黒澤武蔵さま


私はずっとあなたのことを誤解していたような気がします。

『おっさんずラブ』といえば春田さんと牧の愛の物語。そんな揺るぎない認識を持つ私にとって、そして包み隠さず言うとゴリゴリの牧モンペである私にとって、部長は腹のよじれるような笑いをくれるチャーミングな存在でありつつも、牧の恋のライバル。3人でソリにまたがっているティザービジュアルに、「3人が帰ってきた!」と歓喜する一方、「春田さんと牧の間に入るな」と大人げない気持ちを抱いたりもしたものでした。

だから、部長の「姑」という自己認識に対しても、その前に「春田さんの昔の男」という過去がちらついてしまい、それこそ「わんだほう」で5杯くらいモヤモヤ丼をかき込まないと消化しきれないモヤモヤが胸でとぐろを巻いておりました。

しかし、第3話を観て、やっと複雑な思いに決着がつきました。

部長、あなたは「姑」ではありません。春田さんと牧の強火担だわ。なんならむしろこっち側。同担です。

最初はね、ちょっと穿った目で見ておりました。春田さんと和泉の不意打ちキスを目撃した部長。これぞまさに『家政婦は見た』状態の部長は春田さんと和泉、そして牧と武川さんのW昼顔不倫を疑い、証拠写真までばっちり押さえます。その姿を見て、「あ〜! もう! 春田さんと牧の間にいらん火種をつけようとしている〜!!」と、なんなら敵視していた。「2人の幸せを邪魔するやつは何人たりともワシが許さん!!!!」と、顔の作画が原哲夫先生みたいになってた。

けれど、それは僕の浅慮でした。

春田さんも牧も不倫などしていなかった。誤解が解けた部長は、突然子どもみたいに泣きじゃくる。

「春田と牧が幸せでさえいてくれたら、それでいいんだからさ」

そして流れるスキマスイッチの『Lovin’ Song』。そう、部長の行動はすべて2人の幸せを願ってのもの。もはやそれは「姑」でもなければ「実家の親」でもない。部長こそが春田さんと牧のいちばんの味方。いわば、僕たちの代表者ーーつまり、「トップオタ」だったのです。

春田さんと牧のTOは部長。こう解釈すると、これまで胸を塞いでいたモヤモヤも雲散霧消。なんならもはや部長が長年の友達みたいに思えてきた。今なら部長とオタ会だって開きたい。そこで春田さんと牧のいいところを10個挙げるゲームとかやりたい。

春田さんと牧の間に割って入ったソリの写真も、トップオタだと思えば、チェキ会で推しに挟まれたオタクのそれに見えてきた。なんならめちゃくちゃ微笑ましいわ。

部長が家政婦として春田さんと牧の家に出入りするという設定も、トップオタならもはやこれは『家政婦は見た』ではなく『ミワさんなりすます』です。徳尾さんが脚本だったのは、この伏線だったのか…!(違います)

推しの寮母になりたい、というオタクの夢をちゃっかり実現した部長のことを、これからはオタクの神として崇め奉りながら引き続き応援してまいりたいと思います。


と、ここまで書いてなんなのですが、正直、もはや本編43分の記憶はほとんどねえ。ラストの4分強の破壊力にすべて抹消させられてしまいました。

なんだかんだで一件落着し、一緒にわたあめをつくる春田さんと牧。一緒にわたあめを食べるのは、4年前の花火大会以来。インサートされる浴衣姿の2人の写真だけで、積み重ねてきた年月の長さにグッと来ていたのに、そこからの会話がわたあめより甘すぎた。

「俺と牧ってさ、どっちから好きになったんだっけ?」

現在開催中の『おっさんずラブ展』でも掲示されていたこの台詞。正直、大抵の視聴者は「それは牧でしょう」の一択だと思っているはずです。が、まさかのご本人は「春田さんでしょ」の一言。さすがにあれだけ片想いしていて、その自己認識は牧のメンタルが太すぎる。

確かにそう言われてみると、1期の第1話。営業所にやってきた牧を見つめる春田さんの目は「恋が始まっている目」と言えなくもない。春田さん自身が自覚するのが遅かっただけで、実は出会った頃からずっと牧に惹かれていたという説も十分成立するし、なんならそれはそれでめっちゃ楽しい。

ただ、これは個人的な解釈ですが、「春田さんでしょ」の前に牧は一旦間を置いてるんですよね。あの間は、照れ隠しの間だと見ました。自分から好きになったのは牧も承知の上。ただ、それを堂々と認めるのが癪だから、あえて「春田さんでしょ」と無茶を言ってみた。そして、そんな誰が見てもわかる大ボラを通せるのは、今、牧がそれだけ春田さんに愛されているという自信があるから。

あれは、そういう「春田さんでしょ」だった気がします。

たとえ付き合っても「春田さんは本当に俺でいいんですか」と疑り深かった牧が、春田さんからの愛をまっすぐに信じられている。その成長に、涙が出そうだった。まだ3話だけど、もうこれだけでリターンズをやってくれたことにお釣りが出るくらいだった。


しかし、この感動はまだほんの序の口だったのです。

「これからはさ、悩みとか弱さとか全部牧に見せて、甘えん坊将軍でいくから」と宣言する春田さん。その上で、武川さんとの関係について嫉妬はすると本音を見せる。

春田さんのいいところは、嫉妬はするけど束縛はしないところ。放任にされすぎても、愛されているのか不安になるもの。かと言って、ガチガチに交友関係を制限されたら息苦しい。信じているけど嫉妬はしてるよ、というこのスタンス、回答としては満点すぎて、今後あらゆる恋愛のHow To本に掲載されるべき。わかってはいたけど、春田さんは無自覚の魔性。どんなに長く一緒にいても、何回でも新鮮にまた恋におちる魅力を春田さんは持っている。

そんな春田さんに牧が言う、「今回、俺も嫉妬しましたよ」と。

そして、そこからの突然のキス……!!!! これはあれです、少女漫画で10000回見た「俺のキスで上書きさせてやるから」というやつです。1期の「うっせーなと思って」からの口封じキスといい、牧は作画は萩尾望都なのに、中身は新條まゆなのよ。

唇が離れたあとも、2人は目を離さない。「甘」「ベタベタ」が完全に恋人同士の会話。もはや完全に、我々は何を見せられているのか案件。そして今度は春田さんから唇を近づける。歴戦のオタクたちはもうこの時点でよくわかっている。春田さんからいく場合、そのキスはカットアウトされると。

その黄金の法則通り、シーンは玄関へ。チャイムに急かされるように2人は来客を出迎えにいく。一体このタイミングで邪魔するのは誰??? Amazonだったら置き配しとけよ!!!!! と心の底から悪態をついた僕を笑うように、いちばん決定的なそれがさりげなく地上波にさらされたのでした。

半纏の紐を結び直す春田さんと、唇を拭く牧。






世界よ、これが日本人の得意な「余白」というやつです……!!!

たぶんこの「余白」だけであと70000年は生きられる。たとえ人類が滅びても、次なる生命体に、春田さんと牧の愛を語り継ぐ生き証人になれる自信がある。


とりあえずこの第3話である種のフォーマットができたと思うんですよ。いろいろドタバタしつつも、ラスト5分、春田さんと牧のイチャイチャがあれば、すべてまるくおさまる。

ある種、『相棒』の「花の里」みたいなもの。『はぐれ刑事純情派』の眞野あずさみたいなもの。

そうやって賑やかな毎日にアタフタしながらも、その日あったことをゆっくりと語らう。それこそが、一緒に生きるということなのです。

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